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舞鶴怪談  作者: かわむら
6/20

2001

それから現代、2001年。

加護村は合併し、舞鶴市に組み込まれた。

加護地蔵の背後はこれまで雑木林でしか無かったが、近年道路が作られて便利になった。

新井浩一は老人になっていた。

舞鶴に生まれ育って、早や60年。

今は忠文という、五歳の孫もいる。

この年になっても、地蔵さんにお参りを止めた事はない。

加護村が21世紀になっても存続しているのは、ひとえにお地蔵さんのお陰だ。

今は一人ではなく、散歩を兼ねて孫と一緒にお地蔵さんにお参りに行くのが浩一の唯一の生き甲斐になっていた。

今日と浩一は孫と共に、お地蔵さんに花を備えていた。

浩一がほんの少しの間に目を放した隙に、孫の忠文は道路に向かってヨチヨチ歩きで渡ろうとしていた。

忠文の背後には、大型観光バスが迫ってきている。

バス内ではバスガイドが観光客に、加護地蔵の説明をしていた。

「皆様、右手をご覧下さい。あちらに見えますのが昔話の『笠地蔵』のモデルとなった加護地蔵でございます」

観光客はほお~と関心を寄せて、窓から地蔵を眺めた。

お爺さんが地蔵に花を添えているのが、見える。

観光バスの運転手はカーナビの操作に気を取られ、忠文の存在に気づいていない。

浩一は孫がそばにいない事に、気づいた。

「忠文?」

呼んでみたが、近くにいない。

辺りを見回す浩一は、道路の真ん中に孫が歩いているのを見た。

しかも孫の背後には、観光バスが迫ってきているではないか。

走っても、間に合わない。

孫がバスに()かれて潰されるのかと思うと、浩一は目をつぶった。

もうブレーキを踏んでも間に合わない時に、バスの運転手は目の前に子供が歩いているのを発見した。

「ええっ?!」

急ブレーキを踏み、乗客たちは前につんのめった。

一瞬の出来事だった。

お地蔵さんの一体が、素早い動きで忠文を抱き抱えると、走るバスから轢き殺されるのを防いだ。

運転手は信じられない物を見た。

お地蔵さんが動くなんて!

しかしあのお地蔵さんのお陰で、子供を轢き殺さずに済んだ。

バスの車内は、急ブレーキのせいで騒然としていた。

運転手はドアを開けると、車外へ出た。

お地蔵さんは目にも止まらぬ速さで、元いた場所に収まり、子供は無事でいる。

「お爺ちゃん、どうしたの?」

目を潰っている浩一を見て、孫が顔を覗き込んだ。

孫の声を聞き、浩一は恐る恐る目を開けた。

孫はすぐそばにいるではないか。

「忠文!」

浩一はしゃがむと、孫を抱きしめた。

バスからは、何事かと乗客がゾロゾロと降りている。

「おケガはありませんか?」

運転手が浩一のそばに寄った。

「見ての通り、孫は無事じゃ」

浩一は答えた。

「お爺ちゃん、お地蔵さんに助けてもらったんだよ」

孫が説明する。

「何を言うとるんじゃ。お地蔵さんが動く分けなかろうが」

浩一は、孫の言う事を否定した。

あの時から、もうお地蔵さんは何十年も動いていないのだ。

その後、バスの運転手は営業所に報告する時に、決してお地蔵さんが動いて子供を助けた、とは言わなかった。

精神状態を疑われ、運転が出来なくなるのは自明の理だ。










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