04 姫騎士さん、オークの集落で夜にピンチ その2
「くっ……! 殺せ……!」
やって来たオークに、姫騎士は牢の最奥まで後ずさってうめいた。
先ほどやって来た女性オークは、彼女に食事と毛布を持って来てくれた。捕虜扱いされているが、かなりの好待遇であることに、オークという種族の性質が現れている。
そんなことを考えつつ、粗末な毛布で寝ようとしたところに、また新たなオークが牢にやって来た。
「ぶへへへ……メスだぁ……」
下半身を覆う粗末な衣服の、前部分が膨らんでいる。鼻息は荒く、牙を覗かせた口元を緩め、涎は垂らさんばかり。
どういうことか理解できないほど、彼女も無知ではない。これまで出会ったものとは明確に違う、噂に聞く野獣としてのオークの姿そのままだった。
(今度こそ、犯される……!?)
女性としての本能的な危機感に、体が後ずさりしたが、背中は牢の一番奥に触れてしまった。元より牢なのだから大して広くもないが、もう逃げることは叶わない。
(死ぬ! あんなの突っ込まれたら死ぬ! どう考えても!)
股間の膨らみを実際に目にし、その大きさには女性としての尊厳だけでなく、命の危機すら覚える。
「でへへへへ……」
彼女のそんな恐怖心など知ったことではないと、巨大な影がのしかかるように近づいてくる。すれば土の匂い、草の匂い、汗の匂い、そして饐えたような匂いが強く鼻に届く。
闇でもわかる、興奮で爛々と光る目に息を呑み、彼女は瞬きすら忘れて硬直する。
「こぉらぁぁぁぁぁっっ!!」
「ぶげらっ!?」
だが突然の絶叫と共に、覆いかぶさろうとしていた巨体が横に吹っ飛んで、壁に半ばめり込んだ。
入り口の茨が揺れている。そしてもうひとつ巨体が存在している。声の感じから察するに、つい先ほど毛布と食事を持ってきた女のオークが、暴風のような勢いで、牢の中に突入してきたらしい。
「またアンタはぁぁぁぁっ!」
おばちゃんオークは横に吹っ飛んだ男オークを、太い腕一本で掴み、無理矢理壁から引き剥がす。
人間からすればどちらも巨体の持ち主だが、比べてみればおばちゃんオークのほうが、ひと回り大きい。
「かーちゃんごめ――ぷぺっ!」
「まったくまったくまったくまったく! 狩りもろくに行かない飲んだくれが!」
きっと謝罪の言葉を口にしようとしたのだろうが、おばちゃんオークは聞く耳を持たず、胸倉を掴み上げてビンタ一発。手加減は全くなく、闇の中で牙が折れ飛ぶのを見た。
「なのに若い娘と見たらこれだよ! この節操なしの甲斐性なしはぁぁっ!」
「ぶべ!? か、かーちゃ――ぼべ!?」
ビンタは一発では済まなかった。日頃の鬱憤を晴らす目的も多分に加味されているだろう、もはや言い分も聞かず往復ビンタで男オークの顔が逆を向く。
もう一発。いや一発どころではない。タコ殴りだった。暗い中で行われているので、惨劇は具体的に見えないのが幸いか。
「はぁー……はぁ……」
しばらく続いた肉が衝突する湿ったヤな音が止み、荒い息が狭い牢に吐き出される。彼女がなにも言えないまま、やがて湯が冷めるようにおばちゃんオークの熱が冷める。
「ごめんなさいねぇ。夜中に騒がせて。ゆっくりお休みよ」
「あ、いえ……お休みなさい」
おばちゃんオークの戦闘力と、事態の急変具合、あと自分を襲おうとした男オークがグッタリしている様。それを見て呆気に取られた姫騎士は、言葉少なく、ただ男オークが引きずり出されるのを見送った。




