第5話「強スキル引いたら逆に事故るんだが?」
森。
同じ場所。
同じ空気。
だが——
「手札が違う」
小さく吐く。
頭の中でスキルを反芻する。
《虫群統制》
虫系生物に命令。
知性が低いほど強く効く。
使用回数——一回。
「……一発勝負かよ」
軽く笑う。
だが不安はない。
(条件は揃ってる)
群れの“核”。
位置も、挙動も、もう見た。
あとは——
(通すだけだ)
「来いよ」
わざと足音を鳴らす。
静寂。
数秒。
──ザザザザッ。
「……来たな」
黒。
地面。
木。
上。
全方位から押し寄せる。
だが——
逃げない。
視線を一点に固定する。
(あそこだ)
後方。
わずかに遅れる個体。
だが周囲の動きは、すべてそこに収束している。
「……ビンゴ」
距離はまだある。
だが——時間がない。
前から数匹。
突進。
「邪魔」
ナイフを振る。
一匹。
二匹。
だが意味はない。
(削る必要はない)
(届かせればいい)
群れが一気に詰めてくる。
囲まれる。
時間切れ。
「——今だ」
意識を一点に圧縮する。
対象。
“核”。
「《虫群統制》」
発動。
瞬間。
世界が、歪む。
音が消える。
代わりに——
見える。
“線”。
無数の個体を繋ぐ、透明な支配の流れ。
(……これが群れか)
その中心。
ただ一つの収束点。
核。
そこに——叩き込む。
「——止まれ」
命令。
次の瞬間。
静止。
完全停止。
空気すら凍ったような沈黙。
「……は?」
前も。
横も。
上も。
全部、止まっている。
「……マジかよ」
ゆっくり、息を吐く。
恐る恐る、試す。
「右向け」
ザッ。
一斉に。
寸分違わず。
「……はは」
笑いが漏れる。
「これ、完全に——」
支配だ。
さっきまでの絶望が、反転する。
掌の中。
群れ全体が、“駒”になる。
「じゃあ——」
ナイフを構える。
「潰し合え」
命令。
即座に。
牙が、牙に食い込む。
ギチギチギチッ!!
同士討ち。
暴走。
崩壊。
「うわ……えぐ」
だが止まらない。
数が、削れる。
みるみる減っていく。
「勝ちだろ、これ」
確信。
(核押さえたら終わり——)
その瞬間。
違和感。
「……あ?」
一匹。
動く。
もう一匹。
「おい」
命令。
「止まれ」
——無反応。
「……は?」
視界の“線”が、揺らぐ。
薄くなる。
霞む。
(……消えてる?)
「おい、ちょっと待て」
再集中。
だが——
届かない。
「……時間制限かよ!」
理解した瞬間。
核が、こちらを向く。
「……あ」
目が合う。
確信。
これは——
“返される”。
次の瞬間。
群れが動く。
さっきまでの混乱が、嘘みたいに消える。
統制。
完全復帰。
それだけじゃない。
「……速くなってねえか?」
明らかに違う。
動きが洗練されている。
殺意が、収束している。
(学習した……!?)
「おい嘘だろ」
直後。
──ザザザザッ!!
「うわ来た!!」
突進。
さっきより速い。
さっきより正確。
回避、ギリ。
だが——
数が違う。
「全部こっち来てんじゃねえか!」
完全に標的。
ヘイト集中。
前。
横。
上。
逃げ場なし。
「クソッ!」
ナイフで迎撃。
一匹。
二匹。
意味がない。
圧殺される。
「もう一回——!」
スキル。
だが。
「……ない」
消えている。
一回限り。
終わり。
「詰みだろこれ!!」
足を取られる。
崩れる。
押し倒される。
視界が黒に染まる。
「はい無理ーー!!」
牙。
痛み。
裂かれる。
だが——
口元が、歪む。
(……でも)
確信。
(通じた)
(届いた)
(支配できた)
そして。
(学習された)
なら——
(次は、最初から潰す)
核。
あそこを、最速で。
最短で。
叩く。
視界が暗くなる。
意識が落ちる。
最後に残るのは——
勝ち筋。
⸻
「はい五回目〜!」
「時間制限あるなら言えよ!!」
白い空間。
神様、大爆笑。
「いやー最高! 調子乗ってから落ちるの完璧すぎ!」
「うるせえ」
だが。
目は死んでいない。
「……でも分かった」
「お?」
「通じる」
「うん」
「核も確認した」
「うんうん」
神様が楽しそうに頷く。
「じゃあ、次は?」
即答。
「——勝つ」
迷いなし。
断言。
ウィンドウが開く。
【新スキル獲得:???】
「頼むから今度は火力寄越せ……」
表示が、歪む。
揺れる。
そして——
確定する。
《To be continued》




