第3話 「レア引いたら調子乗るのが人間です」
「お、レア来たかもね」
神様の声がやたら楽しそうに響く。
目の前のウィンドウはノイズ混じりに揺れていて、明らかに今までと違う“格”を感じさせていた。
「……頼むぞ、マジで」
思わず祈る。三回死んだ。
そろそろ見返りがあってもいい。
表示が、確定する。
【新スキル獲得:《因果反転(C)》】
▶ 自身に発生した“結果”を一度だけ“原因側に巻き戻す”
▶ 発動条件:致命的結果を受けた瞬間、自動発動
▶ 使用回数:1回(消費後消滅)
▶ 再使用不可
「……は?」
一瞬、意味がわからなかった。
「え、何これ」
「そのまんまだよ。“死ぬ結果”をなかったことにして、その原因の手前に戻る。要するに——一回だけ“なかったこと”にできる」
「……強くね?」
「強いね☆」
即答だった。
思考が一気に加速する。
致命的な一撃を受けても、一度だけやり直せる。
つまり——
(実質、コンティニュー付き)
いや、それだけじゃない。タイミング次第では、敵の動きも“見てからやり直せる”。
(これ、普通にチートだろ)
口元が緩むのを止められない。
「いいねいいね、その顔。完全に“調子乗る人の顔”だ」
「乗るに決まってんだろ。こんなん引いたら」
「まあ、事故るけどね」
「フラグ立てんな」
軽口を叩きながらも、内心は完全に浮かれていた。
さっきまでの“命がけの試行錯誤”が、一気にヌルゲーに変わった感覚。
「じゃ、いってらっしゃい」
指が鳴る。視界が暗転する。
⸻
森。
もう見慣れた景色。
「はいはい、またここね」
軽く肩を回す。痛みはない。
体は完全な状態でリスタートしている。
そして——
【現在のスキル:《因果反転(C)》】
ウィンドウを確認し、ニヤける。
「一回だけ、無敵か」
前回倒した巨大アリの死体は消えている。つまり、完全なリセット。ただし記憶と経験だけは残る。
「……まあ、あれはもう雑魚だな」
言ってしまった。完全に慢心だった。
ギチ、ギチギチギチッ。
「来た来た」
振り向くと、例のアリ。だがもう怖くない。急所もわかってるし、パターンも読める。
何より——最悪一回やり直せる。
「悪いな、もうお前には負けねえよ」
突進。余裕で回避。すれ違いざまにナイフを差し込む。ズブッ。
「ほらな」
一撃。浅いが問題ない。二撃、三撃で終わる。
そう確信していた。
だが。
──ズズッ。
「……あ?」
足元の感触が、変わった。
地面が柔らかい。いや、違う。沈んでいる。
「ちょっ……待っ——」
次の瞬間、足場が崩れた。
落ちる。
「は?」
視界が一気に反転する。地面が消え、暗闇が口を開けていた。
「いやいやいや、聞いてねえって!!」
穴。落とし穴。しかもかなり深い。
アリが上から覗いているのが見えた。
「お前関係ねえのかよ!?」
ツッコミも虚しく、身体は落下し続ける。
そして——
グシャッ。
嫌な音。
全身に衝撃が走る。
「……ッ」
呼吸ができない。骨が折れているのがわかる。内臓も多分ダメだ。
(あー……これ)
理解する。これは即死コースだ。
(……でも)
その瞬間。
スキルが発動する。
世界が、巻き戻る。
⸻
──直前。
足を踏み出す、その一歩前。
「……は?」
立っていた。無傷で。落ちる前の位置に。
汗が一気に噴き出す。
「マジで戻った……」
心臓がバクバク鳴る。さっきの死が、鮮明に残っている。
(今のが……“因果反転”か)
落ちて死んだ。それが結果。
だから、その原因——足を踏み出す前に戻された。
「……やべえなこれ」
強い。だが同時に、理解する。
(これ、一回きりだ)
もう使えない。次やったら、本当に終わる。
さっきまでの余裕が、一気に消える。
足元を見る。少し先の地面が、不自然に崩れている。
「……トラップかよ」
しかも、アリは無関係。ただの環境トラップ。
完全に油断していた。
「クソ……」
自分の慢心に舌打ちする。
アリはまだいる。だがもう問題じゃない。
(敵は、こいつだけじゃない)
この世界そのものが、殺しに来ている。
ナイフを握り直す。
「……さっきのはノーカンだ」
誰に言うでもなく呟く。
だが次は、ノーカンにならない。
一歩、慎重に踏み出す。
地面を確認する。罠を避ける。呼吸を整える。
さっきまでの“無敵感”は、もうない。
あるのは——
(ちゃんとやらないと死ぬ、って現実だけだ)
アリが再び動く。
ギチギチと音を立て、突進してくる。
だが今度は違う。
浮かれも、油断もない。
「……いいね」
口の端が、わずかに上がる。
「こういう方が、楽しい」
ナイフを構え、踏み込む。
《To be continued》




