09 姫騎士さん、オークリーダーさんチのペットにピンチ
「くっ……殺せ……!」
寝起き一番、子ギツネの姿を見た姫騎士は、布団代わりの毛皮を跳ね除けてうめいた。
罠にかかった子ギツネを、オークリーダーは仕方なく、彼女の懇願を聞き入れた。
幸いにも肉の備蓄はあるから、小さな獲物をどうしても食べなければならないほど、危機的状況でもない。どうやらオークリーダーにとっては、デザート感覚だったらしい。
だが助けても問題となるのは、子ギツネの処遇だ。親とはぐれたのかわからない。乳離れはしているようだが、とても一人で生活できる体とは思えない。このまま森に放しても、他の獣に食べられるのは、時間の問題と思えた。
そうした理由で、子ギツネは彼女が世話をし、飼うことになった。
「お前を親と思ってるのか……それとも命を助けられたことを感謝してるのか」
彼女が騒いだことで目覚めたのか、オークリーダーがあくびをかみ殺して、その光景を評する。
しかしそれ以上は興味はないと、尻をかきながら外に出て行った。用を足しに厠に行き、ついでに顔を洗うために水場に行ったのだろう。同じ家に生活をしていれば、その程度の習慣は二、三日でわかる。
つまり、いま家の中には、彼女と子ギツネしかいない。
まだ怯えている様子のあるオークリーダーを見送ると、子ギツネは『褒めて褒めて』と言わんばかりに、嬉しそうに尻尾を振って近づいてくる。
「ひっ……!」
しかし彼女は恐怖の声を喉から漏らし、座ったまま腰で後ずさる。
子ギツネが近づいてくる。
彼女は下がる。
子ギツネはさらに近づいてくる。
彼女はもっと下がる。
しかし壁に背中が付いてしまった。もう下がることはできない。
彼女も多少は知っている。一般市民よりも知識や教育が身近だった生まれなのだから、動物の生態についても、狩人の経験則以上の知識を持っている。
肉食動物の子供は、じゃれあいや小さな動物との追いかけっこで、獲物を狩る術を学ぶ。
子ギツネも丁度いい遊び相手のつもりで、『それ』を捕まえたのかもしれない。
愛玩用として飼っている動物の場合、ときおり捕まえた獲物を飼い主に持ってくるとも聞いた。
親が子に獲物を運んでくるのと同じで、獲物を分けるつもりで見せにくるのだとか。
この子ギツネも、彼女を飼い主と認め、愛情表現として『それ』を見せに来たのかもしれない。
だが迷惑な行為でしかない。しかもよりによって、なぜ獲物が『それ』なのか。
幼い牙から逃がれようと、まだカサカサと足を動かしている、『それ』を見せに来るのか。いや死んでいたら問題ないというものでもないが。
「生きたゴキを持ってくるなぁぁぁぁっっ!?」
オークの集落に朝から、姫騎士の声が響いた。




