汝自身を知れ
背筋に寄生する寒気。
その身の毛もよだつ感覚に、しばし放っておいた僕の思考が動き出す。
どれだけ声を張り上げても、体が動かない——まあ、当然のことか。
あの高さからでは、誰であろうと生きてはいられないだろう。
焦燥——それは時間が逆流するかのような、狂ったように鳴り響く心臓の鼓動。
地上との、完全な隔絶。
押し寄せる喪失感。もう何にも触れられないということ。
そして——屈辱感。
ああああ——、僕は、最も情けない選択をしてしまった。
何一つ成し遂げたこともないくせに、
無駄に高い、高すぎる妄想に取り憑かれて、
惜しい命を捨ててしまったのか。それなら、辞世の句くらいは格好よく詠んで逝けばよかったものを。
だが、残骸も同然の僕には、無用な美辞麗句など似つかわしくない。
だとすれば、ここは僕に最もふさわしい場所。
きっと、地獄なのだろう。
おぞましい偽善者であり落伍者である僕に、救いの門が開かれることなどないのだから。
おそらくここは審判の場。
汚水の中から汚水をふるい分ける場所だ。
だとすれば、地獄の剣が僕の首を貫くまで——
今日という日を振り返ってみることにした。
まともに吸えない息を吸い込みながら。
突発的な行動、追放、無論理に満ちた自己弁護と嫌悪、そして——今。
自分の行動に後悔などない——と信じたい。
取り返しのつくもの、取り返しのつかないもの。
もう何だっていい。
まだ読んでいない漫画が、見ていないドラマが、
そしてこれから世に出る、数多の名作たちから、僕はあっさりとレールを外れてしまった。
振り返れば、やりたかったこともたくさんあった。
中途半端に歴史にハマる前は、
野球選手にもなりたかった。
かっこいい事業を興して、CEOにもなりたかった。
平凡な会社員になれたらそれでいいとも思っていた。
いっそ気合を入れて、歴史をきちんと勉強して大学に進んでいたら、
もっとましな人生を送れていただろうに。
どうして、こんなことになってしまったんだろう。
——父さんと母さんは、今頃何をしているだろうか。
僕がいない人生のほうが、言いたくはないけど、きっと幸せだろう。
『お母さん、お父さん。ごめんなさい。
来世では、二度と僕と出会わないでください』
何度も、何度も心の中で叫んでみる。
それでも離れない、血肉への恋しさ。
その時、山で見たあの光が、目の前に姿を現した。
かすかな一点にすぎなかった光は、闇を押しのけるように、あるいは受け入れるように。
分裂しては、また一つに合わさることを繰り返しながら、その勢力圏を急激に広げていった。
光は隅々まで僕の肉体に染み込んでいく。
肺腑を貫かれるような感覚。違和感が痛覚を刺激する。
——やがて光が視界を支配した時、捉えたのは鼓膜が破れそうな悲鳴。
その悲鳴は、僕を追い立てた———光の中への消失へと。
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腹部に加えられた痛みが、瞳孔をこじ開けた。
目に飛び込んできたのは、夜空を彩る星座。
星々は、一片の虚しさも許さぬかのように、
五方の色に輝いていた。
その姿は、あまりに美しくて、再び息が止まりそうだった。
どうやら生きて戻ってきた僕のために、神様が祝宴を開いてくれたのではないか、とすら思った。
少しだけ笑えるようになった。
夜でも明るく輝く現代では、星座を見るのは非常に難しい。
だからこそ、昔の人々は星座に物語をつけたのではないだろうか。
特にギリシア神話では星座が重要な意味を持つ。
英雄譚、悲劇、まあそういったもの、大抵は神や英雄たちの物語にちなんで名付けられるのだが、
僕はあえて興味を持てなかった。
真の英雄ならば、神の助けなど必要ないのだから。
吹いてくる風は、暖かかった。
『僕は、まだ生きているんだ』
生き延びたという安堵感。
だがそれは瞬く間に落胆へと変わっていった。
おそらく、体中どこも無事なところがないだろう。
一週間、いや、一ヶ月は病院にいなければならないはずだ。
こんな有様では、両親に再び顔向けできない——
「うぅっ」
言葉がまともに出てこない。しかも、声も細くなっている。
どうやら脳のどこかが損なわれてしまったに違いない。
だが、いくら両腕で体を探ってみても、傷は見つからない。
出血も、痛みも。
それに、体が軽くなった感じがする。
いや、軽くなった程度ではない。
——両手を視界に引き寄せた。
限りなく小さな手——ミニトマトのように小さな両手。
『どういうことだ?』、と思った。
再び顔を上に向けると——
そこにあったのは、
緑色の月だった。
そうだ。
月が、いや、月のように輝く丸い物体は、僕をまっすぐに照らすこの物体は、
エメラルドのようにきらめく、緑色に輝いていた。
認知的不協和。
残りの人生をすべて病院で過ごす覚悟を決めながら、
僕は両脚を思い切り振って、全身を支えていた岩から解放された。
軽やかに着地した僕は、すぐ横の水たまりに膝をつき、
浮かび上がる形をじっと覗き込んだ。
僕を見つめ返していたのは、赤い目をした子供。
「め、目が!」
心臓の叫びは、声にならない。
髪は銀色と茶色が絶妙に混ざり合い、風の舞に合わせて揺れる。
浅黒かった肌は、澄んだ小麦色に変わっていた。
ニキビも顔のシミもない、真っ新な子供の顔。
まだ「可愛い」や「格好いい」の域には達していないが、
シャープな顎のラインと幾何学的な鼻筋には、将来性がある。
——僕は今、突然何の話をしているんだ。
そもそも、僕の姿はなぜこんなことになっている?
そして、一体何が起きているんだ?
「あああああああああ—————」
と、悲鳴を上げること数十回。
喉はすでに枯れ果てていた。
おそらく、かなりの時間が経っていることだろう。
僕はずっとパニック状態のまま、
その場に座り込んでしまった。
涙が視界を遮る。
まさか、そうなってしまったのか? それなら僕は今——
いや、そんなはずはない。
ああ、頼む、僕自身よ、頼むから、現実を直視してくれ。
それでも理性の命令に逆らう、肉体的な直感。
直感は告げる。
ここは、日本でも、外国でも、神話の中の世界でもない日本でも、外国でも、神話の中の世界でもない——
その瞬間、草むらの中から叫び声が聞こえてくる。
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