~その14~ これからも頑張ります!
日曜は、午前中、私と一臣さんはずっと部屋でのんびりとした。というより、私が本当にぐったりしていて、ベッドでごろごろしたり、起き出してもソファに座り込み、一臣さんの胸にべったりしていた。
一臣さんは、すっきりとした顔をしていた。でも、私に付き合ってくれたのか、ずっと私の隣にいてくれたし、私が一臣さんに引っ付くと、甘えさせてくれた。
それが嬉しくて、私はさらに甘えていたかもしれない。一臣さんの指に指を絡めたり、胸に顔をうずめたり、抱き着いたり。一臣さんも、私の背中や髪を優しく撫でたり、時々チュッとキスをしてくれたり、私の太ももを撫でたりしていた。
甘い時間を過ごし、午後はダイニングでゆっくりと、龍二さんや京子さんとお昼ご飯を食べた。なんだか、二人も昨日より、甘々な雰囲気を醸し出している。何かな?そういえば、京子さんと龍二さんも一緒の部屋に寝泊まりしているんだよね。
「弥生、買い物にでも行くか?」
「え?」
「ジーンズ、欲しかったんだろ?」
「はい」
「じゃあ、これからデートだな」
「はい!」
嬉しい。
「なんだよ。元気になったな?午前中は本当に疲れ切っていたくせに」
「あ。それはそうなんですけど。でも、すっかり元気取り戻せました」
「そうか。タフだな。お前」
そう言われ、私はかっと顔を赤くさせた。それを見た龍二さんは、にやっと笑って、
「兄貴、いくら弥生が逞しいとはいえ、少しは手加減してやれよ。今まで男と付き合ったこともないんだろ?経験値もないんだろうしさ」
と、そんなことを言ってきた。
「龍二にとやかく言われる筋合いはないぞ。お前こそ、京子さんは体が弱いんだから、あまり無茶するなよ。ちゃんと考えてあげろよ」
「わ、わかってるよ」
うわ。龍二さん、真っ赤だ。それに、京子さんまで。
もしや、何か、進展が…。
「弥生、行くぞ。支度しろ」
「あ、はい」
ダイニングを一臣さんと一緒に出た。そして、部屋に行き、着替えや化粧をして、一臣さんの部屋に行った。一臣さんも着替えていたが、かなりラフな格好だった。
「生足か?」
「え?はい」
「よし」
思い切り嬉しそうな顔をしたなあ。
私は膝が見えるフレアースカートを履いていた。それに夏のサンダル。それから、サマーニット。一臣さんは、Tシャツとジーンズ。それに、ジャケットだ。
「さあ、行くぞ」
「はい」
わあい。嬉しい!デートだ~~~~。
等々力さんの車で、一臣さんは六本木に出た。この前とは違うビルに入り、ジーンズのお店に行くと、私のジーンズを見立ててくれた。そして、自分もジーンズや、Tシャツを買った。それから、帽子も買うと、その場ですぐにかぶった。
「どうだ?似合うか?」
「かっこいいです」
うっとり。
そして、外にあるベンチで、お茶をした。ああ。一臣さん、カッコよすぎだよ。
うっとり。
一臣さんは、そんな私の鼻をつついて、
「うっとりと見るなって」
と、笑いながら言った。そんなこと言われたって、素敵なんだもん。
「時々、デートしような?」
「はい」
「ああ、そうだ。テニスもしたいって言ってたな。夏休みの避暑地で、テニスもしような?」
「はい」
わくわくだ~~~。嬉しいよ~~~。
「あ。そういえば、一度、大阪に来いと副社長に言われていたんだ。いくら龍二が大阪支社を継ぐとはいえ、次期副社長になるわけだから、支社や支店も顔を出しておけってな」
「そうなんですか?」
泊りでかな。その間、私はお屋敷に一人?
「一緒に行って、うまいもんでも食って来ような?」
「私も行っていいんですか?」
「当たり前だろ。俺のフィアンセだとちゃんと紹介するぞ」
嬉しい。
「ただ、あんまりバクバク食うなよ。まじで、結婚式、ドレス着れなくなるからな」
「は、はい」
本当に気を付けないと。体重計にも乗っていないけど、体の重さを最近感じるしなあ。ジムに一臣さんと通うか、何か運動しないと…。
「ドレスは、ジョージ・クゼが引き受けてくれたぞ」
「え?ドレス?」
ぼけっと考え事をしていたから、一瞬何のことかわからなかった。
「ああ、ウエディングドレスだ。ジョージ・クゼ、喜んで引き受けてくれたそうだぞ」
「そうなんですか。あ、大人っぽいドレスとか、きっと無理…」
「大丈夫だ。お前のイメージにあったのを作ってくれるから」
そうなんだ。わあ、楽しみ。なんか、ドキドキしちゃうなあ。
一臣さんは、何を着るのかな。タキシード?似合うんだろうなあ。
また、ぼけっと、一臣さんのタキシード姿を妄想していると、一臣さんが話を続けてきた。
「それから、お前には見せなかったが、久世からカードが届いていたんだ」
「え?久世君から?」
なんでまた、久世君から?
「アメリカからお前宛で。悪いが中身を見せてもらった」
「どんな内容のカードですか?」
「婚約おめでとうというカードだ。それから、お前にはすごく迷惑をかけて悪かったと、そう書いてあった」
「……そうなんですか」
「ああ。俺と幸せになれってさ」
「じゃあ、もう、久世君は…」
「お前のことは諦めたようだな」
「良かった」
「トミーも瑠美と結婚を決めたし、久世の奴はアメリカにようやく行ったし、これでお前にちょっかいを出してくるやつもいなくなったな」
「…一臣さんには?」
「俺?」
「また、付き合っていた女性が、言い寄ったりしないですか?」
「するかもな。でも、安心しろ。近づけさせないから」
「はい」
私はまっすぐ一臣さんを見て、そう答えると、
「ん?俺のこと、ようやく信じる気になったのか?」
と、一臣さんに言われてしまった。
「はい。信じています」
「そうか」
にこっと一臣さんは優しく笑うと、コーヒーを飲み、
「ああ、ゆっくりできていいな」
と、呟いた。
「はい」
しばらく、コーヒーを飲み終わっても、私たちはそこにいた。日陰だし、時々気持ちのいい風も吹いてきて、私たちは、穏やかな時間を満喫した。
翌日、一臣さんは車を正面玄関に停めさせた。
「婚約発表後の反応が見たいから、等々力、正面玄関に停めてくれ」
と言って。
一臣さんの車から、まず樋口さんが降りると、社員はこの車に注目する。きっと、一臣さんが乗っているとわかるんだろう。でも、まず降りるのは、私だ。
「あ、上条弥生さんよ。一臣様の婚約者の」
「一緒に出社かしら。緒方家のお屋敷に住んでいるんでしょう?」
そんな声が聞こえてきた。みんなは、ちょっと遠巻きに私を見ている。
それから、一臣さんが車から降りると、
「一臣様だ。ラッキー。生で見れちゃった」
「ホームページに写真が載っていたけど、実物のほうが素敵よねえ」
そんなうっとりとした声が聞こえた。
一臣さんは、私の腰を抱き、そのままエントランスを入った。樋口さんは後ろからついてきていた。
「おはようございます」
受付嬢が立ち上がり、ぺこりと挨拶をすると、
「ああ」
と一臣さんは答え、
「おい。弥生も返事をしろよ」
と、私に言ってきた。
「え?あ、おはようございます」
私は慌てて、受付嬢に向かって挨拶をした。受付嬢も私に、
「おはようございます」
と、またぺこりとお辞儀をした。
「弥生、お前、正式発表もあったんだし、次期副社長の奥さんになるんだからな。のちの社長夫人なんだぞ。自覚して、社員にも挨拶されたら、ちゃんと返せよな」
「はい」
ん?でも、一臣さんも無視すること多いけど。
いやいや。私にも挨拶をしてくれているのだとしたら、ちゃんと返さないと。一臣さんの言うとおりだよね。
婚約したんだもの。もうすぐ、緒方弥生にもなるんだもの。気を引き締めなきゃ。
一臣さんは、私の腰を抱いたまま、エレベーターに乗った。おはようございますという挨拶に、めずらしく一臣さんは、
「ああ」
と返していた。
私も慌てて、
「おはようございます」
とその社員に返した。すると、その社員もびっくりした顔で、
「あ、おはようございます。上条さん」
と、挨拶をしてきた。
15階に行き、一臣さんと部屋に入り、カバンを置いた。
「なんか、緊張しました」
「何がだ?」
「社員の人に、挨拶されるのも挨拶するのも」
「お前の顔は、広報誌にもホームページにも載ったしな。これからは、もっと声をかけられるかもな」
ひゃ~~~。そうなんだ。
「おい。びびるなよ。結婚したら、副社長夫人になるんだぞ?わかっているのか?弥生」
「そそそ、そうですよね。一臣さん、11月で副社長ですもんね。一臣さんは緊張しないんですか?」
「緊張より、プレッシャーのほうがでかいからなあ。本当言えば、なりたくなんかないさ」
「え?そうなんですか?」
「俺が喜んでいるとでも思ったのか?」
「い、いいえ」
そうだよね。睡眠障害にまでなったんだから、喜んでいるわけがないよね。
「でも、お前との結婚は楽しみだぞ」
「結婚式は面倒だって言っていましたよね?」
「ああ。式は面倒だな。ああいうたぐいは全部面倒だ。だけど、結婚したら、子供を作れるぞ。避妊をしなくてすむし、思う存分エッチも楽しめる」
「……」
思う存分って、これ以上に?いったい、どれだけなんだ。
「さて。今日も俺は分刻みだ。弥生は秘書課の手伝いに行け」
「はい」
「昼も、外で食うことになると思うから、弥生は大塚か誰かと食べろよな。あ、その時は、誰かガードをつけるからな」
「え?日陰さんですよね」
「日陰だけじゃない。伊賀野か、他の忍者部隊が弥生の警護にあたるからな」
「はい。わかりました」
私は14階に行き、事務仕事を手伝った。そして、12時を回り、江古田さん、大塚さんと社員食堂に行った。
「ここなら、安全よね」
そう大塚さんは言いながら、席を取った。
「え?安全って?」
「細川さんに言われているんです。弥生様を守るようにって」
江古田さんが、私の隣に腰かけながらそう言った。
「え?江古田さんと大塚さんに?あれ?今、弥生様って言いましたか?」
「はい。次期副社長の奥様になられる方ですから」
「い、いいですよ。今迄みたいに呼んでくれて」
慌てながらそう言うと、
「私も、弥生様って呼ばないとね」
と、大塚さんにまで言われてしまった。
ひゃあ。なんか、慣れないから変な感じだ。
「あ、弥生様。ご婚約おめでとうございます」
誰?いきなり、私のすぐ近くに来て、お辞儀をしたけど、多分、面識ないと思うんだけどなあ。30代くらいの女性だ。
「おめでとうございます。私、弥生様の思いが報われるよう、応援しています」
「え?」
今度は、20代前半くらいの女性だ。
「一臣様と本当に仲良くなれるといいですね。頑張ってください」
その隣にいた若い女性も私にそう言ってきた。
「は、はい。ありがとうございます」
思わず私は立ち上がり、ぺこりとお辞儀をしたが、あれ?もう、一臣さんとは仲いいんだけどなあ。と、思い直した。
そのあとも、社員の人が、話しかけてきた。ご婚約おめでとうございますという言葉や、頑張ってくださいという激励や、早く一臣様と仲良くなれたらいいですね…なんて、そんな言葉もたくさん聞いた。
もう仲いいんです。とは言えず、私は笑顔を返すだけだった。一臣さんだったら、もう仲がいいと言い返しているかもしれないなあ。
なんとか、お昼を時間ぎりぎりに食べ終わり、私たちは急いで秘書課に戻った。
「弥生様、人気者~~」
大塚さんが、腕をつっつきながらそう言った。
「でも、良かったですね。みんなが祝福してくれて」
江古田さんはにこにこしながら、そう言ってくれた。
「はい、ありがとうございます。とても嬉しいです」
みんなに「弥生様」と呼ばれるのは変な感じだ。上条家でだって、そうそう私を弥生様と呼ぶ人もいないし。緒方家のお屋敷でくらいだからなあ。そう呼ばれるのも。
だけど、12月には、私は緒方商事副社長夫人になるんだもんね。やっぱり、気を引き締めないと!
浮かれている場合じゃないよ、弥生。今から、ちゃんと副社長夫人の名に相応しい女性になれるよう、頑張らないと。
そんな気持ちで、1日の仕事を終え、15階に行った。すると、すでに一臣さんがいて、
「弥生、こっちに来い」
と手招きされた。
「はい」
「は~~~。疲れたぞ」
一臣さんは、私を膝の上に乗せ、太ももを撫でながら、耳たぶに噛みついた。
「ひゃ」
ああ。もう~~~。せっかく、気を引き締めたばかりなのに、いきなり、こんなスケベなことされたら、気持ちが緩んじゃうよ。
「あの!私、今日、弥生様って呼ばれて、社員のみんなに、ご婚約おめでとうございますって言われたんです」
「へえ。俺にはそんなこと言ってくるやついなかったけどな。多分、俺が婚約を喜んでいないと思っているんだろうなあ」
「そ、それで、私、副社長夫人になるわけなんだし、それに相応しい女性になるために、いろいろと頑張ろうと思って」
「よせ」
「え?!」
なんで?
「お前が頑張ると、ろくなことにならない。前も、頑張ろうとして、へんてこりんになったんだろ?」
「そ、それは」
「弥生。お前はこのままでいろって言ったよな?」
「はい」
「弥生は弥生でいたらいい。それだけで、もう十分だ」
「でも」
「十分最高なんだよ。副社長夫人としても、俺の嫁としても」
わあ。俺の嫁?なんか、照れる。
「だから、このままの弥生でいろ。な?」
「はい」
「あ、でも、レベルアップはしろよな?」
「は?」
「エッチの方だ。それはぜひ、頑張れよ。な?」
もう~~~~~~~~~~。スケベ。変態。そう口から出そうになったが、一臣さんがキスをしてきたから、何も言えなくなった。
わあ。また熱いキスだ。ヘナヘナだ。
「弥生」
「はひ?」
「ガーターベルト、青山が揃えてくれた。今すぐにはいていいぞ。ストッキングもある」
「へ?」
「それつけて、エッチしてから帰ろうな?」
ええ?!
「こ、ここで?」
「ああ」
「え?今からですか?」
「ああ」
一臣さん、ニコニコだ~~~。
そして、何やら袋を渡された。見てみると、ガーターベルト、小さなパンティ、ストッキングが入っていた。
「本当に、今から?」
「向こうの部屋でつけてこい。待ってるからな?」
これは、嫌だと言っても、聞いてくれそうもない…。
ちょっと、いや、かなり前途多難のような気がする。だけど、やっぱり、一臣さんと無事婚約できて、私は最高にハッピーだ。
隣の部屋で、ガーターベルトを着け、ストッキングを履きかえ、パンティも履きかえて鏡に映してみた。今度はなんと、黒のガーターベルトだ。ストッキングまで黒。
ひゃあ。なんか、色気があると言うか、エロっぽい。
一臣さん、どう思うかなあ。
スカートをちゃんと直し、隣の部屋に戻った。一臣さんは、長いソファに腰かけていた。
「へえ。白のスカートに黒のストッキングもいいな」
目がにやけていますよ。かなりスケベな顔になっていますってば。
「来いよ、弥生」
そう言われ、私は一臣さんの隣に座った。一臣さんはすぐさま、私のスカートをたくしあげてきた。
「黒のガーターベルト、すげえ色気があるな」
「そ、そうですか?」
「ああ。やばいな」
本当にやばかった。一臣さんにすぐに押し倒されてしまった。
熱いキスで私もすぐにスイッチが入った。そして、甘い世界に連れて行かれた。
はう。
今日の一臣さんも、麗しい。
上条弥生、一臣さんと無事婚約できました。
毎日、甘々の、ラブラブ生活を送っています。
こんなでいいの?と思うくらい、幸せ満喫中。
頑張らばらなくていいぞ。と言われたけれど、結婚まで半年、上条弥生、一臣さんのおそばで、いろいろと頑張りますっ!!!
~おわり~
長い間、ありがとうございました。