↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/38

第203話 届くように残したもの

会いたい人が、どこにいるのか分からない。


そんなとき、できることは限られているのかもしれません。


それでも、何もせずに諦めるのではなく、いつか思いが届くように、小さな準備をしておくことはできます。

人を探すというのは、ただ歩き回ればいいというものでもない。


 優斗は自転車を走らせながら、そんなことを考えていた。


 老人に会いたい。


 それは、もう決まっている。


 けれど、どこにいるのかも分からない相手を、やみくもに探しても、すぐに見つかるとは限らなかった。


 会えなかったら、どうするのか。


 その答えを、今の優斗は持っていない。


 ただ、何もできないと決めつけるのも違う気がした。


 優斗はペダルを踏む足を緩めた。


「……もう一度、店主さんに相談してみよう」


 老人と先代をつなぐものがあるとすれば、あの靴屋も、その一つだ。


 写真を見せてもらった店。


 先代の息子である店主が、父親の残したものを守っている場所。


 そこへ行けば必ず老人に会える、というわけではない。


 それでも、自分一人で考えているより、できることがあるかもしれなかった。


 優斗は進路を変えた。


     *


「こんにちは」


「おう、優斗君。今日はどうした?」


 店主は作業台から顔を上げた。


「少し、相談したいことがあって」


「相談?」


 優斗はうなずいた。


「もし、あの人がまたこの店に来たら、僕に連絡をもらうことってできますか?」


 店主は、すぐには答えなかった。


 優斗の顔を見てから、ゆっくりと口を開いた。


「もちろん、来たことが分かれば知らせるよ。ただ、いつ来るかは私にも分からない」


「はい。それは分かっています」


 優斗は慌てて首を振った。


「すぐに会いたいから、何とかしてほしいということじゃないんです。いつか来たときに、僕が探していることを伝えてもらえたらと思って」


「なるほどな」


 店主は小さくうなずいた。


「連絡先を教えておいてくれれば、そうするよ」


「ありがとうございます」


 優斗は連絡先を伝えた。


 それだけだった。


 老人の居場所が分かったわけでもない。


 いつ会えるのか、約束ができたわけでもない。


 それでも、何もせずに待っているのとは少し違った。


 自分が会いたいと思っていることを、相手に届くかもしれない形にして残せた。


「……これで、一つできました」


 優斗がそう言うと、店主は少し不思議そうな顔をした。


「一つ?」


「はい。会えるかどうかは分からないけど、会えたときにつながるものが一つできたので」


 店主は、しばらく優斗を見ていた。


 やがて、口元を緩めた。


「君らしい考え方だな」


「そうですか?」


「ああ。答えを急ぐより、できることを一つずつやる。悪くないと思うよ」


 優斗は照れくさそうに笑った。


「僕も、そうできたらいいなと思っています」


 店主は、作業台の上に置いてあった靴へ視線を戻した。


「私も、父のことを知りたいと思っている。けれど、分からないことを全部、今すぐ知ることはできないからね」


「はい」


「だから、何か分かったら教えてくれ。私も、あの人が来たら君のことを伝えておく」


「お願いします」


 優斗は、深く頭を下げた。


     *


 店を出ると、空は少し明るくなっていた。


 優斗は自転車のそばで立ち止まり、店の看板を振り返った。


 ここに、老人の写真が残されていた。


 その写真を残した先代の思いは、まだ分からない。


 老人が今、どこで何をしているのかも分からない。


 けれど、分からないからといって、すべてを諦める必要はなかった。


 できることをする。


 誰かの言葉を待つ。


 そして、いつか話を聞ける機会が訪れたら、そのときはきちんと耳を傾ける。


 それでいい。


 優斗はポケットに手を入れた。


 そこに、黒糖飴が入っているわけではない。


 それでも、あの日にもらった一粒が、自分の中に残してくれたものは、今も消えていなかった。


 誰かが声をかけてくれた。


 その出会いが、自分をここまで連れてきてくれた。


 だから今度は、自分からも一歩を踏み出したかった。


「……また来ます」


 誰に聞かせるでもなく、優斗はつぶやいた。


 それから、自転車にまたがった。


 探している人に、まだ会えるとは限らない。


 けれど、会いたいと思っていることを、届く場所に残すことはできた。


 小さな一歩だった。


 それでも、何もできないと思っていた昨日より、確かに前へ進んでいた。

優斗は、まだ老人に会えていません。


それでも、会いたいという気持ちを、自分の中だけにとどめず、届くかもしれない形にしました。


出会いは、いつも自分の思いどおりに訪れるわけではありません。


だからこそ、訪れたときに、その出会いを大切にできるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。