第11話 「金がないのに宿代ふっかけられるんだが?」
夜の街は、明るいくせに落ち着かない。
「……で」
袋を開ける。チャリ、と軽い音。
銅貨、十枚ちょい。
「少なすぎない?」
「いや、妥当だね」
リズが即答する。
「否定してくれよ」
「事実は変わらない」
「ぐうの音も出ねえ」
(これでどうやって生きろと……)
「宿、どうするの?」
「いや、それ聞こうとしてた」
リズを見る。
「安くて安全なとこ」
「ない」
「知ってた!」
「多少マシならある」
顎で示された先。小さな宿。
「安くはないけど、死にはしない。たぶん」
「“たぶん”付いたぞ今」
でも——選択肢はない。
「……行くか」
⸻
カラン。
鈴の音と同時に、店主の視線が刺さる。
眠そうな目。だが——
(値踏みしてるな)
「一泊いくら?」
「銀貨一枚だ」
「……高くない?」
「中央よりは安い」
淡々。だが確信した。
(完全に新参価格だ)
ため息一つ。
「銅貨でいける?」
「無理だな」
即答。
——普通はここで終わる。
けど。
「じゃあ聞くけどさ」
カウンターに肘をつく。
「この時間、空き部屋いくつ?」
「……は?」
「客、俺らだけだよな」
「だから何だ」
「空けとくより、多少でも回収した方が得じゃない?」
沈黙。
店主の目が細くなる。
(乗ってきた)
「……銅貨じゃ足りねえ」
「十枚ある」
「話にならん」
「じゃあこうしよう」
一歩、踏み込む。
「三泊前提で、一泊目だけ銅貨で払う」
「……」
「残りは明日以降。依頼受けてくる」
「信用できるのか?」
「できないな」
即答。
横でリズが小さく息を吐く。
「でも」
続ける。
「逃げるなら最初から入らない」
「……」
「それに」
指輪を軽く見せる。
「ギルド登録済み。身元は押さえられてる」
「……」
「飛んだら俺の損の方がデカい」
事実。
ここで信用落としたら終わる。
店主が黙る。
計算してる顔。
さらに押す。
「あと一つ」
「まだあるのか」
「俺、初依頼終わり」
「だから何だ」
「これから通う可能性ある客ってこと」
「……」
「長い目で見て、ここで切る?」
沈黙。
数秒。
やがて——
「……銅貨十枚で一泊だ」
「お、通った」
「ただし」
指が立つ。
「一番安い部屋だ」
「十分」
「残りは明日」
「了解」
「払えなかったら叩き出す」
「上等」
銅貨を出す。
ほぼ全財産。
(マジで綱渡りだな)
「……持ってけ」
鍵が飛んでくる。
「毎度」
⸻
階段を上がる。
「……あんた」
リズが後ろから言う。
「口回るね」
「必死なだけだよ」
少しだけ笑う。
「生き残るためのな」
「合理的」
「だろ?」
⸻
部屋は狭い。
ベッドと机、それだけ。
「……まあ、思ったよりマシだな」
「及第点」
リズが壁にもたれる。
「お前帰らないの?」
「帰るよ」
「じゃあなんでいる」
「確認」
「何を」
「悪さしないか」
「失礼すぎるだろ」
だがリズは気にしない。
ため息。
でも——屋根があるだけで全然違う。
「じゃ」
リズが扉に向かう。
「明日」
「来るの?」
「分からない」
「監視終了?」
「四六時中は嫌」
「それはそれで寂しいな」
ドアに手をかける。
「忠告」
「はいはい」
「夜は外に出るな」
「なにそれフラグ?」
「本気」
それだけ言って出ていった。
静かになる。
⸻
「……はあ」
ベッドに倒れる。
(怒涛の初日だったな)
金はほぼゼロ。
でも拠点は確保した。
今はそれだけで十分だ。
——ドン。
「……?」
下の階から音。
ガタガタ。
怒鳴り声。
(揉めてる……?)
一瞬、考える。
リズの言葉。
——夜は外に出るな。
「……関係ない、よな」
呟く。
今の自分に余裕はない。
——なのに。
悲鳴。
はっきり、聞こえた。
「……は?」
体が起きる。
反射的に。
「……くそ」
立ち上がる。
(無視できるかよ)
ドアに手をかける。
心臓が速い。
でも——
「行くしかないだろ」
開ける。
⸻
廊下は暗い。
下から声が響く。
荒い。乱れてる。
(喧嘩じゃないな)
一段ずつ降りる。
光が近づく。
音が鮮明になる。
そして——
最後の一段を降りた瞬間。
「……は?」
そこにあったのは——
“ただのトラブル”じゃなかった。
《To be continued》




