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7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


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第195話 足元に残るもの

誰かの事情を、すべて知ることはできません。


それでも、目の前の人と向き合うことはできます。


先代が残した言葉を胸に、優斗は「分からないこと」と、どう向き合うのかを考えます。

 靴を渡す相手は、まだ決まっていない。


 それでも、優斗は以前より少しだけ、先代の残した言葉を理解できるようになった気がしていた。


 理由を聞く前に、その人の足元を見る。


 人は、歩けなくなった理由を、いつも言葉にできるわけではない。


 その言葉は、誰かの事情を勝手に想像しろという意味ではないのだろう。


 きっと、目の前にいる人を、見た目や言葉だけで決めつけないでほしいということなのだ。


 優斗は自分の足元へ目を落とした。


 履き慣れた靴。


 歩き始めた頃には、これからどこへ向かえばいいのかさえ分からなかった。


 それでも、今は違う。


 行き先が分からなくても、立ち止まったままでいる必要はない。


「……俺も、歩いてきたんだな」


 思わず口にすると、少し照れくさくなった。


 あの日、国道の脇で目を覚ました自分。


 何もかも終わったと思い、誰にも関わってほしくなかった自分。


 あの老人が声をかけてくれなければ、どうなっていたのだろう。


 考えても、答えは出ない。


 ただ、あの人は自分の事情を知らないまま、声をかけてくれた。


 そして自分も、あの人の事情を知らないまま、黒糖飴を取り返した。


 お互いに、相手の人生を変えようなどとは考えていなかった。


 だからこそ、あの出会いは特別だったのかもしれない。


     *


 優斗はロードバイクを押し、靴屋へ向かった。


 店に着くと、店主が作業台の前で革を整えていた。


「こんにちは」


「おう。今日はどうした?」


「少し、考えていたことがあって」


 優斗は店の奥に目を向けた。


 先代が残した靴箱。


 その中にある靴と、一枚の紙。


「先代は、どうしてあの言葉を残したんでしょうね」


 店主は手を止めた。


「まだ考えていたのか」


「はい。考えれば考えるほど、簡単には答えられなくて」


「そうだろうな」


 店主は無理に答えようとはしなかった。


 その沈黙が、今の優斗にはありがたかった。


「でも、少し分かった気がするんです」


「ほう?」


「誰かを助けたいと思っても、自分が助けたい方法が、その人にとって必要なものとは限らないんですよね」


 店主は静かに頷いた。


「そういうこともあるだろうな」


「だから、先代は靴を渡す前に、その人の足元を見てほしいって書いたのかなって」


「かもしれん」


 断定はしなかった。


 先代の本当の気持ちは、今となっては分からない。


 店主も、そこを勝手に埋めようとはしなかった。


 優斗は、その姿を見て少し笑った。


「店主さんも、答えを決めつけないんですね」


「知らないことを、知っているふりはできんからな」


 何気ない言葉だった。


 けれど、優斗の胸には深く残った。


 知らないことを知らないと言う。


 分からないことを、分からないまま大切にする。


 それもまた、誰かの思いを守る方法なのかもしれない。


「ありがとうございます」


「だから、礼を言うようなことじゃないって」


 店主は苦笑した。


 優斗も笑った。


 以前なら、答えが見つからないことを不安に思っていた。


 何かを知らないままでいることが、いけないことのように感じていた。


 でも、すべてを知ることはできない。


 人の人生も、思いも、出会いの意味も。


 それでも、向き合うことはできる。


 相手の話を聞くことはできる。


 自分の考えが間違っていたと気づいたら、立ち止まって考え直すこともできる。


 それだけは、忘れたくなかった。


     *


 店を出ると、国道にはいつものように車が流れていた。


 優斗はロードバイクのハンドルを握り、ゆっくり歩き始めた。


 ポケットの中には、黒糖飴がある。


 靴屋には、まだ渡す相手の決まっていない靴がある。


 そして、古い写真の裏に残された言葉も、まだ答えを待っている。


 なぜ、あの老人と先代は知り合いだったのか。


 なぜ、写真には「黒糖飴を持った子へ」と記されていたのか。


 その言葉が、自分に何を伝えようとしているのか。


 優斗には、まだ分からない。


 けれど、分からないからといって、意味を急いで決めるつもりはなかった。


 いつか、確かめられる日が来るかもしれない。


 来ないかもしれない。


 それでも、今できることはある。


 目の前にいる人を、ちゃんと見ること。


 相手の気持ちを、自分の都合で決めつけないこと。


 そして、誰かから受け取った優しさを、自分のところで終わらせないこと。


 優斗は、足元を見た。


 自分の靴が、道の上に影を落としている。


 その一歩一歩が、ここまで続いてきた。


 母から受け取った記憶。


 老人との出会い。


 父と再び向き合えた時間。


 これまで出会った人たちの言葉。


 どれか一つでも違っていたら、今の自分はいなかったかもしれない。


 けれど、過去を変えることはできない。


 できるのは、受け取ったものを抱えて、これからを歩いていくことだけだ。


「……焦らなくていいんだよな」


 優斗は小さく呟いた。


 靴を渡す相手は、まだ決まっていない。


 写真の意味も、まだ分からない。


 老人と先代の間に何があったのかも、知らないままだ。


 それでも、いつか答えにたどり着くために、無理に誰かを当てはめる必要はない。


 必要なのは、答えを作ることではなく、出会った人と向き合い続けることなのだろう。


 国道の先に、道は続いている。


 優斗はハンドルを握り直した。


 今日もまた、一歩。


 その小さな一歩が、いつか誰かの歩き出すきっかけになるかもしれない。


 今はまだ、それを知らなくてもいい。


 優斗は前を向き、ゆっくりと歩き出した。

お読みいただきありがとうございます。


今回は、先代が残した言葉と、優斗自身が歩いてきた道を重ねました。


分からないことを、想像だけで埋めない。

相手の気持ちを、自分の都合で決めつけない。


その姿勢もまた、優しさの一つなのだと思います。


靴箱に残された靴と、古い写真の言葉。

まだ答えは出ていませんが、焦らず、これまでの出会いとつながる形で描いていきます。

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