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7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


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第204話:待つあいだにできること

会いたい人がいる。


その人に聞きたいことがある。


だからといって、再会できる日まで、自分の時間を止める必要はないのかもしれません。


誰かの言葉を待つあいだにも、目の前には出会いがあり、今日という一日があります。


優斗は、いつもの日常の中で、小さなことに気づき始めます。

靴屋を出てから、優斗はいつもよりゆっくり自転車を走らせていた。


 老人に会えるかどうかは、まだ分からない。


 店主は伝言を引き受けてくれた。

 自分が会いたがっていることも、いつか聞きたいことも、届くかもしれない場所に残してきた。


 今の自分にできることは、ひとまず終わった。


 そう思うと、少しだけ肩の力が抜けた。


 けれど、気持ちが軽くなったからといって、老人への思いまで薄れたわけではなかった。


 あの日、国道で声をかけてくれた人。


 自分がどんな人間なのかも知らないはずなのに、立ち止まってくれた人。


 どうして、あのとき声をかけてくれたのか。


 その答えを知りたい気持ちは、変わらなかった。


 ただ、答えを待つ時間まで、止めてしまう必要はない。


 優斗はペダルを踏み直した。


     *


 交差点の手前で、自転車を止めた。


 歩道の端に、一人の若者がしゃがみ込んでいた。


 足元には、鞄からこぼれたらしい紙やノートが散らばっている。


 風に押された一枚が、車道の方へ滑っていった。


「あっ……!」


 若者が手を伸ばす。


 優斗は自転車を降り、先にその紙を拾った。


「これ、落ちましたよ」


「あ、ありがとうございます!」


 もう一枚、少し離れたところにノートが落ちていた。


 優斗が拾って渡すと、若者は申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません。急いでたら、鞄の口が開いてたみたいで……」


「大丈夫ですよ。ほかにはありませんか?」


「たぶん、これで全部です」


 若者は、受け取った紙を一枚ずつ確かめた。


 大事な書類なのだろう。

 折れた端を伸ばし、なくなったものがないか、何度も確認している。


 やがて顔を上げた。


「本当に助かりました。これ、なくしたら困るものだったので」


「間に合ってよかったです」


 優斗はそれだけ答え、自転車に戻った。


 特別なことをしたつもりはなかった。


 目の前に落ちていたものを拾っただけだ。


 それでも、若者がほっとした顔をしたことは、なぜか心に残った。


     *


 家に帰ると、拓海が食卓のそばにいた。


「おかえり」


「ただいま」


「今日はどうだった?」


 優斗は荷物を置きながら答えた。


「うん。靴屋の店主さんに、お願いしてきたよ」


「そうか」


 拓海は、それ以上を急いで尋ねなかった。


 優斗が自分から話すのを待ってくれている。


「おじいさんが来たら、僕が会いたがっているって伝えてもらうんだ。いつ来るかは分からないけど」


「それでいいんじゃないか」


「うん。僕にできることは、やってきたと思う」


 口にしてみると、自分でも少し不思議だった。


 老人に会いたい気持ちは変わらない。


 けれど、今すぐ答えが分からなければ何もできない、という気持ちではなくなっていた。


「父さん」


「ん?」


「誰かを待ってるときって、待ってることばかり考えちゃうものなのかな」


 拓海は少し考えた。


「どうだろうな。会いたい人がいるなら、気になるのは当然だと思うぞ」


「そうだよね」


「でも、待っているあいだにも、毎日は続いていくからな」


 拓海は湯飲みを手に取った。


「その人に会えたとき、話したいことが増えていたっていいんじゃないか」


 優斗は、父の言葉をゆっくり受け止めた。


 会えないあいだに、何も変わらずにいる必要はない。


 老人に聞きたいことがある。


 それは変わらない。


 けれど、次に会える日まで、自分にできることもある。


 今日、道端で紙を拾ったことも。


 父とこうして話していることも。


 自分の人生を、自分の足で進めていることも。


 どれも、誰かとの出会いの中にある。


「……そっか」


 優斗は小さく笑った。


「会えたときに、ちゃんと話せる自分でいたいな」


「なら、今までどおり過ごせばいいんじゃないか」


「うん」


     *


 夜、自分の部屋に戻った優斗は、窓の外を眺めた。


 遠くから、車の走る音が聞こえてくる。


 国道は、今日もそこにある。


 あの日と同じ場所に、同じ姿で立っているわけではない。


 自分はもう、あの日のように人生が終わったと思って、道端に横たわっているわけではなかった。


 あの老人が、今どこにいるのかは分からない。


 写真の裏に残された言葉が、どんな思いから書かれたものなのかも、まだ分からない。


 それでも、いつか答えを聞ける日が来るかもしれない。


 その日まで、優斗は歩き続ける。


 誰かが自分にしてくれたことを、忘れないためだけではなく。


 自分もまた、誰かに手を差し伸べられる人間でいるために。


 優斗は窓を閉め、部屋の明かりを消した。


 明日も、いつもと同じように朝が来る。


 その当たり前の時間を、今は大切にしたいと思った。

優斗は、老人に会うための伝言を託しました。


再会の約束ができたわけではありません。それでも、答えを待つことと、自分の人生を歩くことは、両立できるのだと少しずつ気づいています。


誰かから受け取った優しさは、特別な場面だけで返すものではないのかもしれません。


何気ない日常の中で、目の前の誰かに手を差し伸べること。


その小さな積み重ねもまた、優しさの続きを作っていくのだと思います。

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