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シャロンの喫茶店  作者: Toru


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Next Generation 明日香の味 プロローグ〜第一話

◇プロローグ


「明日香〜!準備できた!?」

「…ねぇ、ホントにこの格好で、接客するの?」

「そりゃメイド喫茶だもん」

「…よく学校が許可したなぁ、このメイド服…」


明日香はフリルの付いたピンク色のミニスカートのメイド服を着た自分を姿見でチェックしている。


「だって文化祭だよ?お祭りなんだから派手にやらなきゃ!」

「じゃあ美紀は何で着てないのよ!」

「私は、実行委員だからね〜」

「もう…この格好、恥ずかしいよ…」

「大丈夫!明日香は元が良いんだから!…それに」

「それに?」

「ケーキを食べたお客さん達の反応が気になるんでしょ?」


学校の文化祭でクラスでメイド喫茶をやる事になった理由の一つに、明日香が作るスイーツがクラスで評判になっていたからだった。


「ほれっ!自分の目で見ておいで!」

「お、押さないでよ〜(汗)」


美紀に押し出される様に、客席を模した教室に出ると、


「い、いらっしゃいませ〜」

挿絵(By みてみん)


明日香は、ぎこちなくそう言いながら、教室の隅に立った。


「美味しいね!このケーキ!」

「本当だ」

「美味し〜い」


沢山の生徒と来場者が明日香が作ったケーキを食べて、楽しそうに笑っている…


「…皆、笑ってる」


自分が作ったケーキが、皆の笑顔の元になっていると思うと、明日香は嬉しかった。


「…良かったね、明日香」

「うん…美紀、私ね…美味しいって言ってもらえるのが一番嬉しい。」


友達の美紀が、明日香の隣に立つ


「明日香なら、立派なパティシエになれるよ」

「…なれるかな」

「なれるよ…行くんでしょ?東京の専門学校」

「…うん」

「明日香のケーキが食べられなくなるのは、ちょっと残念なんだけどね…」

「美紀…」


と、他の生徒が明日香の所へ慌ててやって来た。


「明日香!ケーキまだ残ってる?」

「もう品切れになりそうだよ!」


閉店までまだ1時間以上ある…

明日香のケーキは好評で予想より早く売れてしまったのだった。


「調理室にまだ材料が残ってたかも…急いで何か作るね!」


明日香は、他の生徒達と調理室に向かって走って行った。


「ふふふっ…明日香、頑張れよ」


美紀は、親友の背中に向かってそう言ったのでした………。




◇第1話:小さな芽生えと現実の壁


カランカラン……。 晩秋の風とともに、喫茶店「樹」のカウベルが軽やかに鳴る。


「いらっしゃいませ!」


厨房から元気な声を響かせたのは、高山明日香だった。


東京の製菓専門学校に通い始めて半年が過ぎた。


明日香は念願叶って、父・章と母・美月の大切な思い出の場所である「樹」で、見習いとして働いていた。

学校での講義が終わると「樹」へ駆けつけ、仕込みの手伝いや接客に励む日々。

挿絵(By みてみん)


しかし、胸の中には少しずつ焦りの色が濃くなっていた。


「明日香さん、生クリームの泡立て、少し粒立ちが荒いですよ」


オーナーシェフのシャロンが、静かで澄んだ声で告げる。

挿絵(By みてみん)


「あ……すみません! すぐにやり直します!」

「焦らなくていいのです。

お菓子作りは、自分の心の乱れがそのまま味や形に出てしまいますからね」


シャロンの手元を見つめると、無駄のない美しくしなやかな所作で、均一でなめらかなクリームが絞り出されていく。

その完璧な手業に、明日香は自分の未熟さを突きつけられる思いだった。


専門学校でも、壁にぶつかっていた。

実習班で一緒になった同期の巧(たくみ)は、老舗洋菓子店の息子で、寸分違わぬ正確な技術を持っていた。

挿絵(By みてみん)


もう一人の恵麻(えま)はトレンドに敏感で、SNSで映える華やかな現代風スイーツを作るセンスに長けていた。

挿絵(By みてみん)


ある日の実習後、巧は明日香の作ったタルトを一口食べて冷ややかに言い放った。


「基本はできてるけど、個性がなさすぎる。

レシピ通りに完璧に作った優等生な味じゃ作った人の顔が見えないよ。

これじゃ『どこにでもある普通のタルト』だな」

「う……」


反論できなかった。

巧の言う通りだった。

技術では巧に敵わず、華やかさでは恵麻に届かない。

自分には「これ」という強みや「自分の味」が何もなかった。


◇


「はあ…『どこにでもある普通のタルト』か…」

挿絵(By みてみん)


樹での仕事を終え、部屋に戻った明日香は、巧に言われた事を思い出していた。

自分では、それなりに工夫をしたつもりでいたが、小手先の変化の事では無いことなど十分分かっていた。


「自分の強み…自分の味…それって一体何なんだろう」


明日香は、テーブルに置いてあった写真立てを手に取った。


それは高校の文化祭、皆で撮った写真だ


「あの頃は、何にも考えずに、ただ作るのが楽しくて…美味しいって言って貰えるのが嬉しくて…」


でも、今は違う。

それまで、明日香なりに、美味しいスイーツを作る自信もあった。

東京に出て、製菓専門学校に入って、同期生が作る独創的なスイーツを目の当たりにして、

明日香は如何に自分が小さな世界にいたのかを思い知らされた。


「『基本が出来ている』なんて、当たり前なんだ、もっと『自分らしさ』を出さないと…でも」


それが一体何なのか…

明日香は悩んだまま、迷いながら、製菓専門学校での課題に取り組んでいた。


『お菓子作りは、自分の心の乱れがそのまま味や形に出てしまう』


シャロンの言った通り、明日香は思ったような課題の評価が得られていなかった。


「先生、どうでしょうか」

「ふむ…季節のフルーツを使ったタルト、ね…」

挿絵(By みてみん)


明日香が講師に課題を提出する。


「…」

「あなたは、基本をしっかり押さえてあるのはとっても良い事ね…でも」

「…でも?」

「今ひとつ、何を主張したいのかがハッキリしていないですね…次は頑張って下さい。」

「はい…ありがとうございます。」


(はあ…今回も『でも』か…)


明日香は、課題を提出するたびに、講師から『でも』と言われ、その度に自分が否定されているような気持ちになった。


「おおっ!恵麻さん、今回はまた…」

「だって先生、いくら美味しくても、誰にも見つけてもらえないんじゃ、意味ないでしょ?目立たせなきゃ!」

挿絵(By みてみん)


恵麻が提出した課題は、SNS映えしそうに盛ったフルーツタルトだった。


「今回も、巧が一番だったね」

「恵麻はもっと味の工夫をしたほうが良いよ」

「あたしは、これで良いのよ!」


全くブレない恵麻、羨ましくなるくらいだ。


「明日香ちゃんは?どうだった?」

「!」


不意に恵麻が聞いてきたので、明日香はギョッとしてしまった。


「…B評価よ」

「え〜!?何で?普通に美味しいのにねぇ…」

(!普通って…何、この子!)

「…私、お店の仕込みがあるから、帰るね」

「え?仕事してるの?明日香ちゃん」

「まだ見習いよ…「樹」って喫茶店で…」

「えぇっ!?モンブランで有名なあの『樹』?」


巧が突然声を上げた。

喫茶店「樹」は、シャロンが作ったあのモンブランが好評で有名になっていた。


「羨ましいな…『樹』で修行させてもらえるなんて」

「でも…修行してB評価じゃね(笑)」

「恵麻!」

「!…私帰るっ」


明日香は飛び出す様に教室から出ていった。


「…恵麻、何で彼女にあんなに突っかかるのさ」

「あたし、負けられないの…相手が誰であっても、絶対勝たなきゃいけないの。」

「なら、僕にだって…」

「巧はいいのよ、あたしの事、お嫁さんにしてくれるんでしょ?」

「止めてよ…幼稚園の頃の話だろ」


老舗洋菓子店の息子である巧

今は無くなってしまったが、有名な和菓子店の孫娘である恵麻

二人はいわゆる幼馴染だった…



Next Generation 明日香の味 プロローグ〜第一話 完





〜〜『秋の彩りフルーツタルト』(明日香の課題作品)〜〜

学校の課題「季節のフルーツを使ったタルト」として明日香が提出した一品。

挿絵(By みてみん)


パート・シュクレ (タルト生地)の焼き加減やクレーム・ダマンド (アーモンドクリーム)の火入れ、クレーム・ディプロマット (カスタード+生クリーム)のなめらかさは完璧ですが、秋のフルーツをきれいに並べた「教科書通り」の仕上がりになっています。


【構成要素】

パート・シュクレ (サクサクのサブレ風タルト生地)

クレーム・ダマンド (アーモンド風味の生地)

クレーム・ディプロマット (カスタードとホイップクリームを合わせた軽やかなクリーム)

秋の彩りフルーツ (柿、シャインマスカット、いちじく、りんごのコンポート)


【材料】(18cmタルト型 1台分)

1. タルト生地 (パート・シュクレ)

無塩バター:60g(室温に戻す)

粉糖:40g

卵黄:1個分

薄力粉:120g

塩:ひとつまみ


2. アーモンド生地 (クレーム・ダマンド)

無塩バター:50g

砂糖:50g

全卵:1個(溶いておく)

アーモンドプードル:50g

ラム酒:小さじ1/2(隠し味程度)


3. クリーム (クレーム・ディプロマット)

卵黄:2個分

砂糖:40g

薄力粉:15g

牛乳:200ml

バニラペースト:小さじ1/2

生クリーム(36%〜42%):80ml(8分立てにする)


4. トッピング(秋のフルーツ)

柿:1/2個(くし形切り)

シャインマスカット:6〜8粒(半切り)

いちじく:1個(くし形切り)

りんご(薄切りにしてサッとシロップ煮にしたもの):1/4個分

ナパージュ(艶出し):適量

ピスタチオダイス・ミント:彩り用


【作り方】

1. タルト台を焼く

パート・シュクレ:ボウルでバターを練り、粉糖、塩、卵黄の順に混ぜる。薄力粉を振るい入れ、さっくりとまとめてラップに包み、冷蔵庫で1時間以上休ませる。

型に敷き込み、フォークで全体に穴(ピケ)を開ける。

クレーム・ダマンド:室温のバターに砂糖、全卵、アーモンドプードル、ラム酒を順に混ぜ合わせ、敷き詰めたタルト生地に平らに流し込む。

170℃に予熱したオーブンで約35分〜40分、綺麗なきつね色になるまで焼き上げ、しっかり冷ます。


2. クリームを作る

小鍋で牛乳とバニラを温める。ボウルで卵黄と砂糖をすり混ぜ、薄力粉を加えて混ぜる。

温めた牛乳を少しずつ加え、鍋に戻して中火にかけ、絶えず混ぜながらフツフツととろみがつくまで加熱 (カスタードクリーム)。

氷水で急冷し、使う直前に固めに泡立てた生クリームと優しく混ぜ合わせる (クレーム・ディプロマット)。


3. 組み立てと仕上げ

冷ましたタルト台の上に、クレーム・ディプロマットをこんもりとドーム状に塗る。

柿、いちじく、シャインマスカット、バラに見立てて巻いた煮りんごをバランスよく交互に並べる。

フルーツの表面にナパージュを塗り、刻んだピスタチオを散らして完成。

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