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舞鶴怪談  作者: かわむら
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地蔵の報復

    ― ― ― ― ― ― ―


その頃加護村では囚人たちが村の若い女を強姦し、好き勝手な事をしていた。

脱走犯の一人、夏樹は道路に置いてある椅子に座っていた。

強姦して、腹一杯に飯にありつけて休んでいるのだ。

村の入り口に陣取り、侵入者がいないかどうか見張っている。

片手には拳銃、もう片手には酒の一升瓶を持って

酔っぱらっていた。

その夏樹は霧の中、子供とおぼしき人影が六体、近づいてきたのを見た。

霧が濃過ぎて、その子供の顔さえも判別出来ない。

子供と言えど、侵入するならば容赦するつもりはない。

夏樹は子供たちに向けて、拳銃を構えた。

その時、霧に紛れて子供たちの姿は、フッと消えてしまった。

酔っぱらっている夏樹は、眠そうな目をカッと見開いた。

どこに消えたんだ?!

キョロキョロと辺りを見回す夏樹の背後から、一体の地蔵が近づいてきた。

椅子に座っているので、夏樹の頭の高さと地蔵の頭の高さは差ほど変わりはない。

その地蔵は両手で、夏樹の首根っこをつかんだ。

「うげええっ!」

ものすごい握力に、夏樹は悲鳴を上げた。

地蔵は夏樹の首を一回転、回した。

ボキッ。首の骨が折れる音が響いた。

夏樹の顔は背中の方を向き、逆に後頭部が体の正面になった。

口から血を流し、椅子に座ったまま、夏樹は死んだ。

六体の地蔵は死んで命を捧げた小百合との約束を守るべく、村の中央に進んで行った。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


囚人の一人、大村千吉は村の女たちを次々に強姦した後、遊び疲れて納屋で寝ていた。

納屋には強姦した後、首を絞めて殺した女たちの死体が3人、横たわっている。

その死体と一緒に、平然と寝ていたのだ。

何かズシン、ズシンという石が動いているような音を聞いた。

それも一つではなく、複数だ。

ハッとして気づいた時にはもう、遅かった。

自分が寝ている干し草の回りには、六体の地蔵が取り囲んでいたのだ。

誰がこんなイタズラをしやがったんだ?

寝ている間に、これだけの数の地蔵を並べるなんて!

大村は寝ていた納屋から出ようと、上半身を起こした。

すると信じられない事に、回りにいる地蔵が動いたのだ。

大村は地蔵2体に、両腕をつかまれた。

「おい、放せ!放せってんだよ!」

抵抗する大村。

しかし地蔵たちは、ビクともしない。

大村は片手にナタを持っている地蔵が、近づいてきたのを見た。

「放せ~、このクソ地蔵が!」

大村は地蔵が頭に向けて、ナタを振り下ろしたのを見た。

次の瞬間、頭にナタの刺さった大村の死体が、納屋の床に倒れた。


     ― ― ― ― ― ― ― ― ―


囚人の仲間が二人減った事に、まだ誰も気づいていない。

牧壮吉、広瀬正一の囚人二人は村の民家で食事をしていた。

テーブルに座って、米を腹一杯たいらげている最中である。

「これからどうするんだよ?」

牧壮吉が、向かい合って食べている広瀬正一に聞いた。

「どうするったって、片っ端から周辺の村を襲うだけの事よ。女と食料を代えるためにな」

「そんな悠長な事をしてる間に、サツが包囲しちまうぜ。護送車が消えた事は、警察本部にも連絡が入っている。いつまでも、こんな所で遊んでる場合じゃねえ。隠れる場所を見つけねえとな」

「それもそうだな。ここら辺でこの村とも、オサラバしねえとな」

「腹がふくれた以上、ここに長居は無用だぜ」

食事が終わりかけた時、ガチャン!とガラスの割れる音がした。

顔を見合わせた二人は、何事かと様子を見に行った。

すぐに火が燃える音がした。

床には火炎瓶が、投げ込まれていたのだ。

「広瀬、逃げるぞ!」

慌てた二人は火に焼かれる前に、民家を脱出した。

二人が出た後、民家全体に火は燃え広がった。

「誰がこんな真似をしやがったんじゃ?!」

怒った牧の足を、何者かがノコギリで切り裂いた。

「いげえっ!!」

足から出血した牧は、誰がノコギリで足を切ってきたのかを垣間見た。

子供ぐらいの背の地蔵が、ノコギリを片手に持っていたからだ。

倒れた牧は、地蔵三体に囲まれた。

そばにいる広瀬も、目の前の出来事が信じられなかった。

いつもは道端にいるお地蔵さんが、動いているなんて!

「あわあわあわ・・・」

広瀬は腰が抜けて、地面に倒れた。

足を負傷した牧は、走って逃げられない。

牧は三体の地蔵が、大きな墓石を待ってきたのを見た。

「何をする気だ・・・?」

三体で墓石を持ち上げている地蔵は、牧の顔めがけ、墓石を落とした。

「やめろ~!」

断末魔の悲鳴を上げた牧は、

顔を墓石の下敷きにされて、死亡した。

牧が殺される一部始終を、広瀬は目撃した。

理由は分からないが、あの地蔵はわしらを憎んでいる。

このままでは、殺される・・・。

ゆっくりとだが、広瀬は後ずさりを始めていた。

気づいた地蔵たちが、広瀬を追う。

「話せば分かる、お地蔵さんよ・・・」

後ずさる広瀬は、村の中央にある火の見櫓のそばまできた。

火事を早期発見するための火の見櫓の見張り台には、3体の地蔵が立っていた。

その地蔵は首を絞めるための縄を、広瀬の頭上まで垂らしていた。

広瀬を絞首刑にするためだ。

縄の輪になっている部分は、すっぽりと広瀬の頭に入った。

「うがっ!?」

頭上から縄が首を絞めるとは思っていなかった広瀬は、火の見櫓の上にいる地蔵に、空中高く持ち上げられた。

見張り台まで持ち上げられた広瀬の頭は、火事を知らせる半鐘に当たり、血が吹き出した。

そのまま広瀬の体は、火の見櫓に吊るされる格好となった。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


民家から、一人の半裸の女が逃げ出そうとしていた。

しかし犯された女の両手両足は縛られているので、()って逃げるしか方法がない。

命からがら逃げる若い女を追って囚人の吉田が民家から出てきた。

手には、灯油の缶を持っている。

「そんなに嫌がらなくてもいいじゃねえかよ・・・」

吉田は笑っている。

這って逃げる女の背中に、灯油の油を振りかけた。

「ちょいと熱いが、我慢してくれよ」

吉田はマッチを擦り、火をつけた。

この火を落とせば、女は黒焦げだ。

いい女の苦しみもがいて死ぬ姿を見るのが、何より吉田の娯楽だった。

落とす前に吉田は後ろから誰かに足をつかまれ、うつ伏せにコケてしまった。

コケた拍子に、マッチの火を落としてしまった。

誰かが足を引っ張り、吉田は後ろに引きずられて行く。

そのドサクサに乗じ、村の若い女は這って逃げ通せた。

「放せええ~!」

吉田の顔が地面に当たりながら引きづられているので、誰が引きずっているのか分からない。

吉田は村の連中が報復しに、引きずっているのかと思った。

凄まじいスピードで、引きずられて行く吉田。

ようやく止まると、吉田は上半身を起こした。

「誰だか知らねえが、返礼は死で償ってもらうぞ!」

周りを見た吉田は、目が点になった。

目の前には、お地蔵さんが六体いるだけだからだ。

まるで、キツネにつままれたような感じだ。

こんな地蔵なんか無かったのに、いつの間に誰が運んだんだ?!

そんな事より、俺を引きずった奴はどこだ?!

吉田は辺りをキョロキョロと、見渡した。

誰もいる気配はない。

そんなバカな!

俺は誰かに引きずられたんだ!

理解に苦しむ吉田は、立ち上がろうとした。

その時、周りの地蔵が動いた。

「ええええ?!」

吉田の思考は、完全に麻痺した。

石の地蔵が動くなんて!

動く地蔵は吉田の両手両足をつかんで、体の自由を奪った。

「放せ~、この化け物~!」

抵抗する吉田だが、地蔵の握力は凄く、(あらが)えるものではない。

吉田は地蔵が灯油を、自分に浴びせたのを見た。

もう一体の地蔵が、火炎瓶を取り出した。

「おい、待てよ・・・」

地蔵に命乞いする暇もなく、火炎瓶の炎は吉田の体に落ちた。

「うげぎげがうああ~!」

吉田の全身は、炎に包まれた。

炎が全身を焼く激痛は、この世のものではない。

吉田は村中を、駆け抜けた。

「あちちちぃ~!」

だんだん、走るスピードが鈍くなってきた。

酒を飲みながら歩いていた大友は、炎に焼かれている吉田が倒れたのを見た。

「吉田!?」

倒れた吉田に駆け寄る大友。

しかし吉田はもう死んでいる。

「誰がこんな事をしやがったんだ?!」

怒る大友は、六体の地蔵が歩いて、こっちに近づいてきたのを見た。

「は?」

大友は酒の一升瓶を、地面に落としてしまった。

地蔵が歩くなんて!

こいつらが吉田に火をつけ、殺したとでも言うのか?!

今は応戦するよりも、逃げた方がいい。

近づく地蔵に背を向け、大友は走った。

仲間の連中がどうなったか、確かめるためだ。

村の入り口付近で見張り番をしたいる、夏樹に近づいた。

夏樹は椅子に座っている。

「おい、夏樹!ずらかるぞ!」

椅子に座っている夏樹の顔は、後ろを向いている。

大友は最初は、夏樹が後ろを向いているのかと思った。

椅子に近寄ると、夏樹の首はへし折られ、反対方向を向いているのだと分かった。

「ひいいい!」

わめきながら大友は、別の仲間を探した。

大村はどこだ。

あの野郎は、納屋で女を強姦していた。

納屋に入った大友は、信じられない光景を目撃した。

納屋内にはナタで頭を真っ二つに割られた、大村の死体が横たわっていたからだ。

夏樹も大村も、あの怪物地蔵にやられたんだ!

大友はパニック状態になり、逃げる事しか考えられなくなっていた。

遠くに見える火の見櫓には、広瀬が首を吊られているのが見えた。

何かが立ちすくしている大友の足めがけて、飛んできた。

その何かは、大友の足にグサッと突き刺さった。

「うがあっ!!」

足の痛みで大友は立っている事が出来ず、地面に尻餅をついた。

足を見ると農工用具である(すき)が、自分の足に突き刺さっているではないか。

クソッ、あの地蔵が投げたに違いねえ!

悲鳴を上げながら、大友は足に突き刺さった犁を引き抜いた。

足から血がドクドクッと、流れてきた。

このままでは、出血多量で動けなくなってしまう。

足に重傷を負った以上、走って逃げられない。

這ったまま、地蔵から逃げる大友。

大友は六体の地蔵が、ゆっくりと自分に近づいたのを見た。

一番先頭にいる地蔵めがけ、拳銃をブッ放した。

弾丸は確実に地蔵に当たっているが、石で出来ている地蔵にはハジキ返されてしまう。

バン!バン!バン!

大友は拳銃の弾丸六発を、撃ち尽くしてしまった。

弾が空になった拳銃を、大友は捨てた。

「俺をどうしようってんだ・・・?」

2体の地蔵が倒れている大友の両足を、それぞれつかんだ。

大友の体を、股裂きにするつもりなのだ。

地蔵たちは大友の足を反対方向へ向け、開脚させた。

「いげええぇ!」

股関節の外れる、ボキボキボキッという音が周囲に響いた。

大友は口から泡を吐き、激痛で気絶した。

それでも地蔵たちは、両足を引っ張る力を緩めようとしない。

ついに大友の片足は、股からもげてしまった。

まだ完全に大友は死んでいなかったが、目を覚ます事はない。

凶悪な囚人六人を始末した地蔵たちは再び霧に紛れ、加護村から姿を消した。

地蔵と入れ違いに、荒れ果てた加護村に浩一は戻ってきた。

あちこちで、火の手が上がっている。

まるで、空襲でもあったかのようだ。

これからどうやって、再建していけばいいのだろうか。

浩一は残りの村の人々が、一ヵ所に閉じ込められている馬小屋まで歩いた。

閉じ込められているのは、老人、子供など弱い世代ばかりだ。

外には関貫(かんぬき)が掛けられ、出られないようにしてある。

浩一は関貫を外した。

中にいる皆は、囚人たちが自分らを殺しにきたのかと思い、身構えた。

しかし扉を開けたのは、まだ年端もいかぬ小僧の浩一である。

皆は安堵のため息をついた。

「浩一、奴らはどうしたんじゃ?」

「全員、死んだよ」

「死んだ?」

「うん、死んだんだよ」

皆はゾロゾロと、狭い馬小屋から出た。

股関から血を流している大友が倒れているのを、皆は見た。

なぜだか、片足がもげている。

「誰じゃ、こんな事をしたのは・・・?」

まだ生きていると思い、一人の老人が干し草をすくう三ツ又で、大友の頭を刺した。

今度こそ、大友は確実に死んだ。

村人たちは村のほうぼうで、囚人たちが残忍な方法で処刑されているのを見た。

ある者は焼かれ、ある者は絞首刑、またある者は首の骨を折られ、墓石の下敷きにされている者も。

誰だか知らないが、村の危機を救ってくれたのだ。

浩一は後から村に到着した警察連中に、お地蔵さんたちが動いて助けてくれた、などと決して口外しなかった。

そんな事を言っても、キチガイ扱いされるだけだからだ。




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