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17 姫騎士さん、オークの集落でのことを語る

「くっ……! 殺せ……!」


 ある街についた途端、身柄を拘束された姫騎士はうめいた。


「そのようなお言葉は誤解を生むので、やめて頂けませんか、姫様?」


 それに顔見知りの使用人が、冷たい視線でため息をつく。まだ彼女がただの姫で、城で暮らしていた時、遊び相手兼お目付け役でもあった女性だった。


 オークの集落を出て、また旅を再会した彼女が大きな街に着くと、大騒ぎになっていた。

 とはいえ、大事件や災害が起きたわけではない。この国の王族が、公務で訪れているとのことだった。

 彼女はまずいと思ったが、その時には遅かった。顔見知りの兵士に見つかってしまい、王族が停まる宿に連れてこられてしまった。


「一体どこを旅されていたのですか? 城下町でも姫様の姿が最近見えないと、騒ぎになっていたのですよ? 冒険者ギルドでも依頼受注が最近ないため、死亡が噂されていたのですよ?」

「いや、まぁ、ちょっとな……」


 彼女はこの女性が少々苦手だった。だから、いくらでも言葉を(ろう)して誤魔化すことができるはずだが、なんとなく言いよどんでしまう。


「あぁ……冒険者などになったばかりに、おいたわしい……幼い頃、おねしょをしてしまったベッドシーツの始末に困って泣いていた、あの可愛らしい姫様はどこにいったのでしょう……」

「だからそういう話を声高に言うなぁぁぁぁっ!?」


 こういうところが苦手だった。言うなれば親戚のおばちゃん感覚。当人の記憶もあやふやな過去の恥を赤裸々に語るので始末が悪い。

 王族の護衛であろう兵たちが、半笑いを浮かべているのを、涙目で睨みつけたら、部屋の扉が開いた。


「あらあら……久しぶりに顔を合わせたと思えば」


 そして女性が入ってきた。たおやか雰囲気だが、顔は姫騎士との特徴を見出せる人物が。

 外出着から着替えた、この国の王妃が。


「お久しぶりです。母上」


 兵士たちは人払いされたため、その場には王妃と使用人と彼女のみ。家族としての会話が許されたため、相手を王族ではなく母として話す。

 しかし相手は、その態度でも不満らしい。


「もぉ~、他に誰もいないのに、固いわねぇあなた。久しぶりの親子の再会よぉ~? どーんと胸に飛び込んで来ていいのよぉ~?」

「……もう一人いますが」


 チラリとお茶を淹れる使用人に目をやると、彼女からは『置物だとでも思ってください』と返された。

 更なる弱みを与える真似はしたくないので、冗談でも胸に飛び込んだりしないが。


「それで、どこでなにしてたの? ずっと行方不明になってるって、城下町じゃちょっとした話題になってるって聞いたけど」

「いえ……ある集落に滞在していまして。行商人も行かないような人里離れた場所でしたので、そういう噂になっていたのでしょう」


 王妃が発した使用人と同じ質問を、使用人とは異なる理由で言いよどむ。

 城下町でのオークの評判は、彼女が最初抱いていたものと大差ない。なので『オークの集落で暮らしていた』などと話した反応を恐れたため、真実をぼかした。


「まぁ、あなたなら大丈夫だろうと思ってたけど」


 そう返して、王妃は静かに紅茶をすする。

 心配かけないようにと気遣いしたが、仮にも娘にその薄情さはどうなのだろうと、彼女は考えた。さすがにこの歳になれば、親から愛されていないなどと認識はせず、単に『そういう人』と納得せざるをえない。


「どのような集落だったのですか?」


 話がぶった切られたような形になったためか、使用人が彼女の前にも紅茶を出しながら問う。


「先ほど言った通りだ。なにもない集落でな……修行のようであり、休養のようであり、まぁいい経験ではあったと思う」


 冒険者などしていれば、紅茶など飲まない。久しぶりの味を舌に転がしながら、彼女も答え。


「……暮らしている連中は、ちょっと変わっていた集落であったがな」


 ボロが出ないうちに話を締めくくる。


「ふふっ……なんだか懐かしそうなところね」


 けれども王妃が続ける。しかも引っかかる言い方で。


「母上。懐かしい、とは?」

「ん? 私が子供の頃、そういう場所で一年くらい暮らしていたのよ。王都なんかとは比べ物にならないくらい、なにもない村だったけど、いいところだったなぁ。住んでた人たちもちょっと変わってたけど、いい人ばかりだった」

「…………」


 予感を覚えた。彼女の記憶にある限り、母がそんな境遇に遭ったとは聞いたこともないが、妙に符号する。

 だからティーカップを置き、豪華な部屋には不釣合いな背嚢(はいのう)を探った。


「母上、このドレスに見覚えがありませんか?」

「まぁ……」


 あのドレスを見せると、即座に王妃の顔が小さな驚きに変わった。明らかにドレスの由来を知っている反応だった。

 昔の思い出が、予想だせぬ形で出てきたと。


「あなたもあの村に行ったの?」

「いえ、まぁ……彼らに助けられまして」


 母が娘に笑みを向ける。娘はどう反応していいかわからず、顔を歪める。


「というか、母上が幼い頃、そのような目に遭ったなど、初耳なのですが……」

「それはそうよぉ。色々と恥になるもの」


 精鋭であるはずの護衛が野盗に対抗できず、後に王妃となる娘が一年間も行方不明になってしまったなど、確かに外聞が悪すぎる。

 しかもオークに助けられ、その集落で暮らしていたなど、市井(しせい)に広まる認識を考えれば、とても明かせるものではない。

 もし真実が広まっていたら、彼女は修道院にでも入って未婚のまま過ごし、彼女は生まれていなかっただろう。


 若干(じゃっかん)顔を引きつらせ、姫騎士は壁際に立つ使用人に忠告した。


「席、外したほうがいいんじゃないか……? 私のオネショどころじゃなくて、本気で命が危うくなる内緒話になりそうだから……」


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