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12 姫騎士さん、オークのおばちゃんに囲まれてピンチ


「くっ……! 殺してくれ……!」


 姫騎士は周囲のオークに聞かれぬよう、小さくうめいた。


 集落での生活は、平穏なものだった。

 オークの男たちは日中、狩りや採集を行うために森に入る。

 オークの女たちはその間、家事を片付ける。

 その様は人間と大差ない。井戸端会議に花を咲かせながら、水辺で洗濯をしたり鍋釜を洗っている。家の近くでもやはり世間話に花を咲かせて、なにか作業をしたり、おすそ分けしたりしている。

 

 彼女もオークリーダーに居候している身、その場に混じらなければならないわけだが。


「あははははははは!」

「やーねー! もー! あなたのところのダンナってばー!」

「アンタのところも変わらないでしょー!」


 このオバちゃん空気に馴染むことができない。

 文句を言うことはできない。人種も年代も生活習慣も違う彼女を別段排除することもなく、気さくに話しかけてくるのだから。

 しかし相手は全員自分よりも巨体の持ち主で、好奇心モロ出しで話を聞こうとするため、引く。悪意がない分、どう対応していいのかわからない。


 しかも今日は、様相が少々違った。


「それにしても、まさか村長(むらおさ)、あんなみたいな細っこいのを嫁にって思ってるのかねぇ?」

「いや、あの男にそのつもりはないと思うが……」


 野性的な様相でありながら、オークリーダーは理性的な態度だ。彼女が知るオークの認識を(くつがえ)すほどに。

 居候させてくれた件を見ても、気にかけてくれているのはわかるが、それ以上の感情があるとは思えない。性的な意味では拒絶するような言葉を吐いていた上に、同じ家に暮らして危機感を覚えることもない。着替えや湯()みを覗かれたこともなく、オークサイズの家事に無理があることは率先して引き受けてくれるので、紳士的とさえ言ってもいいだろう。 


(というか、もしも体を求められても、困る……)


 そして彼女もそんな感情を抱いていない。

 さすがに現物と長時間接していれば、もはや噂を鵜呑みにした恐れを抱くことはない。だが恋愛感情までは発展しようがない。


(あの体だと……私の腕くらいあるのではないか? そんなの突っ込まれたら死ぬ……)


 勝手にシモな想像をして、少し頬を赤らめて、改めて否定した。


「……ところで、だ」


 忘れるためにも話を変えて、今の状況を思い出す。


「なぜ私は、服を着替えさせられているのだ?」


 オークおばちゃんに囲まれている理由は、それだった。オークたちが身に纏っているのは、獣の毛皮や、植物の繊維を編んだ布だ。そういった服を彼女も着替えさせられていた。

 自然とではあるが憮然とした口調で批難が出たが、オークおばちゃんたちは気にした様子もなく、笑いながら説明する。


「いっつも同じ服を来てるじゃないの」

「あたしたちでもそういうことはしないよぉ」


 ただでさえ服は高価なものだ。街で根城にしている借り家には数着があるが、そんなに服を持っていない。

 それに旅には服はかさばる。下着の換えが一組あるだけで、着替えなど持ち歩きはなしない。

 だから彼女は当然、集落に滞在している間、着たきりスズメをやっている。


 彼女も女だ。冒険者ともなれば半ば女を捨てなければならないが、やはり性根は変えられない。

 だから着替えを用意してもらうことは、悪い気分ではないのだが。


「しっかし、腹も腰も細いねぇ。こんなんじゃ頑丈な子を生めないよ? しっかり食べなきゃぁ」

「そこはオーク基準で考えられても困るのだが……ヴッ!?」


 腰の紐を思い切り締められたため、反論は息と一緒に詰まった。まだただの姫であった時、舞踏会ともなれば、こうしてコルセットを締められたのを思い出した。

 いや反論したいのはそこではない。人間でも農村部ではそういった基準で女を選ぶ場合もあるようだが、彼女の基準は違うが、文句をつけたいのではそこではない。


「ほーら、これでどうだい? ちょっと暇つぶしに作ってみたんだけどねぇ、自分たちじゃ、なかなかの出来だと思うんだがね」

「その親切はありがたいと思うのだが……そして服飾技術は素晴らしいとも思うのだが……」


 オークおばちゃんが、頭に飾りを載せている。

 まれに危険な魔物が出るとわかっている時には、兜を被って完全武装することもあるが、普段はなにも頭につけない。しかし髪を押さえつけられる違和感は、思ったほど強くもない。彼女が知るこの手のもの、顎下でヒモを結んでいたのだが、どういうわけか柔らかい枝のようなものが頭を軽く締めつけると落ちない。


「こういう服、あたしらじゃ着ることなんてできないしねぇ。まぁ、作るのは面白かったけどねぇ」

「それは結構と言いたいのだが……」


 オークの集落に鏡などない。ただでさえ高価な代物で、一般家庭にもない物だから、仕方ない。

 だが水鏡を見なくても、自分の格好はわかる。


「なぜ使用人のお仕着せ!?」


 ホワイトブリムにエプロンドレス、フリルとリボンが愛らしい完全無欠なメイド姿で、姫騎士は叫んだ。

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