第2話「一勝一死って効率どうなん?」
──いる。
森の奥、木の陰、その先。
あの嫌な音。
ギチ、ギチギチギチッ。
「……やっぱりな」
ナイフを握る手に力を込める。
前と同じ場所、同じタイミング、そして同じ敵。
全長二メートルの巨大アリが、黒光りする外殻を軋ませてこちらを見ていた。
「相変わらずデカいな、お前……」
だが今は違う。
視界の中に、淡く光る点がある。
頭部の付け根、腹部の節の隙間──確かに“見えている”。
(あれが急所)
心臓が速い。
だが前みたいな恐怖はない。
勝てるかどうかは別として、やれるという確信だけがある。
その瞬間、アリが動いた。
突進。
地面を抉る勢いで一直線に来る。
「来たな」
横に跳ぶ。ギリギリで回避。前回は反応すらできなかったが、今回は違う。
「お、避けられる」
アリがすぐに方向転換する。
脚の運び、重心、加速。全部が読める。
(見える)
スキルか、経験か、その両方か。
再びの突進に対し、一歩引いて横へ流す。
顎が空を切る。
「よし」
そのまま踏み込み、光る一点へナイフを振る。
──ガキン、と鈍い音。
「っ、硬っ!」
浅い。弾かれた。
急所がわかっても通らなければ意味がない。
距離を取ると、アリは苛立ったように脚を鳴らす。
ギチギチギチッと威嚇音が響く。
「はいはい、怒るなって」
軽口とは裏腹に、頭はフル回転していた。
急所は見える、だが装甲が硬い。
正面からでは通らない。なら──当て方を変える。
アリが再び突っ込んでくる。
今度は逃げない。ギリギリまで引きつける。
「……今!」
半歩ずらし、すれ違いざまにナイフを節の隙間へ差し込む。
ズブッ、と手応え。
「ッ、通った!」
だが浅い。
アリが暴れ、振り回された脚が直撃する。
身体が吹き飛び、地面を転がる。
「ぐっ……!」
肺の空気が抜ける。普通に痛い。
だが──効いている。さっきの一撃は確実に通っていた。
(もう一回だ)
アリが体勢を立て直す。
光はまだそこにある。
あと何回かはわからないが、やるしかない。
立ち上がり、ナイフを構える。
「ほら、もう一回だ」
突進。同じパターン。引きつけ、避け、差し込む。
二撃目。ズブッ。今度は深い。
だが直後、脚が横薙ぎに振り抜かれる。
「ッぐ!」
直撃。視界が揺れ、骨が軋む。
立てない。
アリがゆっくり近づき、顎を開く。次で終わる。
(……いや)
頭の奥で冷静な声がする。
どうせ死ぬなら、最後まで削るべきだと。
地面を蹴る。無理やり身体を起こし、前に出る。
「来いよ……!」
アリが噛みつく。避けない。
その代わり、ナイフを急所へ叩き込む。
深く、さらに深く。グシャッと嫌な感触。
同時に顎が肩を貫いた。
「がっ……!」
視界が白く染まる。
だがアリの動きが止まる。ビクンと痙攣し、そのまま崩れ落ちた。
静寂。
「……は」
息が漏れる。勝った。倒した。
この世界で初めての勝利。
(……マジかよ)
だが同時に、意識が急速に遠のく。
血が足りない。もう限界だ。
「……これ、どっちだ……?」
勝ちか負けかも曖昧なまま、ぼやける視界の中にアリの死体が映る。
「……まあ、いいか」
少なくとも、今回は無駄じゃない。そう思った瞬間、意識が途切れた。
***
「はい、おつかれー。三回目の死亡〜……って、お、やるじゃん。ちゃんと倒してから死んだね」
「……見えてんのかよ」
「観戦モードあるからねー」
「趣味悪すぎるだろ……」
ため息をつく。だが悪くない。
あの手応え、あの勝ち方。確実に積み上がっている感覚がある。
「で、どうする? 次も行く?」
「……当たり引くまでやるに決まってるだろ」
「いいねぇ、その顔。ハマってきたね」
「うるせえ」
否定はできない。ウィンドウが開く。
【新スキル獲得:???】
表示がノイズのように乱れる。
「……は?」
「お、レア来たかもね」
神様が楽しそうに笑う。画面がゆっくり書き換わり、次のスキルが姿を現す。
《To be continued》




