第8話 地球侵略を狙う悪の宇宙生物退治
4月12日 0930
1時限目の後の休憩時間。
屋上からマゼラと教室に戻ると、クラスメイトたちが色々と問い詰めようと待ち構えていたが、ちょうど2時限目のチャイムが鳴ったため命拾いをした。
しかし、それからは休み時間になるたびに、マゼラと亘はクラスメイトたちに取り囲まれ、尋問を受けることになる。
「えっ、その、あの……」
と、しどろもどろになり、まともに答えることができない亘と違い、
「実は、私が小さい頃、亘さんの家の近所に住んでいたことがあるんです。そのとき家族ぐるみでお付き合いをさせてもらいました」
「まさか、この学校に亘さんがいるなんて知らなかったので、とても驚きました」
「屋上で何をしていたか?ですか? 別に挨拶をしていただけですよ」
ニコニコと笑顔のまま、マゼラがそう答えた。
「じゃあ、西條ってマゼラさんの幼馴染なんだ」
「くそっ、西條のくせに生意気な」
クラスメイトたちも、彼女があまりに堂々としているので、納得するしかなかった。
「なあ、西條。俺たちって、友達だよな」
馴れ馴れしく男子生徒が亘の肩を抱きつつ、そう言ってくる。
「ゴメン、このクラスになってから、まだ一度も話したことなかったよね」
「俺とは2年生の時、同じクラスだったよな?!」
「そうだな。そう言えば、お前にはジュース代を貸したまま返してもらっていなかったな」
これまでまともに会話をしたことがない男子たちが、急に親しげに話しかけてくる。
「まさかマゼラさん、西條君と付き合っているとか?」
女子は女子で、二人の関係を怪しんでいるようだ。
そしてマゼラが、
「違いますよ。でも、大切なパートナーではあります」
などと、意味深な回答をしたため、変な勘違いをさせてしまう。
「へぇ~、それってどういう意味?」
彼女にそう質問をしたのは、よりにもよって南條 由利亜だった。
興味津々といった感じで、ニヤニヤと笑っている。
「そうですね。いつでも心が通じ合っているみたいな」
それはマゼラフィギュアで思念通話が可能という意味で言ったのだが、当然だがクラスメイトたちにはさらに勘違いを加速させていく。
「何だと西條、てめぇ、死にたいのか?!」
ついさっきまで親友だと言っていた男子たちの態度が急変する。
「何で俺がこんな目に……」
「疲れた。本当に心の底から」
放課後になると、亘とマゼラは再び校舎の屋上に来ていた。
クラスメイトたちは、マゼラの歓迎会をすると言って騒いでいたが、まだ引っ越しの後片付けが終わっていないからと言って、逃げてきている。
「地球人の学生は皆さん元気ですね」
「そうか?」
「そうですよ。亘さんも、もう少し元気を出して、皆さんと打ち解ければ良いのに」
「大きなお世話だ」
そんなことは、とうの昔に諦めている。
「あの、亘さん」
マゼラが表情を引き締めると、正面から彼の目を見つめた。
「何だよ?」
少し戸惑いつつ、そう聞き返す亘。
「正義のヒーローに憧れていたのではないのですか?」
「…………」
「もちろん地球人の身体能力やテクノロジーレベルでは、超人的な身体能力を得ることは難しいですし、スペーススーツのような装備を開発することもできません。それでも、そういう物に憧れていたのではないのですか?」
「マゼラ……」
「何でしょう?」
「確かに俺は正義の味方、つまりヒーローに憧れていたよ。しかし、断じて変質者になりたかったわけじゃない」
そう言うと、亘がさめざめと泣く。
すると、マゼラが、
「それならば、証明しましょう」
「俺が、その変質者だって?」
「違います。亘さんは正義のヒーローだってことをです」
それを聞いて、亘が顔を上げた。
その手をマゼラが取って、ゆっくりと立たせる。
「スペーススーツを使って人助けをすれば、昨日の公園での一件は誤解だったと、皆さんに伝わるはずです」
「えっ、あの超ダサスーツで、人助けなんかするの?」
「そうです。宇宙犯罪組織と戦うために作られたものですが、その能力を使えば、困っている人を助けることだってできるはずです」
「た、確かに……」
スペースビームなどは威力が強すぎて使いどころが難しいが、それ以外の機能は使い方次第で、人助けができる。
「で、でも良いのか? あのスーツって対犯罪者用の装備なんだろ? それを目的外で使っても」
「本当は駄目なのですけど、スーツの装備者である亘さんが、こんな状態では犯罪取り締まりどころではありませんから」
「…………」
「さあ、亘さん、さっそくやってみましょう」
マゼラがそう言うと、亘の学生服のポケットに手を突っ込んで、そこに入っているマゼラフィギュアを取り出し、その手に握らせた。
「わ、分かった」
とりあえず、言われた通りにしようと思い、亘が美少女フィギュアを頭上に振りかざして、ブンブンと振り回してスペーススーツを呼んだ。
すると校舎の屋上が眩しい光に包まれ、気が付くと亘の足下にスペーススーツが置かれている。
「さあ、着てください」
「ううっ、何か嫌だなぁ」
昨日のことがトラウマになっているため、装着するどころか見るだけで、軽い眩暈と吐き気がしてくる。
とりあえず震える指でそれを摘まむと、持ち上げた。
「いやですよ、亘さん。それでは、まるでお漏らししたパンツみたいじゃないですか」
「俺にとっては、それ以下なんだけど」
「着ちゃえば見えなくなりますよ」
「そうなると、今度はこれを身に着けている俺が皆に見られるってことだよね」
着なければ、ダサいスーツを持った人でしかないが、着れば亘自身が変質者になる。
「あっ、マスクとサングラスを家に置いてきた」
そもそも、このクソダサ変態スーツを着るつもりなど無かったから、持ってくるつもりもなかった。
「それなら、これを使ってください」
そう言うと、マゼラが制服のポケットからサングラスとマスクを取り出した。
「何で、そんな物を持っているんだよ?」
「これは、宇宙警察の標準装備です。このサングラスはモニターですし、マスクを着ければ宇宙でも水中でも呼吸ができます」
「本当かよ」
受け取ってからまじまじと見つめるが、コンビニで買った物より安っぽい。
それでも、このスーツ姿で素顔を晒すよりはましだと考えて顔に着ける。
すると……。
「おおっ?!」
亘の網膜に直接、文字やグラフのような図形が投影された。
「な、何だこりゃ? 意味が分からない」
しかし、亘は宇宙標準語が読めない。
「ですよねぇ~」
マゼラがそう言うと、その機能がオフになり、普通のサングラスになる。
あと、マスクも着けていることを忘れるほど、装着感がない。
「それじゃあ、聴力と視力の機能をアップしてください」
そう言われ、意識を集中すると、遠くのものが見えたり、音がクリアーに聞こえてきた。
「これって、いきなり爆発とか起こったら、耳が大変なことになるんじゃないか?」
「大丈夫です。強い光や大きな音はスーツが自動で防ぎますから」
「本当かなぁ~」
試しに、学校から見えるビルに意識を集中してみると、
そこで働いている人たちの声や、パソコンを操作する音などが聞こえてきた。
「おおっ?! これを使ったら産業スパイや浮気調査ができそうだ」
「もちろんできますけど、亘さんが見たり聞いたりしたものは、全部UFOでデスラー保安官も情報共有していますからね」
「ま、マジか?!」
悪いことに使ったら、あの見た目が凶悪宇宙人にすぐにバレて、滅茶苦茶怒られるということだ。
「あと、透視機能はありませんけど、武器や危険物の反応を察知すると教えてくれます」
「武器も危険物も、できれば遭遇したくないなぁ」
そう答えつつ、視線を隣の5階建てマンションへと向ける。
昼食を作っているオバサン、ソファーでくつろぎつつスマホを弄っている若い男。
壁は無理だが、窓越しなら家の中が見える。
その時、亘の耳に若い女性の悲鳴が聞こえた。
「な、何?!」
意識を集中すると、その悲鳴が聞こえてきた場所が拡大される。
それはマンションの最上階の部屋からだった。
部屋の中からベランダにスウェット姿の若い女性が逃げ出してくる。
そして彼女の視線の先には、手に何か持った男のシルエットが映っていた。
「カーテン越しだから、ハッキリと見えない」
しかし、スペーススーツは、その男が持っている物は武器だと警告してくる。
「た、大変だ!!」
亘はその場でジャンプをすると、スペーススーツの飛行機能をオンにした。
時速1キロメートルから100キロメートルまでは細かく速度を設定できるが、それを越えると音速単位になり、最大速度はマッハ10だ。
急いで飛んで行きたいが、音速を越えるとソニックウェーブが発生し、窓ガラスが割れるなどの被害が発生する。
仕方がないので、時速100キロメートルで目標のマンションを目指した。
「怖い、怖い、滅茶苦茶怖い!!」
勢いで校舎の屋上から飛び出したまでは良かったが、命綱無しで高速ジップラインをしているようなものだ。
何の訓練も受けていない亘が平気なわけがない。
おまけに、目標のマンションがあっという間に目前に迫ってくる。
「わぁあああ、ぶつかる!! ぶつかる!!」
減速しなければならないのだが、パニック状態のため、それができなかった。
ベランダに避難をしている若い女性の横を飛び抜けると、そのまま窓ガラスを突き破ってリビングに飛び込み、ソファーやテーブルを吹き飛ばし、そのまま奥の壁に頭から突っ込んだ。
「うぉ!! な、何だ?!」
そこにいた男が驚いて尻もちをつく。
「な、何? 飛行機が突っ込んできたの?」
ベランダにいた若い女性がそう言って、中を覗き込んでくる。
「い、いや、赤い人間に見えたけど」
彼がそう言った時、壁にめり込んでいた亘が這い出してきた。
通常なら即死していてもおかしくないのだが、スペーススーツのおかげでノーダメージだ。
「お、おい、お前、武器を捨てろ!!」
亘が何とか立ち上がると、ビシッと若い男を指さしつつそう言った。
「ぶ、武器?」
しかし、そこにいた男性は、トレーナー姿の普通のおっさんで、右手に殺虫剤のスプレー缶を持っている。
「あ、あれ?」
そう言いつつ、自分がめり込んでいた壁を見ると、そこには無残な亡骸を晒しているゴキブリが。
「で、でも、確かに武器って……」
今も、スペーススーツは、男が右手に持っている殺虫剤を武器として警告していた。
まあ、確かにゴキブリにとっては危険極まりない凶器であることに変わりはない。
「え、えっと、あの、こいつは地球侵略を狙う悪の宇宙生物で……」
亘が自分が退治したゴキブリを指さしつつ、そう言う。
すると、正気に戻った女性が、先ほどより遥かに大きな悲鳴をあげ、男も叫びつつ亘に向けて殺虫剤を吹きかけてくる。
「わぁあああ!!」
慌てて亘がその場から逃げ出し、玄関のドアを突き破って廊下に転がり出る。
『大丈夫です、亘さん』
泣き叫びながら逃げる亘の頭に、マゼラの思念通話が届く。
「何がだよ?!」
こちらは、声に出してそう叫んだ。
『殺虫剤の毒素はスーツが中和してくれます』
「そんなことどうでもいいわ!!」
マンションの廊下を全力で逃げる亘。
階段を駆け下りて外に飛び出すと、騒ぎを聞きつけて集まってきた人たちが駐車場に集まってきていた。
「な、何だお前?!」
「おい、こいつじゃないか。昨日、近所の公園に出没した変質者って!!」
「昼間からこんなところで、何をしているんだ?!」
「変態め、警察に突き出してやる!!」
そう言いつつ、全員がスマホを取り出すと、そのレンズを亘に向ける。
「ひぃいいいい!!」
もうなりふり構わず、逃げることしかできなかった。




