夜の訪問
「ほい。」
大和は酒のチェイサー代わりに冷えたスポーツドリンクを、葵に手渡す。
「お、さんきゅー。」
受け取ったスポーツドリンクを、葵はここっとわずかに音を立てながら一気に飲み干した。喉元の嚥下する動きが生々しく、触れてみたくなったのは内緒だ。
「おいしー。」
葵は息を吐くようにペットボトルから、口を離す。唇の端から少し零れそうになるスポーツドリンクを手の甲で拭った。
「じいさん!寝るなら、布団に行きな!」
祖母が祖父に声をかける。葵と同量の酒を飲んだ祖父は赤い顔をして、いびきをかいていた。座布団を枕に完璧に寝落ちしている。
「…葵ねえちゃんって、酒に強いよな。」
顔色一つ変えずにけろっとしている葵を見て、大和は恐ろしいものを見るかのように呟いた。祖父も酒に強い印象だったが、葵はいとも容易く酔い潰した。
「夜のキャストしてんだから、多少はねー?」
葵は町にある唯一のスナックで、ホステスをしていた。今夜はスナックのママの所用で、店自体が休みだという。
夜の10時を過ぎてテレビの番組がバラエティーからニュース番組に切り替わるタイミングで、葵は立ち上がった。
「帰る?」
「うん。」
「送ってくわ。ばあちゃーん。」
台所で洗い物をしていた祖母に声をかけ、二人は連れ立つ。祖母は帰りかける葵を捕まえて、タッパーを持たせた。
「これな、残った天ぷら。冷めても卵とじにしたら美味しいから、持ってきなさい。そうだ、白いご飯はあるの?」
「もらっていいんですか?いやーん、助かる~。あ、お米はあります!」
「いいの、いいの。めんつゆのお礼。」
嬉しそうに葵はタッパーを抱える。この人懐っこさも、彼女のホステスとしての強みになっているのだろう。
「じゃ、行こうか。」
「そだね。おばあちゃん、ごちそうさまです。」
またおいで、という祖母に手を振って、葵は大和と一緒に自身の家路に着く。
「文太、ちょっと太った?」
道すがら猫の文太を思い出して、大和は葵に問う。
「そうかもね。あいつ、世渡り上手だから。そこかしこで、ごはんもらってるよ。」
どうやら地域猫を堪能しているようだった。
玄関の鍵穴に鍵を差し込み、ガチリ、と音を立てながら捻る。葵は振り返って、大和を見た。
「ちょっと寄ってく?」
「いいの?」
少しでも期待していたとはいえ、それを気取られないように大和はわざと首を傾げて見せる。
「いいよー。」
玄関の引き戸を開けて、葵は大和を迎え入れるのだった。




