08 姫騎士さん、オークリーダーさんに命乞いする
「頼む……! 殺すな……! 殺さないでくれ……!」
オークリーダーを前に、姫騎士は涙目で懇願した。
彼は日中、家を空けている。狩猟や採集で原始的な生活を営むために。
その際、別段拘束などされていない。
だが逃げ出そうとは思わない。現実問題、オークの集落を脱走できないのだ。
ナイフなどはあるが、さすがに彼女の装備はどこかに隠されている。オークがどうこうという問題ではなく、着の身着のままに近い格好で、獣のいる森の中をうろつくのは、危険すぎる。迷い込んだ際にこの森が安全ではないのは、身を持って知っている。
それを理解しているから、拘束などされないのだろう。
だから彼女はオークリーダーの家で、家事をしながら彼の帰りを待つ生活を送っていた。
冒険者とは、それなりに過酷な職業だ。貴重な動植物の採集や、危険な魔物の討伐ともなれば、人の踏み入らない場所を旅しないとならない。旅人の護衛ともなれば、気の休まらない時間を過ごす。
もちろん依頼の合間に休暇日を設けるが、そういった日は宿でゴロゴロしていたりする場合が多い。
そして彼女は末子とはいえ、王族だ。誰かにかしずかれ、身を整えるのすら手を借りるのが当たり前。城を出てからはそんな経験はないが、
だからこのような時間を過ごすのは、彼女にとって新鮮であった。
そんな風に過ごしいたある日、陽が傾いた頃合に、狩りから戻ってきたオークリーダーを目に時、惨劇が起ころうとしていた。
「なんのつもりだ……」
苛立ちで小さな舌打ちして、オークリーダーは山刀を振りかぶったまま問う。
人間が使ならば大の男が両手でようやく扱うだろう、無骨な刃が降りてくれば、彼女の体など真っ二つされるに違いない。それでも彼女は必死に声をあげる。
「なんのつもりではない! お前こそどうするつもりだ……!」
聞くまでもない。この後の展開は、容易に予想できる。
自らの体が穢されると予感した時は、誇りに勘違いした強がりを吐くことがまだできた。
しかし今回は違う。土に汚れるのも構わず、彼女は地面に膝を突いて、惨めであろうと懇願する。
「モフモフじゃないか!」
「毛皮なぞ珍しくもないだろう」
「こんなに小さいんだぞ!」
「そうだな」
「にくきゅーぷにぷにだぞ!」
「そこが美味い」
「これを食うというのか!」
「あぁ」
彼女だって理解している。命を糧に人間は生きているのだと。
街中ではともかく旅をしている最中は、保存食だけではなく狩りで腹を満たすこともある。弓や罠で獲物を仕留め、血を抜き皮をはいで解体もした。
だけど『これ』を殺して食べることができるほど、彼女は無感情ではなく、荒んでもいなかった。
か弱き者を愛することができる少女だった。
「お願いから殺さないでぇぇぇっ!!」
狩りの成果として生きたまま連れてこられた、円らな瞳を潤ませて怯える子ギツネを胸に抱きしめて、姫騎士は懇願した。




