13 姫騎士さん、オークリーダーさんの過去を知る その1
「くっ……」
『殺せ』のセリフは出てこなかった。だが姫騎士は唇をかみ締め、屈辱に耐えた。
「……お前、なにやっている?」
今日は戻りが遅く、夕暮れ時になってから家に帰ってきたオークリーダーに、メイド姿に呆れたような声を出されたために。こうなると子ギツネの無垢な視線すら辛くなってくる。
だが着替えることはできない。いつも着ていたあの服は、オークおばちゃんに洗濯されたために。朝から洗濯していれば乾いていただろうが、棹に干された服はまだ乾いていない。
「集落の奥方たちに、無理矢理着替えさせられたのだ……」
「そうか」
オークリーダーはそれだけ言って家に上がり、毛皮のマントや山刀を外していく。
(まぁ、そうだよな……)
女とはいえ、人間には興味を持っていない様子の彼だ。この淡白さでは同じオークでも怪しい。『着飾る』と言うには微妙だが、普段と違う服を着ているからといって、部屋を模様替え程度の反応しかなくて当然だろう。
「お前もそんな格好をするのだな……」
しかし続きがあったらしい。彼は今まで空けたところを見たことがない、部屋の隅に置いてあった箱を開き、なにやらあさって振り返り。
「じゃぁ、これも着てみるか?」
「ちょっと待て!? なぜ女もののドレスをお前が持っている!? しかも人間用!」
見せられたもの――少女用サイズなフリフリドレスに、思わず彼女を叫んだ。
直後に冷や水を浴びせられたように、思考が冷えて顔が強張る。
(まさか、略奪品?)
ここでの生活に用事のないものを持っている理由として、咄嗟に思い浮かべてしまった。
「違うぞ」
そんな考えは伝わったらしい。いつもの物言いだが、どこか不機嫌そうにドレスを放ってくる。
ドレスに血の染みや穴もない。それに古びてはいるが、王侯貴族が仕立てるほどの高級品と思える。仕立て直せば着れるかもしれないが、どう見ても子供ものだ。
略奪品ではないにしても、やはりこの集落に存在するのはおかしい品だ。
経緯の説明を込めて彼女がオークリーダーに目をやると、彼は水甕の水を柄杓で飲んで、一言だけ語った。
「『娘』……といっていいのかな。そいつのものだ」




