11 姫騎士さん、オークリーダーさんと勝負してピンチ
「くっ……! 殺せ……!」
戦いの様相に絶望し、姫騎士はうめいた。
「その言葉をやめろ。お前の悪いクセだ」
しかしオークリーダーは取り合わず、手を動かす。
オークの集落は夜が早い。日が昇るとともに活動し、日が沈むとともに眠りにつく。もちろん明かりは存在し、点けて宵を過ごすこともあるようだが、それでも寝つくのは早い。時計も存在する人間の都では、酒場は充分営業時間内でも、ここでは物音はほとんどしない。
そういった生活をしていた彼女にとって、夜はいささか暇を持て余していた。真似をしようにも床に入る時間が早すぎるため、寝ることができない。懐いている子ギツネと遊んで時間を潰そうにも、夜は早々に丸くなって、飼い主は放置される。
なんとかするために、彼女は昼間の空いた時間を使い、木片をナイフで削ってコマを作り、盤上ゲームを作っていた。
幼い頃に過ごしていた王宮にあった物は、動物の牙に彫刻した、もっと凝ったコマだった。だが実用には問題ないと、紐を格子状に結んだものを床に広げて盤とし、プレイしていた。
「すぐに物事を投げ出そうとする」
こういった、ルールと専用の物を必要とする遊びは、一般市民には広がりにくい。人間のことを多少知っているオークリーダーも、盤上ゲームは知らなかった。興味を示しためにルールを教え、プレイしているのだが。
語りながら進められたコマの動きに、彼女はうめき声を飲み込んだ。既に説教モードが入っているのに、また変なセリフを言いたくなかったから。
「剣もそうだったな」
オークリーダーの言葉を聞きながら、王の目前に置かれたそのコマから逃げる。取ると別のコマに取られるため、他に手はない。
おかしい、と、彼女は振り返る。
ゲームの強さに自信を持ってはいなかった。しかし今日知ったばかりの素人に負けるほど弱いとも思っていなかった。
それがなぜ、こうなったのか。説教じみたセリフを聞きながら、情けなさいっぱいでコマを動かさなければならないのか。
「お前の剣筋は綺麗すぎる。野盗の類には充分であろうが、すぐに壁に当たるだろう。魔物相手であれば、よくもまぁ今まで無事であったとも思う」
オークリーダーの太い指がコマをつまみ、また一歩、窮地の場に送り込んできた。
言葉が痛い。それは彼女も自身で理解している。
冒険者としてはそこそこ名は知られているが、腕前よりも見た目によるところが大きい。危険な賞金首や突発的に強大な魔物と相対した時、果たして生き残ることができるだろうか。
剣を生きることは、まだ彼女がただの姫であった頃に見た、一種の夢だった。その想いは、実現しようとする道に踏み出し、いかに現実を知らない夢想だったのかと思い知っている。
「潔さ。誇り。そういったものを否定するつもりはない。だがそれは、諦めが良すぎる、執着心がないとも取れる」
オークリーダーの言葉には、反論したかった。しようとした。
「お前には、守るものがないのだな」
だがコマを一歩下げたところで、先に彼が言葉を続けてしまった。
「守るものを持ってる者は、意地汚くても生きようとする。それと命を天秤にかければ、『殺せ』と言うかもしれないが……本当の最後の最後でしか、そんなことは言えない」
重い言葉だった。いや主には彼が動かしたコマのほうが原因なのだが。
そして最初に決めたルールを思い出し、また落ち込む。
オークリーダーから言い出したため、投了は許されていないのだ。
「壁にぶつかれば、命を投げ出せばいいとは、楽な生き様だな……少しは足掻いてみたらどうだ?」
手が重い。オークリーダーの言葉が心に染み入るからではなく、この状況でそんなことをなぜ言われなければならないかという想いで。
彼女は情けなさで潤み始めた眦を決して。
「足掻いてどうにかできるわけないだろぉぉぉぉっ!! 早くトドメを刺せぇぇぇぇっ!!」
完全に取り囲まれた王のコマしか残っていない盤上を指さし、姫騎士は涙ながらに叫んだ。




