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シャロンの喫茶店  作者: Toru


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23/26

エピソード皐月 忘れな草のティーカップ 『ガトー・ウィークエンド』のレシピ付き

五月の澄んだ日差しが、喫茶店「樹」のカウンターに差し込んでいます。

喫茶店「樹」の扉の外には、いつもと違って、CLOSEDの文字が書かれた札が掛けられています。


「よいしょっ…と」


今日は定休日、

店主のシャロンは、カウンターの奥にある高い棚の大掃除に精を出していました。


「梅雨にはいる前に、一度整理しておかないと」


と、脚立に登り、普段は使わない古い器をどかしたその時、シャロンは一番奥の隅に、埃を被った小さな箱を見つけました。


「何の箱かしら…」


中から現れたのは、忘れな草柄のアンティーク・ティーカップ。


「まぁ綺麗……こんなティーカップ、うちにあったかしら?」


シャロンがそれをカウンターに置いて眺めていると、掃除の手伝いにきていた翔子とリサが近寄ってきます。


「あ〜、ダメですよシャロンさん!」

「出してきちゃったら片付け終わらなくなるよ〜」

「ああ、ごめんなさい、綺麗なカップが出てきたからつい(汗)」


見るとそのカップは、金縁がところどころ擦れていて、かなり古い物だと分かりました。

けれど、絵柄の忘れな草の花の色が、吸い込まれるような青色で、初夏の空を切り取ったように美しい。


「ほんとだ」

「古そうだけど、綺麗だね」


思わず、忘れな草のティーカップに見入る3人…


「ホラホラ、手が止まってマスヨ?」


仕込みを終えた父・ジャンが厨房から顔を出しました。


「あ!しまった」

「ごめんなさ〜い」


パタパタと、慌てて掃除に戻る翔子とリサ。

その様子を微笑ましく見ていたジャンは、シャロンにも声を掛けます。


「シャロンも、何カ宝物でも見つけデスカ……!?」


と、ジャンの足が止まった。

いつもは陽気な彼の目が、驚きに大きく見開かれています。


「そのティーカップ……どこで見つけたノデスカ?」

「棚の奥にあったの。

お父さん、これに見覚えがあるの?」


シャロンがそう尋ねると、ジャンは愛おしそうにそのカップを手に取り、ゆっくりと椅子に腰を下ろしました。


「そうデスカ…一番奥に仕舞い込んでいたのデスネ」

「大事な物なの?」

「えぇ、とても大事な『想い出』デス」


ジャンの視線は、遠い過去を映し出していました。


『ああ、忘れもシマセン。

これは、ワタシがまだ若ク、この店が『樹』として動き出す直前にいただいたモノデス……。


当時、この場所は商店街の長老たちが集まる喫茶店デシタ。

ワタシは、オーナーの老婦人から、ここを譲り受けることになり、店に出すメニューをどうするか考えてイマシタ。


当時のワタシは、本場フランスの伝統菓子を皆に知ってもらいたカッタ。

だからオリジナルのレシピに拘ってしまっタノデス。


『サァ試食用のケーキを焼いたデス!食べてミテクダサイ!』


そうして、試作した洋菓子ヲ、長老会の人達に食べてモライマシタ


ケレド…


『うーん』

『何だか…なぁ?』

『そうだねぇ…私ら年寄りには、みたらし団子のほうが良いね』

『悪いね、ジャンさん』

『Oh…ソウデスカ…』


と、結果は散々デシタ


『最初から上手くいく訳ないだろ?ほらほら、そんなに落ち込まない!』


ソウ言って、丸まったワタシの背中をバシッと叩いたのは近所の団子屋の女将さんデシタ


老舗の団子屋は商店街の中デモ一番古い店で、きっぷのいい女将さんが店をきり盛りしてイマシタ


ソンナ女将さんは、いつも樹が淹れた紅茶を飲みナガラ、不出来な私の試作菓子を笑顔で食べてクレマシタ


『樹ちゃん』

『あ!女将さん、こんにちは』

『どうだいジャンさんの様子は?』

『それが…あまり上手くいってないみたいで…』

『そうかい…まあ、職人の拘りなんだろうが、あんまり根を詰めない様にね?』

『ありがとうございます。』


ソウ言って、ワタシと樹をいつも気遣ってくれマシタ


『…バターの量デスカ?それともクリームの相性が悪イノカ…』

『ジャン、ちょっとひと休みしたら?』

『あぁ…ウン…イヤ、待テヨ…』


樹ニハ、そう言われたけれど、ワタシは早く長老達を納得させたカッタ。

今考えると笑ってしまうケレド、たぶん天才パティシエと呼ばれた自分のプライドがあったからだと思イマス


ワタシは焦ってイマシタ


『ダメデス、コレも違いマス…』

『ジャン…きっと大丈夫よ』

『…ノン…コレはワタシの求めるスイーツではアリマセン…』

『ジャン…』


そんな小さなプライドのセイデ、ワタシの作る洋菓子ハ、独りよがりな物になってイッタノデス。


『何だいこの真っ黒な塊は?』

『コレはカヌレ・ド・ボルドーといいマス、伝統的なフランス菓子デ…』

『いや…俺はちょっと』

『悪い、また今度にしてくれよ』


ソウ言って長老会はお開きとナリ、とうとうワタシの作った試食の洋菓子ハ、誰も食べようとしなくナリマシタ。


『ハァ…』

『そんな所で何を油売ってるんだい!』


落ち込んだワタシが、桜公園のベンチに一人で座ってイルト、女将さんに声を掛けられマシタ。


『女将さん…ワタシは、ドウシタラ…』

『ふう…困ったね人だね、ちょっとウチにおいで!』


ワタシは女将さんに団子屋に引っ張っていかれマシタ


『ほれ、そこに座りな』

『は、ハイ』


女将さんハ、ワタシにみたらし団子とお茶を出してくれマシタ


『…美味シイデス。

みたらし餡ノ香ばしさが、スバラシイデス』

『そうだろ!ウチの自慢さ』

『…ヤッパリ日本では、伝統的なフランス菓子は受け入れられないノデショウカ…』

『そんな事はないさ、あたしはジャンさんの作った菓子が好きだよ?』

『デモ…他の人達は…』


ワタシはスッカリ自信をなくしていまシタ。

そんなワタシに向かって女将さんは言イマシタ


『…あんた、お客さんに何を食べさせたいんだい?』

『ワタシは、本場のフランス菓子を皆に知ってもらいたいノデス…』

『それはお客さんが食べたい菓子かい?』

『エッ?』

『今のあんたの作る菓子は、知らない物ばかりで皆手を出しにくい』

『ソ、ソウデスカ…』

『ここは下町なんだから…もっと気軽に食べられる、家庭的な菓子が良いんじゃないのかい?』

『家庭的な…ナルホド!』


その時ワタシは、目からウロコが落ちた気がシマシタ。

焦って周りが見えていなかった事ニ、やっと気付いたノデス。


『女将さん、アリガトウゴザイマス!ナンダカわかった気がしマス!』

『そりゃあ良かった!頑張んな!』

『ハイ!』


ワタシは飛んで帰って、思い付いたケーキを焼き始めマシタ。

ワタシが思い出したのは、母が焼いていたレモンケーキ…

田舎料理デスガ、子供の頃のワタシにとってソレは、紛れもないごちそうデシタ。


『デキた…樹、やっとデキマシタ!』

『美味しいよ!ジャン!きっとこれなら皆食べてくれるよ!』


ソシテ、次の長老会の日…


『お!こいつは結構いけるじゃねぇか!』

『甘酸っぱくて美味いよ』

『やったねジャンさん!』

『アリガトウゴザイマス』

『よかったねジャン!』


ワタシは、ようやく長老会で認めてもらえるケーキを作れるようにナリマシタ。


『これは何て名前なんだい?』

『このお菓子の名前、『ガトー・ウィークエンド』って言うの。

大切な人と過ごす週末のために作る、一番素敵なレモンケーキなんですって!』


樹が嬉しそうに、ミンナにそう説明してイル…

女将さんは、ソレを見ながら私につぶやきマシタ


『嬉しそうだねぇ、樹ちゃん』

『ハイ、ワタシも嬉しいデス』

『…黙っててと頼まれてたから言わなかったけどね…樹ちゃんがどんなに心配していたか、アンタ分かってるのかい?』

『エェッ!?』

『まったく…恋女房に心配かけさせるんじゃないよ!』


女将さんはそう言ってまたワタシの背中をバシッと叩きマシタ。

背中はとても痛かったケレド、ワタシは嬉しかったデス。


『ほれ、やっと一人前になったお祝いだ』

『え?女将さん、これは?』

『勿忘草柄のティーカップだよ、初心を忘れるなって老婆心さ!』

『女将さん、アリガトウ…』

『ジャンさん、この喫茶店を、いつかこの街の止まり木のような店にしておくれよ!』


ソウ言って、女将さんは、私達にこのカップをプレゼントしてクレマシタ。

ソレが樹と私の喫茶店『樹』としての原点なノデスヨ…』



「樹も、よくこの忘れな草のティーカップで紅茶を飲んでいたヨ。」

「お母さんが?」

「あぁ…ダカラ樹が亡くなった時、私はこのカップを見るのが辛くテネ…棚の奥に仕舞い込んダ…それが、そのままになっていたんダネ。」


父の話しに、シャロンの胸が熱くなった。


「お父さん…

お父さんが作ったケーキ、『ガトー・ウィークエンド』を一緒に作らない?」

「あたし達も作りたい!」

「ジャンさん作り方教えて!」


ちょっと離れたところで話を聞いていたリサと翔子も駆け寄って来た。


「ソウデスネ…皆デ、一緒に作りまショウ!」


優しい娘と、仲間であり友人でもある翔子とリサが、想いを一緒にしてくれる事が、ジャンはとても嬉しかった。


「忘れな草のティーカップの想い出にフサワシイお菓子ヲ、今日は皆で作リマショウ。

五月の風にピッタリナ、週末を祝うケーキヲ」

挿絵(By みてみん)

お客様のいない、今日の喫茶店「樹」で、

シャロンが取り出したレモンの爽やかな香りが店中に広がってゆきました。


「さあ、焼き上がりよ!」


シャロンが出来立てのレモンケーキをテーブルに運びます。


「うわぁ~美味しそう」


リサと翔子は、透明なアイシングを纏ったレモンケーキに、目をキラキラさせています。


「ソレデハ皆で食べまショウ!」

「あ…そのカップ」


シャロンは忘れな草のティーカップに紅茶を淹れました。

翔子とリサも、それぞれお気に入りのティーカップに紅茶を注ぎます。

そして、週末を祝うレモンケーキ『ガトー・ウィークエンド』を皆で頂いたのでした。


「…このカップは、これからもお店で使いましょう。

大切なことを思い出させてくれるために、今日出てきてくれたのかもしれないし」


シャロンがそう言うと、窓の外では初夏の風が揺れ、商店街に穏やかな午後の訪れを告げていました。


おしまい。




今回から、喫茶店「樹」の秘伝レシピを紹介したいと思います。


週末を祝うレモンケーキ『ガトー・ウィークエンド』

【材料】(18cmパウンド型1本分)

無塩バター: 100g(室温に戻しておく)

グラニュー糖: 90g

卵: 2個(室温に戻して溶いておく)

薄力粉: 100g( ふるっておく)

ベーキングパウダー: 2g

国産レモン: 1個(皮のすりおろしと、果汁30mlを使用)

アプリコットジャム: 適量

[グラス・ア・ロー(仕上げの砂糖衣)]

粉糖: 80g

レモン果汁: 大さじ1〜1.5

【シャロンの調理工程】

1. 香りを引き出す魔法

シャロンはまず、洗いたてのレモンの皮を専用のグレーターで薄く削ります。「この黄色い表面だけに香りのオイルが詰まっているのよ」と彼女。削りたてのレモンの香りが、初夏の風に乗って店内に広がります。

2. バターを練り上げる

ボウルに入れたバターをクリーム状に練り、グラニュー糖とレモンの皮を加えます。白っぽくふわっとするまで混ぜるのが、口どけを良くする秘訣です。

3. 卵を少しずつ、丁寧に

溶き卵を5〜6回に分けて加えます。「一度に入れると分離しちゃうから、ゆっくりね」とシャロン。一回ごとにしっかりと混ぜ合わせ、なめらかなエマルジョン(乳化)を作っていきます。

4. 粉と果汁のハーモニー

ふるった薄力粉とベーキングパウダーを加え、ゴムベラでさっくりと切るように混ぜます。粉っぽさが消える直前で、絞りたてのレモン果汁を投入。ツヤが出るまで混ぜ合わせたら、型に流し込みます。

5. 黄金色の焼き上がり

170℃に予熱したオーブンで約40分。オーブンの窓から覗くと、ケーキがぷっくりと膨らみ、表面に綺麗な割れ目ができています。焼き上がったら、熱いうちにハケでアプリコットジャムを薄く塗り、冷ましておきます。

6. 仕上げの「グラス・ア・ロー」

ケーキが冷めたら、粉糖とレモン果汁を混ぜた真っ白なアイシングを上からたっぷりとかけます。「これを230℃の高温のオーブンで、たった1分だけ焼くの。そうすると……」

【クライマックス:シャリシャリの食感】

オーブンから出されたケーキは、アイシングが透明に変わり、まるで薄い氷を纏ったような美しさ。

「見て、この表面がシャリッとして、中がしっとりしているのがガトー・ウィークエンドの命なのよ」

アンティークのナイフで切り分けると、断面からはレモンの爽やかな香りが溢れ出します。


シャロンの一言アドバイス:

「もしお家で作るなら、焼いた翌日が一番味が馴染んで美味しいわ。週末の朝、とっておきの紅茶と一緒に召し上がれ」



挿絵(By みてみん)


喫茶店「樹」の新メニュー『ガトー・ウィークエンド』

週末を祝う爽やかなレモンケーキです。

素敵なティーカップに淹れた紅茶とセットでどうぞ!


「シャロンの喫茶店」 エピソード皐月 忘れな草のティーカップ 『ガトー・ウィークエンド』のレシピ付き 完


あとがき


『シャロンの喫茶店』エピソード皐月をお読みいただき、ありがとうございました。

今回から始まった「樹」の秘伝レシピ、いかがでしたでしょうか。

ぜひ、みなさんも週末にこのレモンケーキを焼いて、大切な人と特別なティータイムを過ごしてみてくださいね。


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