14 姫騎士さん、オークリーダーさんの過去を知る その2
「村長の家族かい?」
「あぁ。これは人間の……というか、私の考えだが……」
姫騎士は集落の集会場で、繊維を槌で潰しながら、オークの奥方たちに聞いてみた。ちなみにメイド服は一日だけで、一着きりの旅装に戻っている。
「長などという立場で、独り身なのは妙に思って」
「ふーん……言っていいのかねぇ?」
「そうだねぇ……」
「知ってるモンは知ってるけど、村の若いモンじゃ、知らないのもいる話だしねぇ……」
オークの奥方たちが顔を見合わせる。井戸端会議を聞いていれば、いつもおばちゃん根性丸出しで、集落内ではプライバシーなど守られそうにないのだが。
オークリーダーの家族は、集落内でタブー視される話なのかもしれない。
「ま、いいか」
「そうだね。古い話だし」
「そうよね」
しかし、おばちゃんたちの口を閉じさせるほどでもなかった。思わずガクッとくる。
「村長がまだ若造の頃、嫁さんはいたんだけど、子供はいなかったんだよ」
そして前置きなく確信に近い話が出てきた。家族というあいまいな言い方で質問したが、彼女が聞きたいのはドレスの持ち主だったという、娘の話だ。話の筋道が立っていないおばちゃん語りでは、ちゃんと聞いていないと聞き逃してしまいそうだから、手を動かしながら耳に集中する。
「それでね、あるとき嫁さんは、病でポックリ逝っちゃってね」
「あの時は村でも病が流行ってたからね……何人か同じように死んじまったけど」
「あの子はほんと、あっという間だったね。あんまり体が丈夫じゃなかったのもあるけど」
おばちゃんたちの語り口が軽いような気もするが、彼女は軽率な口は挟まない。死を悲しまず笑って送り出す文化もあることを知っている。
『体の弱いオーク』の想像に苦労しながらも、ただ脱線しないことを祈る。
「でね? あの人、村を飛び出しちゃったんだよ」
「え……? そんなことが許されるのか?」
「若い頃に生まれ故郷を飛び出すなんて、よくある話じゃないのかい?」
意外にも思ったが、おばちゃんに言われて思い直す。
確かに自分の境遇を変えたくて、異なる世界を見ようとするなど、珍しい話ではない。彼女自身がそうなのだから。
「だけどあの人の場合、やっぱり嫁さんが死んだのが、耐えられなかったんだろうね……」
おばちゃんオークが顔を歪める。その程度の表情変化は、集落に暮らしていると見分けできる。
「でも何年かして、また村に戻ってきたんだよ」
「『娘』を連れて、ね」
彼女が聞きたかった話の確信に触れた。手を止めて耳を傾ける。
「ねぇ、あんた。ここに来た頃、あたしたちオークのこと、だいぶ警戒してたろ?」
でも話が脱線した。
『はよ本題話せよ』と思いながらも、彼女は頷く。口出しして軌道修正を図ろうとすると、余計に脱線がひどくなる場合があることを、おばちゃん生態学として理解しているので、もう少し様子を見る。
「あたしも人間見るのが初めてだったら、やっぱり警戒してたかもね」
「あたしたちは、人間を見るのは、初めてじゃないんだよ」
「若い連中は見るのは初めてでも、親や長老から話は聞いてるだろうからね」
おばちゃんオークたちの言葉に納得する。脱線が必要だったことも、オークリーダーが人間の剣術や文字を知っていることも、本題も。
しかも決定的な言葉が出てきたため、姫騎士の誤解などではなかった。
「まだ村長じゃなかったあの人は、人間の子供を連れて、この村に戻ってきたんだよ」




