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スペースヒーロー~宇宙警察に強引に地球を守るヒーローにされたけど変質者に間違えられました~  作者: よしぞう


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第7話 金髪ポニーテールの転校生

4月12日 0800


 西條 亘は、重い足取りで登校していた。


 まさか、自分が昨日の赤い全身タイツの変質者だとバレていないだろうな。


 その不安が脳裏をよぎるたびに、鼓動が速くなり、嫌な汗が噴き出してくる。


 顔は隠していたし、一言も喋っていないため、大丈夫とは思うが、最悪なことにクラスメイトの南條 由利亜にはバッチリと姿を見られてしまった。


 よりによって世界中で最も、スペーススーツを装着した自分の姿を見られたくない人に、遭遇してしまったのだ。


 幸いと言うべきか、亘の外見は完璧なモブ体質なため、身体的特徴で彼だと気付かれることはないだろう。


 ただ、根が小心者のため、仕草がかなり挙動不審になっている。


 これでも彼は怪しまれないために、堂々としているつもりなのだが。


 スペーススーツの転送装置兼思念通信装置であるマゼラフィギュアは、家の自分の部屋に置いてきた。


 彼の部屋にはゲームや漫画、そしてヒーローのフィギュアが飾られている本棚があったので、さりげなくそこに並べている。


 デスラー保安官やマゼラが知ったら怒るだろうが、昨日のように心を抉られるようなダメージには、もう耐えられそうにない。


 あの二人はUFOから亘の行動をトレースしているらしいから、何かあったら向こうから知らせてくるだろう。


 もしくは、いきなりUFOに強制転送されるかもしれない。


 それが授業中だったりしたら、大変なことになるが。


 ウウッ、やばい連中に目をつけられてしまったと、自分の運命を呪ってしまう。





「おはよう、西條君」


 突然、背後から名前を呼ばれた。


「うわぁ!!」


 驚きすぎて叫び声をあげつつ振り返る。


「ど、どうしたの! そんなに驚いて?」


 そこには、昨日までまともに口をきいたことがなかった、亘の片思いの相手、南條 由利亜が立っていた。


「ご、ごめん、ビックリしすぎて」


「ビックリしたのはこっちだよ」


 そう言いつつ彼女が笑う。


「何かあったの? 声をかける前から挙動不審だったけど」


 どうやら、彼女は少し前から前を歩く亘に気付いていたようだ。


「い、いや、えっと……そうだ、昨日変質者が出ただろ? それでちょっと」


 その変質者とは自分のことなのだけど。


「そっか、そうだね」


 そう言いつつ由利亜が視線を明後日の方に向けて遠い目をした。


 なにせ、その変質者と遭遇し、警察に通報したのは彼女自身なのだ。


「赤い全身タイツに白いヘルメット、ましてやサングラスにマスクで顔を隠していたなんて、絶対まともな人間じゃないよ」


 自分で言っていて、情けなくて涙が溢れ出しそうになる。


「えっ、西條君も、あの変態に会ったの? 随分詳しいけど」


「し、知らない、会ってないよ。噂話で聞いたんだよ」


「そ、そうなんだ」


 かなり挙動不審になってしまったが、まさか亘がその変態本人だとまでは思わなかったようだ。


「じゃあ、私先に行くね。また教室で」


 南條 由利亜がそう言うと、速足で校門に向かって行った。


 その後ろ姿を見送りつつ、亘が溜息をつく。


「あの南條さんに挨拶をされたって言うのに……」


 本当なら、飛び跳ねて喜ぶべきところなのだが、とてもそのような気分にはなれない。





 廊下を歩いている時も、教室に入ってからも、亘は誰とも挨拶を交わすどころか、目線すら合わせようとはしなかった。


 俺は空気だ、そう、無色無臭、いてもいなくても良い存在、これで今日一日を過ごす。


 ひたすら、心の中でそう繰り返している。


「なんだ西條の奴、いつもは目立たないくせに」


 しかし、普段はモブキャラの彼が、そのような挙動不審な行動をとれば逆に目立ってしまう。


「そう言えば、今日の朝、校門の前で南條さんと楽しそうに話をしていたな」


「マジか?!」


 それは挨拶を交わしただけで、決して楽しい会話なのではなかったのだが。


 その時、校舎内に予鈴が鳴り響き、生徒たちが自分の席へと着いていく。





「おはよう、皆」


 教室の前のドアが開き、そう言いつつ中年の男性教師が入ってきた。


「そう言えば、お前ら知ってるか? コンビニの近くの公園で変質者が出たの」


 本人にしてみれば、軽い話題振りのつもりだったのだろうが、教室の後ろの方でガタッ!! と大きな音がした。


 見ると、亘が椅子ごとひっくり返っている。


「どうした西條?」


「す、すいません、なんでもありません」


 そう返事をするが、顔面蒼白で手足がガタガタと震えている。


 だ、駄目だ、今日は早退しよう、こんなの耐えられない(主にメンタル面で)。


 机の上に突っ伏している彼のことなど微塵も気にせずに、担任が嬉しそうにホームルームを続ける。


「実は、今日転校生がいるんだ」


 それを聞いて、生徒たちが驚いた。


 新学期になってまだ12日しかたっていないのだから。


 普通なら、新学期に合わせて転校してくるはずだ。


「中途半端ですね」


 生徒の一人がそう言うと、担任がその問いかけを待っていたかのように、ニィと笑った。


「まあ、見て驚け」


 そしてそう言うと、開いたままになっているドアに向けて、


「入ってきなさい」


 と言った。


 すると、廊下から一人の小柄な女子生徒が教室内に入ってくる。


 制服に身を包み、眩しいほどの長い金髪をポニーテールにまとめた超美少女だ。


 その姿を見た瞬間、クラスメイトたちが目を見開いて一斉に息を飲んだ。


「うわ、滅茶苦茶可愛い」

「外人だ」

「目が青くて金髪」

「モデルみたい」


 どよめくクラスメイトたち。


 それを聞いて、生ける屍状態だった亘が机から顔を上げた。


 そして黒板の前に立っている転校生を見て、口と目を限界まで開いて唖然となる。


「さあ、自己紹介して」


 担任にそう言われると、転校生がぺこりとお辞儀をする。


「マゼラと言います。皆さん、よろしくお願いします」


 見た目は完璧な外人なのに、驚くほど流暢な日本語で、そう自己紹介をした。


 勘違いでも見間違いでも幻覚でも幻でもない、それは正真正銘の、宇宙警察保安官助手のマゼラだった。


 な、な、な、何だとぉおおお?!!


 器用なことに、声に出さずにそう叫ぶ。


 何しに来た? 俺を監視に? それともSF学園もののお約束である、この学校に宇宙人が潜伏しているとか? いや、それはないな。もしそうなら、雑なこいつらのことだから、学校ごと吹き飛ばしているはずだ。


 まだ出会って数日しかたっていないというのに、宇宙警察は亘から完璧に信頼を失っている。


「私の父親はアメリカ人で、この春までアメリカの学校に通っていました。本当なら新学期に合わせて転校する予定だったのですが、父の仕事の都合で、少し時期がズレてしまったのです」


 愕然となっている亘のことなど無視して、マゼラがペラペラとそう説明している。


 普通に考えればかなり胡散臭いのだが、外人の美少女が口にすると、誰も全く疑わない。


「なるほど、そうだったのか」


 と、納得していた。


 そんな設定いつ考えたんだ? そもそも、地球人のことを下等とか馬鹿にしていたくせに。


 ホームルームに続いて1時限目の授業が始まった。


 マゼラは、教室の一番後ろの窓側にあった、空いている席に座って授業を受けている。


 制服のみならず、教科書やノートや筆記具まで完璧に準備されていた。


 宇宙警察の採用要件がどのようなものか知らないが、犯罪者を相手にするというのに、未成年ということはあり得ないだろう。


 ちなみに、この時の授業は古文だったのだが、宇宙人的に理解ができたのだろうか? と思ってしまう。


 授業が終わり、教室から教師が出て行くと、クラスメイトたちが一斉にマゼラの周囲に集まってきた。


「うわぁ、綺麗な金髪」

「ねえねえ、アメリカのどこから来たの?」

「日本語すごく上手だね」


 と、皆が口々にそう言う。


「もう、皆、そんなに一度に話しかけたら、マゼラさんが困るでしょ」


 そう言ったのは、南條 由利亜だ。


 皆が笑いながら、頭を掻いたり謝ったりする。


 そこへ亘がクラスメイトたちをかき分けてマゼラに近付いて行った。


 普段は、こういう場所に近付かないどころか、逆に距離をとるタイプのため、皆が驚く。


 しかし、周囲の目など気にせずに彼はマゼラの前に立つと、


「おい、ちょっと面かせや」


 と、額に青筋を浮かべてそう言った。


「ち、ちょっと西條君、どうしたの?」


 南條 由利亜が驚いてそう言うが、当のマゼラはニコッと笑って、


「はい、いいですよ」


 と答えると、椅子から立ち上がった。


 そして亘に続いて教室から出て行く。





 亘は後ろにマゼラがついて来ていることを確認しつつ、階段を上って行った。


 そして屋上へと出て行くと、そこに誰もいないことを確認する。


 マゼラは彼に続いて屋上に出ると、振り返ってドアノブを指でチョンと突いた。


 仕組みは分からないが、それだけでガチャンという音がして、鍵がかかる。


 これで、少し距離を空けて二人を追いかけてきていたクラスメイトたちは、屋上に出られなくなった。


 念のために、ドアから離れたフェンス沿いにまで移動すると、亘がマゼラの方に向き直った。


「一体どういうつもりだ?」


 正直言ってブチ切れて怒鳴りたいところだったが、必死に我慢をしている。


 対して女子高生スタイルのマゼラは、いつもの人懐っこい笑顔のまま、


「もちろん、亘さんのサポートのためですよ」


 と、返事をする。


「サポート?」


「昨日、変質者に間違えられたのだって、亘さんが一人で勘違いをして暴走した結果じゃないですか」


 変質者と勘違いと暴走という単語が、見えない矢印となって亘のハートに突き刺さった。


「い、いや、だからって……」


 金髪の可愛い転校生など、こんな何もかも平凡な公立高校では目立ちすぎる。


 ましてや、それがこれまで意図してではないが、目立たないモブキャラとして生きてきた亘の知り合いだなどと知れ渡ったらどうなるか、それは火を見るより明らかだ。


 彼女と仲良くなりたい男子生徒たちが急に馴れ馴れしく近付いてくるか、亘のくせに生意気だと言って嫌がらせをしてくるに違いない。


「サポートなら今までもUFOからしていただろ?」


 彼がそう言うと、マゼラが少し眉を寄せ、


「そのことなんですけど、亘さん」


「な、何だよ?」


「スペーススーツの転送装置を持ち歩いていないじゃないですか」


 と、怒られてしまった。


「あんな恥ずかしい物、学校に持ってこれるか!!」


「恥ずかしいって、私にそっくりな可愛いフィギュアですよ?」


 意味が分からないとばかりに、マゼラが首を傾げる。


「だから駄目なんだよ!! 転校生にそっくりなフィギュアなんか持ち歩いているってバレたら、俺はもう転校するしかなくなるだろ!!」


 思わず、そうなったときの光景を想像して、亘がガクガクと震えだす。


「ええっ、お前って想像を越えた変態だな!!」


「いくらモテないからって、それは人間として駄目だろう」


「西條君……気持ち悪い」


 想像の中のクラスメイトたちが、彼を取り囲んで口々にそう言う。


 特に最後のそれは、南條 由利亜の声だった。


「転校どころか……生きていけない」


 絶望以外の表現ができなかった。


 すると、マゼラが少し困った表情になり、


「じゃあ、外見をデスラー保安官に変えますか?」


「それはもっと嫌だぁ!!!」


 屋上のフェンスを両手で掴み、ガシャガシャと揺らしつつ亘がそう叫んだ。


 なんにせよ、休み時間は短い。肩を落とした亘にマゼラが、


「まあまあ、とりあえず予備を渡しておきますね」


 と、言って、家に置いてきた物とソックリな自分のフィギュアを手渡しつつそう言った。


「結局、持たないと駄目なの?」


「当たり前じゃないですか。いつ宇宙犯罪者と遭遇するか分からないんですよ。スペーススーツ無しにどうやって戦うんですか?」


「元々戦う気なんか微塵もないんだけど」


 そもそも、あのスーツで戦える気がしない。


「まあ、スペアならいくらでもあるから、いつでも言ってください」


 そう言われ、可愛い金髪のフィギュアに囲まれた自分の姿を想像してしまう。

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