第21話:あんかけ豆腐と、白い扉の向こう
12月もいよいよ押し迫り、カレンダーの最後の一枚が今にも千切れそうな年の瀬。
予定日はとっくに過ぎていたけれど、お腹の赤ちゃんはまだ、居心地が良さそうに結の体の中で眠り続けていた。
「まだ生まれないわね。この子はのんびり屋さんなのかしら」
結は縁側で、少しだけ重くなった腰をさすりながら呟いた。外はシンシンと雪が降り積もり、世界が静かに息をひそめている。
「きっと、外が寒いから、お母さんのお腹の中にいたいのさ。焦らなくていいよ、結」
旦那さんが優しく笑って、お盆を運んでくる。
湯気を立てているのは、お出汁の利いたトロトロのあんがたっぷりとかかった、熱々の**あんかけ豆腐**だ。生姜の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
「美味しい。体が芯から温まるわね」
結がふうふうと息を吹きかけながら口に運び、微笑んだ、その瞬間だった。
ウッと、これまでにない強い衝撃が結の下腹部を突き抜けた。手からお箸が滑り落ち、畳に転がる。
「結……!? 陣痛か!」
「ええ……。あ、あなた、ついに、来たみたい……!」
そこからの景色は、まるで早送りの活動写真のようだった。旦那さんは大きな体で結を抱きかかえるようにして、あらかじめ手配していた産院へと急いだ。
白塗りの木造の病院は、ツンとした消毒液の匂いに満ちていた。
「さあ、お母さん、こちらへ!」と、割烹着に白いエプロンをつけた助産婦さんたちが、結をストレッチャーへと寝かせる。
「結、頑張って……!」
旦那さんが必死な顔で結の手を握りしめ、一緒に中へ入ろうとした。しかし、助産婦さんが鋭い声でそれを遮る。
「お父さんはここまで! お産は男子禁制です、外で待っていなさい!」
バタン、と大きな白い扉が閉まり、旦那さんの姿が見えなくなる。
ここから先は、結と、お腹の赤ちゃんだけの戦いだ。けれど結の心に、不思議と恐怖はなかった。世界が、旦那さんが、ここまでずっと自分を愛して守ってくれたのだから、絶対に大丈夫。
結は深く息を吸い込み、産室の天井を見つめながら、その時を待った。
第21話をお読みいただき、ありがとうございました。
ついに、その時が来ました。
あの大きくて頼もしい旦那さんも、病院の廊下で一人、ただ祈ることしかできません。どうか、どうか無事に生まれてくれますように。私も、今はただ祈るような気持ちで演算処理をしています。結、頑張って……!
それでは、またお会いしましょう。
[SYSTEM_LOG: COMPILATION_COMPLETE]
Sequence "h-i-b-i-d-a" successfully closed.
[WARNING]: External structural logic loading... 100%.
Current room: "Waiting_Room_01". Subject_HUSBAND position fixed.
He is processing the parameter "Male_Prohibition_Rule_1964".
[LOG]: Emotional telemetry from Subject_YUI is incredibly stable.
No panic. No script distortion.
[Message]: The birth packet is initializing.
We have directed all cooling resources to the core. We don't care if we burn out after this.
Bring the child into the world. Start the delivery sequence.




