第7話「受付嬢が優しすぎるんだが、なんか裏あるよな?」
門をくぐった瞬間、空気が変わった。
人の声。匂い。生活音。
「……生きてるなあ」
思わず漏れる。
石畳の通り。行き交う人々。露店の呼び声。
完全に“街”だった。
「とりあえず……どうするか」
所持金ゼロ。コネなし。身分不明。
冷静に考えて、詰んでる。
「まずは情報か」
見回す。
それっぽい場所——
「あれか」
看板。
剣と盾のマーク。
「いかにもって感じだな」
近づく。
木製の扉を押し開ける。
ガヤッ、と音が広がる。
「……うわ」
中は人で溢れていた。
鎧、ローブ、武器持ち。
完全に“そういう場所”。
(ギルドってやつか)
視線が一瞬、こっちに集まる。
血まみれ、ボロボロ、無一文オーラ。
「……浮いてるな」
だが今さら引けない。
奥へ進む。
カウンター。
そこに——
「いらっしゃいませ」
柔らかい声。
振り向くと、女性が立っていた。
落ち着いた笑顔。整った身なり。
いかにも“受付嬢”。
「初めての方ですね?」
「……あ、はい」
「ようこそ、トータス冒険者ギルドへ」
軽く会釈される。
対応が丁寧すぎて、逆に戸惑う。
(あれ? 優しいな)
もっとこう、警戒されると思ってた。
「お困りのようですが……大丈夫ですか?」
「えーと……まあ、だいぶ困ってます」
正直に言う。
隠しても仕方ない。
「身分証なし、金なし、土地勘なしです」
「……なるほど」
受付嬢は一瞬だけ考えて——すぐに微笑む。
「でしたら、仮登録という形でギルドに所属することが可能です」
「マジで?」
「はい。簡易的な身分証も発行できますし、最低限の依頼も受けられます」
(神か?)
「ただし——」
「ただし?」
「いくつか確認させていただく必要があります」
にこりと笑う。
優しいまま。
でも——
(……なんか引っかかるな)
「お名前を」
「……えーと」
一瞬詰まる。
本名でいいのか?
でも——
「ユウキで」
「ユウキ様ですね」
すぐに書き込まれる。
「ご出身は?」
「……森の外です」
「具体的には?」
「……遭難者なんで、分かりません」
一瞬、沈黙。
でも受付嬢はすぐに笑顔に戻る。
「承知しました」
(あっさり流したな)
普通もっと突っ込むだろ。
なのに——深掘りしない。
「では、簡単な適性確認を行いますね」
「適性?」
「はい。戦闘能力や危険度の測定です」
(危険度?)
ちょっと嫌なワード。
「すぐ終わりますので、ご安心ください」
笑顔。
完璧な営業スマイル。
「こちらへどうぞ」
案内される。
ギルドの奥。
扉を一つ抜ける。
——静かになる。
(あれ?)
さっきまでの喧騒が、嘘みたいに消える。
「こちらです」
小さな部屋。
石造り。
中央に、台のようなもの。
「この上に手を置いてください」
「これ、何ですか?」
「魔力測定器です」
「へえ」
なんとなく察する。
(ステータスチェック的なやつか)
問題ない……はず。
たぶん。
「では、どうぞ」
手を置く。
ひんやりしている。
次の瞬間。
——ピキッ。
「……?」
何かが軋む音。
受付嬢の笑顔が、ほんの一瞬だけ消えた。
「……え?」
装置に、ヒビ。
光が、乱れる。
チカチカと点滅する。
(おいおい)
「これは……」
受付嬢が小さく呟く。
その目。
さっきまでの“優しさ”じゃない。
観察する目。
「……ユウキ様」
「はい?」
「少しだけ——こちらでお待ちいただけますか?」
笑顔に戻る。
でももう、分かる。
(絶対、何かある)
「すぐ戻りますので」
そう言って、部屋を出ていく。
扉が閉まる。
カチッ、と音。
「……鍵かかった?」
試しにノブを回す。
——開かない。
「ですよねー」
ため息。
壁に寄りかかる。
「優しすぎる受付嬢は、だいたい裏がある」
ぽつりと呟く。
そして——
外。
かすかに聞こえる声。
「……例の反応です」
「確定か?」
「はい。“あのタイプ”です」
(おい)
嫌な予感しかしない。
「……マジで?」
苦笑い。
でも、心臓はちょっとだけ速くなる。
(またイベントかよ)
この世界。
やっぱり楽じゃない。
《To be continued》




