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7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


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第205話:店を守るということ

残されたものを守ることと、その意味を理解することは、同じではありません。


大切に保管してきた写真があっても、そこに写る人の思いまで分かるとは限らない。


父の店を受け継いだ店主もまた、答えの見つからない問いを抱えています。


優斗が帰ったあと、店主は自分が守ってきたものについて考えます。

優斗が帰ったあと、靴屋には静かな時間が戻ってきた。


 店主は、作業台の上に置いた靴を手に取った。


 いつもの仕事だった。


 傷んだ部分を確かめ、必要な手入れをして、また誰かが履けるようにする。


 靴は、持ち主がどこを歩いてきたのかを、言葉では教えてくれない。


 けれど、使い込まれた革や、すり減った底には、その人が歩いてきた時間が残っている。


 店主は、手元の靴をしばらく眺めてから、布を動かし始めた。


     *


 父がこの店を守っていた頃、店主は、父の仕事を特別なものだとは思っていなかった。


 靴を直す。


 客の話を聞く。


 頼まれたことを、できる限りきちんとやる。


 それが父の仕事だった。


 店を継いでからも、その考えは変わらなかった。


 けれど、父が残したものを見つめ直すようになってから、少しだけ分からなくなったことがある。


 どうして父は、あの老人の写真を残していたのだろう。


 どうして、写真の裏にあの言葉を書いたのだろう。


 そして、なぜ今になって、優斗という青年がその写真と出会ったのだろう。


 答えは、まだ見つかっていない。


 父が何を考えていたのか。


 あの老人と、どんな時間を過ごしていたのか。


 店主には、分からないことばかりだった。


 以前なら、父が残したものを調べれば、いつか答えが見つかると思っていたかもしれない。


 だが、優斗と話すようになってから、少し考え方が変わった。


 写真に残っているのは、写っている人の姿だ。


 言葉に残っているのは、誰かが書き記した思いだ。


 それだけで、その人が何を考えていたのか、すべて分かるわけではない。


 本人が話してくれなければ分からないこともある。


 本人に尋ねても、答えが返ってこないことだってあるだろう。


 それでも、知りたいと思う気持ちまで、手放す必要はない。


     *


 店主は、店の奥へ目を向けた。


 父が使っていた道具は、今も大切に保管してある。


 すべてを残せるわけではなかった。


 仕事に使えなくなったものもあれば、古くなって処分したものもある。


 それでも、残すと決めたものは、できる限り手入れを続けてきた。


 父の代から続く店だから、というだけではなかった。


 ここには、父が客と向き合ってきた時間がある。


 誰かが困って訪ねてきたことも、直した靴を受け取って笑顔で帰っていったことも、店主自身が見てきた。


 父がどんな人間だったのか。


 それは、残された写真や道具だけで決まるものではないのだろう。


 父と関わった人たちの記憶にも、それぞれの父がいる。


 そう考えると、優斗が老人に会いたいと思っている理由も、少しだけ分かる気がした。


 優斗は、写真の答えだけを求めているわけではない。


 あの日、自分に声をかけてくれた人が、どんな思いでそうしたのかを知りたいのだ。


 店主もまた、父が何を思っていたのかを知りたい。


 二人が知りたいことは違う。


 それでも、分からないままにしておきたくないという気持ちは、どこか似ていた。


     *


 店主は作業を終え、靴を棚に戻した。


 店内を見渡す。


 今日も、いつもと変わらない店だった。


 ここで誰かが靴を直し、誰かが新しい靴を選び、誰かが次の場所へ歩いていく。


 店主にできるのは、そのための仕事を続けることだ。


 父が残したものの意味を、今すぐすべて理解することではない。


 分からないからといって、何もかもを疑う必要もない。


 ただ、分からないことがあると認めたうえで、目の前の仕事を続けていく。


 そして、いつか答えを知る機会が訪れたなら、そのときはきちんと耳を傾けよう。


 店主は、店の入口へ目を向けた。


 優斗がまた訪ねてくるかもしれない。


 あの老人が、ふいに姿を見せる日もあるかもしれない。


 どちらも、約束された未来ではなかった。


 それでも、この店を閉ざす理由にはならない。


 店主は入口の扉を確かめ、仕事に戻った。


 父が残したものを守るということは、過去の形をそのまま留めることだけではないのだろう。


 この店で生まれた出会いが、これから先の誰かへ続いていく。


 その可能性を、なくさずにいること。


 今の店主には、それもまた、店を守るということに思えた。

今回は、優斗を見送ったあとの靴屋の店主に焦点を当てました。


優斗が知りたいのは、あの日、老人が声をかけてくれた理由。


店主が知りたいのは、父が残したものに込められた思い。


二人の問いは違いますが、どちらも、誰かの人生を自分の想像だけで決めつけず、本人の言葉や残された時間と向き合おうとしています。


答えは、まだ見つかっていません。


だからこそ、次に誰かが訪ねてきたとき、この店が変わらずそこにあることにも意味があるのだと思います。

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