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法医学 宮内暦の事件簿  作者: 泉水遊馬
CASE2 冷たい揺籃(ようらん)

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第七話:沈黙の凱旋

岩田工務店の敷地奥にある古い資材倉庫の床下から、20年前の台風の泥に塗れた「亜鉛メッキ鋼板の扉」が発見された。

西条署の槇原玲二が率いる捜査員たちが、その鉄板の表面から、人間の爪が剥がれ落ちるほどの力で激しく掻きむしられた「無数の傷跡」を検出した時、岩田権三の完璧だった物語は完全に崩壊した。

科学捜査が突きつけた「美津子の指の骨に付着していた鉄錆の成分」と「倉庫の鉄板の成分」の完全一致という絶対的な物質の前に、老いた権力者はついにその罪を認め、崩れ落ちるように自供を始めた。

監禁致死、および死体遺棄。

20年の歳月がどれほど生者の記憶を風化させようとも、物質の世界が遺した厳密な叙事詩を歪めることは、誰にもできなかったのである。

それから数日後。

T大学医学部法医学教室の解剖室には、再び静寂が戻っていた。

ステンレスの解剖台の上には、すべての鑑定を終え、白く清潔な木箱に収められた星野美津子の遺骨が置かれていた。

こよみは、相変わらずサイズの合わない大きすぎる白衣の袖をだらしなく余らせたまま、シャーカステンの電源を落とした。

引き出しから取り出したカロリーメイトのチョコレート味を無感動に齧りながら、彼女の灰色の脳細胞は、すでに次の「物言わぬ骨」との対話に向けて、静かに思考を切り替えようとしていた。

部屋の重い扉が静かに開き、星野紗季が入ってきた。

彼女の顔からは、かつて母親に向けていた頑なな憎悪の影は完全に消え去っていた。

その瞳は、20年間の嘘の呪縛から解き放たれ、泣き腫らした後に訪れる、澄んだ静けさを湛えている。

紗季は解剖台の上の木箱に近づくと、愛おしそうに、そして深く頭を下げてその側面に触れた。


こよみ先生。

本当に、ありがとうございました。

私は、あの人をずっと呪って生きてきました。

でも……あの人が最期の瞬間まで、自分の身体を砕いて私を守ってくれたという真実を、この骨が教えてくれました。

私はもう、自分を恥じることなく、あの人の娘として生きていくことができます」


紗季の声は、静かだが確固たる響きを持っていた。

こよみは、その生者の生々しい感謝の言葉に対し、一切の表情を変えずに冷淡に応じた。


「お礼なら、私ではなくその物質に言ってください。

私はただ、破骨細胞と骨芽細胞が記録した事実を、物理的なデータとして翻訳したに過ぎません。

人間は脳で都合の良い嘘をつき、舌でそれを飾りますが、骨だけは決して嘘をつけない。

あなたの母親の骨は、ただ愚直に、あなたを生かすための重圧を刻み続けていただけです。

これほど誠実な組織は、この世界に他にありませんから」


こよみは大きすぎる白衣のポケットに両手を突き込み、ふいと顔を背けた。

その冷徹な態度の中に、死者の尊厳を絶対的に守り抜くという、彼女なりの剥き出しの誠実さがあることを、今の紗季はよく理解していた。

解剖室の隅で、トレンチコートを着た槇原玲二が、静かにその光景を見守っていた。

彼のポケットには、もうイチゴ味の飴玉は入っていなかった。

人間の泥臭い嘘を嫌い、誰も信用しなかった老刑事の奥歯が、今は静かに噛み合わされている。

彼は、こよみという風変わりな相棒が暴き出した「物質の真実」が、一人の生きている人間の魂を救い出す瞬間を、その鋭い目に見届けていた。

二人が生者を信じないという虚無の一点において結成した鉄のバディは、結果として、最も強固な形で死者の遺志を現世へと凱旋させたのである。


「さて、刑事さん。

未解決事件の感傷に浸る時間は終わりです。

次の骨が、すでに法医学教室の玄関に届いていますよ」


こよみはそう言うと、次の鑑定資料が収められたプラスチックケースへと、早くも冷たいピンセットを向けた。

彼女の万年寝不足の漆黒のクマが、蛍光灯の青白い光の中で、新たな謎を前にして微かに躍動するように見えた。


「ああ、分かっているよ、こよみ

次の嘘つきどもを全員、その骨で殴り倒しにいこうか」


槇原は不敵な笑みを浮かべ、トレンチコートの襟を立てた。

生きている人間の傲慢な嘘を暴くための、生者を信じない二人の孤独な対話は、これからもこの冷たい揺籠の中で、どこまでも続いていく。


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