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淫魔と幼女  作者: 南野 雪花
第4章 ロリババア、過去の因縁に決着を付ける
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第27話 マスコミうぜぇ


 風祭の残党を追うのは、通常業務が終わったあとということになった。

 あくまでも探偵の仕事がメインである。

 ゆーて、浮気調査とかは時間もかかるし面倒くさいので、受けるのはペット探しがメインになるだろう。


「ようするにいつも通りということじゃな」

「はっきり言うなよ。かなしくなるから」


 きゃいきゃいと騒ぎながら事務所へ向かう。仕事で使う車は、昨夜のうちにラシュアーニの部下が事務所から持ってきてくれた。

 至れり尽くせりである。


「とはいえ、マンションからなら歩いて五分もかからぬのに、わざわざ田園調布から車通勤とは、いささかバカバカしくなるのう」


 まったくそのとおりだ。

 大学にも行けず、屋敷でゲームでもしているしかない美咲に比べたら、まだしもな境遇ではあるが。

 とはいえ、事務所までマスコミの手が回ってしまったら、俺たちも似たような状態になってしまう。


「美咲とアゾールトの関係は家主と下宿人程度のものじゃが、そこにすらゲスの勘ぐりをするのがマスコミというものじゃからの」

「繋がりはほぼないから、大丈夫だとは思うんだけどね」


 と、思っていた時期が俺にもありました。


 なんと。

 事務所の前に数人のマスコミ関係者がいたのである。


「ちょっと信じられないくらいの情報網だなぁ」

「ゴシップへの食いつきは刑事事件より良いものじゃからの。近隣住民の口もよく滑ったのじゃろうよ」


 やれやれと肩をすくめる美鶴だった。


 さて、どうしたものかな。

 あいつらを突破しないと事務所には入れないし。


 なにを話しかけられても無視するってのが一番の手なんだけど、こっちは美鶴と美胡を連れてる身だからなあ。

 あることないこと書かれちゃう可能性はあるよね。幼女ふたりはべらせてたら。ていうか普通に事案だよね。


 となると魅了しちゃうしかないか。

 昨日の今日だし、きついなあ。

 精気的な意味で。


 けっこう大盤振る舞いで使っちゃったたからね。


「アゾールト」

「ぱぱ」


 美鶴が右手を、美胡が左手を差し出した。

 おてて繋いでお散歩しよう、という意味ではもちろんない。精気を吸収しろってことなんだけど、できるかな?

 美鶴はともかくとして、美胡が精気なんて発散できるんだろうか?


「色欲は、そりゃ無理じゃろうがの」


 小首をかしげた俺に、美鶴が笑ってみせる。

 美胡も微笑した。

 ふわりと暖かい精気が、両手から流れ込んでくる。


「これは……親愛か……」


 家族を大切に思い、慈しみ、守りたいと願う精気だ。

 性欲ほどではないけれど、しっかりと俺のなかに力が蓄えられてゆく。


 うん。

 これは悪くない。





風凪(かぜなぎ)美咲さんの関係者の方ですか!」


 姿を見せた俺に、さっそくマスコミがマイクを向けてくる。

 そしてその瞬間、彼らはへなへなと床に座り込んだ。

 フルパワーで放出されている魅了の力を受けて。


 老若男女を問わずだが、女性の方がより効果が高いのは、昨夜と同じである。

 たとえばラシュアーニなどがやった場合には、まず男性がメロメロになるのだ。


「失礼。先を急ぎますので」


 そんな彼らにかまうことなく、すすーと事務所に入ってしまう。

 ビルの廊下がむんむんの精気に満たされる前に。

 そんなところにいたら吐いちゃうもの。


「よくテレビで見かける女子アナも交じっておったの。あんなに腰砕けにしておいて手も出さぬとは、アゾールトも罪な男じゃの」


 苦笑する美鶴。

 手を出さないんじゃない。出せないんだよ。

 有名人だからってわけじゃないけど、どんなジャンルでも一定の成果を出してる人って、良質な精気を持ってるからね。


 芸能でもスポーツでも文学でも起業でも。

 成功してみせるぞ! ていう意志の力こそが精気だもの。

 そんな強い精気を浴びたら、大ダメージですわ。


「アイドル歌手などでもダメなのかや? 最近はずいぶんと年齢の低いアイドルもいよう」

「美鶴くらいの歳のアイドルならいけると思うけど」

「八十四歳のアイドルは、そう滅多に存在しないじゃろうよ」

「そっちじゃねえよ」


 実年齢じゃなくて外見年齢の話だ。


 美鶴の見た目は七歳くらい。旧日本軍の風祭機関とやらに連れて行かれたのは六歳のときである。そのときから肉体的には歳を取っていない、あるいは極端に老化が遅くなったと考えられる。

 長命種なみにね。


 で、俺はそのくらい年齢の子供の精気しか食えないわけだが、普通に考えて、そんな年齢でえろいことを考えるわけがない。

 かりに淫夢を見せたってぽかーんですよ。


 理解できる美鶴が特別なわけで、もし精気をもらうとしたら、さっきの美胡みたいな親愛の精気くらいしかない。

 でもあれは、彼女が俺のことを家族だと思ってくれているから放出されたんだよね。


 見ず知らずのお兄さんに親愛の情を抱く、なんてことがあるわけがないから、他のお子様からはもらえないのである。 


「怒りの精気などでも良いのじゃろ? 怒らせれば良いではないか」

「そんな趣味の悪いもん食いたくねーよ。食えないわけじゃないけどさ」


 一部の悪魔族には、人間の悪感情をエサにする連中もいる。

 怒りとか悲しみとか嫉妬とか恐怖とか、そういうやつだ。


 俺たち夜魔も、そういう感情が爆発するときに発散する精気を吸収することはできるんだけど、そこまで悪食なやつは見たこともないよ。

 食べれはするけど美味しくないってわかりきってるし。


「それ以前の問題として、小さな子供に悪感情を抱かせるなんて恥知らずな真似したくないよ」

「そなたが児童虐待などするような外道ではない、と、再確認できて幸いじゃよ」


 皮肉な笑いを浮かべる美鶴だった。

 俺としても肩をすくめるしかない。そもそも人間族じゃないんだからDVだの児童虐待だの、あるわけがない。

 まったく理解に苦しむ人間族の習性だもの。


 たしか、児童虐待の七割くらいまでが実母によっておこなわれてるんだぜ。 

 ドラマなんかでは継母にいじめられるってのが定番だけどね。実際は自分の腹を痛めて産んだはずの母親が虐待するケースが圧倒的ら多いんだそうだよ。

 わけがわからんよね。


「とはいえ、ここまでマスコミが押しかけてくるとは困ったの。わしらのことはともかくとしても依頼人に迷惑をかけてしまうぞい」

「外の連中に帰れと命じても無駄だろうしね」

「うむ。違う人材がやってくるだけじゃ。上司にとってみれば末端のスタッフなど使い捨ての駒にすぎぬからの」

「勤め人のつらいところだね」


 上役の命令には逆らえない。

 もし逆らうなら辞表を叩きつける覚悟がないと。


 で、普通はそんな覚悟を決められるわけがないから、他人に迷惑をかけまくって取材をおこなうわけだ。

 そうやって出世して、自分が命令を下す立場になったら、部下たちに同じことを強要する。


 良心が摩耗していくのか、恨みをぶつけているだけなのかは判らないけどね。

 やれやれと両手を広げる俺だった。


 こうなった以上、やっぱり探偵の仕事は休むしかない。

 事務所にくる依頼人がマスコミに囲まれる、なんて事態だけは避けないと。


「やむをえぬな」


 美鶴がふうとため息を漏らす。

 こっちも腹を探られたくないしね。

 俺も美鶴も美胡も、人間族にはあんまり正体を知られたくないから。


「良い方に考えるしかあるまい。風祭の残党を追うのに集中できる、と」

「そうだね。切り替えよう」


 とはいいつ、互いの瞳に映る自分の姿は、ずいぶん不本意そうな表情をしていた。

 ほんと、面倒くさい連中だよ。マスコミってのは。






 留守番電話に、しばらくの間休業する旨のメッセージが流れるようにセットして、事務所をあとにする。


 廊下では、さきほどのマスコミ関係者が醜態を晒していた。

 自慰にふけるもの、乳繰り合うもの、ちょっとした色欲地獄って感じである。


「この人たちはなにをしてるの? まま」

「見るでない美胡。バカが感染する」


 とは、幼女たちの微笑ましい会話である。


 とりあえず俺としては彼らの様子を携帯端末で撮影し、捨てアカウントでSNSに流しておいた。

 マスコミ各社は身内の恥を隠すのに必死になって、そしたら俺たちへの取材攻勢が沈静化するかもって期待を込めてね。


 それとも、簡単にトカゲの尻尾切りをしておしまいかな。

 どっちでも良いけど。


「そんじゃいきますか。最初のターゲットのところに」


 俺に言葉に、美鶴がこくりと頷いた。


「自衛隊の多賀谷(たがや)陸将じゃな」



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