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07 姫騎士さん、オークリーダーさんチの台所でピンチ


「くっ……! 殺せ……!」


 (たきぎ)を手に、へっぴり腰で構える姫騎士は、震えながらうめいた。


「そっちに言ったぞ!?」

「そんなもの、放っておけばよかろう。森に入ればいくらでもいるぞ」

「森に入れなくなるようなこと言うなぁ!?」


 半ば天然の牢から出された彼女は、オークリーダーの家で寝泊りしているが、身柄は自由になっていない。相変わらず不審人物としての疑いが晴れたわけではないのだから、当然といえば当然だろう。

 それに彼女の身を案じての処置のようなので、オークリーダーが仕事で不在になる日中も、出歩くのは控えていた。

 そんな生活を感受するしかないのだが、とにかくやることがない。だから半ば暇つぶしのように、彼女は家事を取り仕切っていた。やはり推測どおり、オークリーダーには親も妻も子供もいなかったこともある。


 そうして今も、料理を作ろうとしていたのだが。


「早く殺して! お願いだから! 私それだけはダメなの!」


 冒険者などやっていれば、自然とグロいものを見る機会はある。死体はもちろん、生々しい傷、モンスターにだってグロいのはいっぱいいる。見慣れたとは到底いえないが、目にして吐かない程度には、彼女も度胸がついている。

 しかしダメなのだ。ヤツは。都市部であれば台所の天敵。婦女子の天敵。男でもそれはダメという(やから)も少なくない。

 黒々してテカテカしてカサカサする、彼女にとっては名を呼ぶことすら禁じる存在である、ヤツは。


「おい。出てきたぞ」


 唐突に、奴が隙間から飛び出した。


「ぎゃああああぁぁぁぁっっ!!」


 あまつさえ羽を震わせて飛び立ち、姫騎士の顔面へと襲い掛かってきた。

 避けることは叶わない。盗賊を相手すれば矢を放たれるのも当然、モンスターともなれば火球を放つ者までいて、それらを相手してきた彼女でも、幼子のように身を凍らせてしまう。

 せめてその瞬間を目にすまいと、しかし受け入れるかのように、思わず瞼をきつく閉じた。

 だが覚悟した感触は、いつまでも襲ってこない。耳をすましても、ソレが発する音は聞こえない。


 恐る恐る瞼を開くと、目の前に大きな拳があった。太い腕を視線でたどると、いつの間にかオークリーダーが側にいた。

 どうやら彼が、空中でヤツを捕まえたらしい。


「うるさいな……たかがゴキ――」

「ヤツの名前を言うなぁぁぁぁぁっ!?」


 涙目で発した姫騎士の叫びが、夕暮れの集落に響き渡った。

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