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淫魔と幼女  作者: 南野 雪花
第4章 ロリババア、過去の因縁に決着を付ける
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第26話 お屋敷の朝


 バカじゃねーの! バカじゃねーの! ほんっとあいつらってバカじゃねーの!!


 ラシュアーニの屋敷の居間にある六十五型のでっけーテレビ画面を見ながら、俺は吠え続けていた。


 防疫研究所とやらに乗り込んだ翌日のことである。

 朝のワイドショーに登場したモリールトとハッシュルトは、こともあろうに美咲(みさき)のことを、大切な女性とか理想の女性とか運命を感じるとか言い放っちゃったのだ。


 バカですか?

 あんなんでも、人気のロックシンガーなんですよ。

 RENとAgileって芸名でイフリートってユニットを作っていて、ミリオンヒットもいくつも飛ばしてるんです。


 そんな二人が口を揃えて大切な女性、なんて宣言しちゃったら、美咲の立場はどうなるのさ。


「すっかり有名人じゃのう。これでは大学まで手が回るのも時間の問題じゃろうな」


 苦笑の美鶴である。

 両手でおひつを持って厨房から食堂へ移動中、俺の叫びを聞いて居間に顔を出したらしい。


 イフリートの二人をトリコにした美人女子大生。

 いかにもマスコミが食いつきそうなネタである。


「あさめしじゃぞ。アゾールト。いつまでもそんなくだらぬテレビを見ているでない」

「はーい。お母ちゃん」


 テレビを消し、美鶴の手からおひつを受け取って横に並ぶ。


 べつに重そうとかとう感じではなかったけど、女性に荷物を持たせるわけにはいかないからね。

 男女同権論者が目を三角にして怒りそうだけど、むしろこんなのは当たり前の行為だろう。


 荷物を持つ、並んで歩くときは車道側、電車やバスなどの段差のある乗り物から降りるときには手を貸す。

 わざわざ宣言する必要すらない。

 人間族でも夜魔族でも男性体の方が身体が大きく、頑丈にできてるんだからね。


 こんな言い方をすると、虚弱な男だっているとか、守ってもらいたい女ばっかりじゃないとか反論する人がいる。

 それはまったくの正解、であると同時に、まったく筋違いなのだ。


 ○○な人もいる、というのを言い出すときりがないから。

 一般論を語るときには特殊論を交えるべきではない、というのは、どっちかっていうと常識の範囲なんだけどね。とくに日本人はごっちゃ混ぜにする人が多いよね。


 まあ簡単にいうと、子供はカレーが好きだから給食にカレーを出すことにしよう、という議題があったときに、カレー嫌いな子供だっているよって反論は意味がないってこと。

 カレー嫌いな子供がどのくらいいて、生徒数に占める割合とかがちゃんと判っているならまだしも、誰それは嫌いって言ってた、とか、俺は嫌いなんだよね、とかいうのは、そもそも論ではないんだ。


 全体としてだいたいこんな感じって把握するとき、一人一人の特性を見るってのはちょっと間違ってるんだよね。


 逆に、その人のことだけを考えるときに、社会全体がどーこーっていうのも間違ってるし、他人と比較するのも間違ってるんだ。


「そんなご大層な理屈をならべんでも、持ってくれたことに感謝しておるぞ。アゾールトや」


 こてんと小首をかしげる美鶴。


「いやあ。言っとかないと、性差別だとか喚く人がいるかと思ってさ」

然様(さよう)か」

「さらっと流されるのも悲しいものがあるなあ」

「そなたはわしになにを求めておるのじゃ?」

精気(リビドー)

「ブレぬのう」

「いんきゅばすだもの。あざを」


 くだらないじゃれ合いをしながら食堂に入る。

 すると、十人くらいは座れそうなテーブルの一角で、美咲がでろーんと死んでいた。





「へんじがない。ただのしかばねのようだ」

「生きてるわよ!」


 怒った。

 俺の高度なジョークは理解してもらえなかったようだ。


「ホクトくんは、高度って言葉を辞書で引いたら良いと思うよ」

「我が辞書に高度の文字はない」

「遊んでないでとっとと食うのじゃ。いつまでも片付かぬぞい」


 茶碗にご飯をよそいつつ、美鶴が苦笑する。

 本日の朝食は、ご飯、あさりの味噌汁、たけのこの土佐煮、焼き鮭だった。

 ああ……滋味が染み渡るぜ。


「その様子じゃと、美咲もテレビを見たのじゃな」

「もう大学いけないよう」


 言って、携帯端末を見せる。

 ぶぶ、ぶぶ、と、連続して駆動音が鳴っていた。

 いわゆる、通知が止まらないって状態だ。


「顔にはモザイクがかかってたのにな。もう特定されてんのか。おそるべし特定班」


 くくく、と俺は笑う。

 人の迷惑をかえりみず、渦中の人物や場所を特定して、その情報をネットに流す人々のことだ。


 もちろん公的な機関に所属して、仕事としてやっているわけではない。

 当然のように、百発百中ではないため、まったく関係のない人物を槍玉にあげてしまうこともある。

 訴訟になったとかいう噂も聞くんで、まあロクなもんじゃないよね。


「他人事だと思ってぇ……」


 美咲の恨み節だ。

 だって他人事だもの。


「ま、しばらくは屋敷に引きこもるこのが正解でしょうね。それにしても、ホントに精気が含まれてるのね。この食事」


 感心しつつ、ラシュアーニが美咲を慰める。

 事態が落ち着くまで我が家と思って逗留して良い、と。

 俺のマンションの五十倍くらいあって、しかもメイドとかがいるような屋敷に。


 気分はお嬢様だ。

 まあ、ラシュアーニは姫君だけどね。


「良いんですか? 七星(ナナセ)さん」

「人の噂も七十五日っていうからね。そのくらい隠れてたら沈静化もするでしょう」

「それは前期試験が終わってしまいます。留年してしまいます」


 嘆いている。

 仕方ないね。

 モリールトとハッシュルトに会えたことに浮かれて、不用意なことをしちゃったから。

 留年どころか、退学処分まであると思うよ。俺としては。


「大丈夫大丈夫。そうなったら私の会社に入れば良いわ。いきなり課長職とかにしてあげるわよ」


 無茶な勧誘をするラシュアーニ。

 こいつのところって、一応は大企業だからなぁ。


 けど、最初から役職持ちとか、大盤振る舞いすぎる。

 間違いなく美咲の精気が目的だな。


「栄養課長とか、そんな感じ」

「目的を隠すつもりすらなかった!」

「サキュバスたちとイチャイチャするだけの簡単なお仕事です」

「美咲が過労死しそうじゃの」


 くすくすと笑いながら、美鶴がラシュアーニの差し出した茶碗におかわりをよそった。

 快楽死というのは、なかなか珍しい死に方ではある。


「イチャイチャするだけで大企業の課長……地道に就職活動なんかするよりずっと……」


 そしてぶつぶつ言ってる美咲であった。

 揺れてる揺れてる。

 悪魔族の持ちかける取引にたぶらかされてる善良な農民みたいだ。


「で、風祭のことは、なにか判ったか? ラシュ」

「判ったことは判ったけど、全容にはほど遠いわね」


 肩をすくめてみせる。

 どうにも一つ上の存在のことしか知らされていないらしい。それなりの幹部っぽい足立でも。

 徹底しているな。


「一度アメリカ軍に解体させられてるからの。一気に全容を掴まれないようにしておるのじゃろう」


 じゃが、と、美鶴が微笑する。


「上役が知れたならそれで充分じゃろう。順番に叩いてゆけば、いずれはトップにたどり着くからの」

「そうだね。まま」


 美胡も同様の表情を浮かべた。

 怒りよりも凄みのある笑み、というやつである。

 徹底的に追いつめ、狩り尽くすつもりなのだろう。


 もちろん俺に反対する理由はない。

 相棒のやることだもの。全力で協力するさ。


「ただまあ、手伝えるのは夜だけになっちゃうけどね。昼間は探偵の仕事があるから」


 これもまた仕方がないことではある。

 浮気調査とかそういう仕事は断れるけど、猫探しはそういうわけにもいかないからね。


 飼い主たちにとって、愛猫がいない一日は一年にも相当するだろう。

 一刻も早く家に戻してあげないといけないんだ。


「そなたはなにを言ってるのじゃ? アゾールトは。わしの復讐など本業のついでに決まっておろう」


 ついでって言っちゃったよ。この幼女。

 

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