第6話 凶悪な宇宙犯罪組織
「僕もうだめ、死にたい」
宇宙警察のUFOのブリッジの隅で、スペーススーツ姿の亘が膝を抱えて座っている。
そして、ヘルメットはコンビニで購入したサングラスやマスクと一緒に、ブリッジの隅に転がっていた。
「まあ、気持ちは分かるよ」
デスラー保安官が、しみじみとそう言った。
彼も、地球人たちの前に姿を現したら、子犬の頭を撫でたり、花壇の花に水をあげていても、間違いなく皆がパニック状態になり警察か自衛隊を呼ばれるだろう。
デスラー保安官とマゼラは、亘の行動をトレースしていたため、何が起きたのか把握済みだ。
スペーススーツが転送された時点で、UFO自体が自動で警戒態勢になり、船内に警報が鳴り響いてもいる。
ちなみに二人は、通報を受けて出動してきた警察に亘が捕まる前に、転送装置でここに回収していた。
「大丈夫ですよ、亘さん。旅の恥はかき捨てと言うじゃないですか」
マゼラが見当はずれの慰めをする。
「私なんか、地球人の前に出たら、悲鳴をあげて失神されるんだよ。それよりはマシだ」
「そりゃ、あなたに比べたら」
胸を張っているデスラー保安官の前で、亘がシクシクと泣き続けている。
そして、あることに気付いた。
「ていうか、こんな大きなUFOの姿を消せるなら、この変態スーツも見えなく出来るでしょ?!」
「スペーススーツですよ」
「スペース変態スーツ!!」
「……」
マゼラとデスラー保安官が顔を見合わせる。
どうやら亘が負った心の傷は、思ったよりも重傷なようだ。
ヤレヤレと首を左右に振ると、マゼラが、
「実は、スーツも見えなくすることは出来ます」
と言った。
「えっ! 本当に?!」
亘がマゼラの方に顔を向ける。
「はい」
「じ、じゃあ、さっそくやってよ」
亘が立ち上がって両手を広げた。
「分かりました」
マゼラがそう言うと、UFOのコンソールを操作した。
「スーツ透明化、実行」
さすがは宇宙人だ。アニメや映画の世界でよくある光学迷彩など、とうの昔に実用化されていたのだろう。
「このスーツの最大の弱点である、見た目がこれで解決だ」
亘がそう言った時、悪趣味な真紅の全身タイツがスーッと消えた。
「おおっ、凄い」
学生服姿になった彼が喜んだのも束の間。
その学生服が、さらにシャツやパンツまで次々と消えていった。
「ワァアアアア、何じゃこりゃああああ!!」
大慌てで大事なところを必死で隠しつつ、亘がその場に蹲る。
「この機能を使うと、下に着ている物まで全部消えちゃうんですよ」
「使えない! ほんっとに使えないな!!」
「まあ、気にせずにその姿で地球の平和を守って下さい」
「さっきは変態と誤解をされたけど、これだと正真正銘の変態だよ!!」
「でも、サングラスとマスクを着ければ誰だか分かりませんから」
「全裸でサングラスとマスクって……」
その恰好で、悪の宇宙人と戦っている自分の姿を想像する亘。
「目撃者は全員口封じをする。一人も逃がさない!!」
「いやだなぁ~、亘さん。それじゃあ、まるで犯罪者みたいじゃないですか」
そう言いつつ、マゼラがスペーススーツを元の可視化状態にした。
「全裸で外をうろついた時点で、立派な犯罪者だ!!」
そんな彼女に、亘がそう叫んだ。
4月11日 1800
宇宙犯罪組織は実在する。
そして、地球のとある場所にアジトが作られていた。
金髪のハリウッドスターのような若い男性が、豪華な椅子に腰かけている。
外見はほとんど地球人と変わらない。あえて言うなら、耳の先端が尖っているのと、足の指が6本あったが、耳は髪で、足は靴を履けば誤魔化せる。
あと、レントゲンや血液検査をすると、一発で、
「こいつ、地球上の生き物じゃない」
と、バレるため、病気や怪我をしても、地球の病院は受診できない。
もっとも、万能治療装置があるため、即死しない限り、どのような状態になっても回復は可能だが。
彼の名前はスシローといった。
本名は違うのだが、地球人では発音することも聞き取ることも困難なため、地球に来て初めて見た店の看板から勝手に名前を使わせてもらっている。
スシローは、黒づくめのスーツ姿で、右手に缶ビールを持っていた。
これが地球の飲み物の中で一番お気に入りらしく、毎日飲みすぎて最近は血糖値が少し気になりだしている。
万能治療装置も空腹時血糖値を下げることは出来ないため、部下から1日1本で我慢するように注意をされていた。
「さて、報告を聞こうか、ドクター」
彼が缶ビールを優雅に手の平で揺らしつつ、そう言った。
すると、彼の正面に立っている男に照明が当たる。
ドクターと呼ばれた彼は、髪の毛を七三に分けた、昭和のサラリーマンのような外見をしていた。
彼は本当は全身灰色で白目がない、とても宇宙人らしい外見をしているのだが、変身スーツを装着して地球人に化けているのだ。
ちなみに雌雄同体であるため、性別はない。
今は白いスーツの上にさらに白衣をまとっており、いかにも科学者っぽい格好をしている。
「分かりました」
そう言うと、ドクターがスシローと自分の間に立体映像を表示した。
それは、人型アンドロイドの三面図で、地球のものとは違う文字があちらこちらに書き込まれている。
「地球における犯罪実行用戦闘アンドロイドです」
「ほほぅ、なかなか強そうだな」
彼ら宇宙犯罪組織は、その名の通り宇宙中で悪事を働いていたが、その方法は主に、現地人に模したアンドロイドを作成し、それを実行部隊として働かせている。
それはここ地球でも同じで、ドクターは地球人型アンドロイドを設計していたのだ。
ただし、パーツまでは作れないので、それは通販で購入している。
「地球人には性別があるため、このαを男性型に、βを女性型にします」
「2体か……少ないな」
「いえ、βは設計はしましたが、資金が足りないため、当分は無理です」
彼らは別に地球を侵略しに来たわけではない。
地球人の犯罪組織同様、不法行為をして金儲けをすることが目的なのだ。
そのため、基本は目立たず、それでいて効率的に悪さをする。
「今の資金では1体が限界です」
ドクターがそう言うと、立体映像に数字のような文字が並び、それが赤色に点滅をした。
「そうか……地球に来るだけでも出費がかさんだからな」
「はい、なにせ辺境ですので」
「あと、このアジトの家賃と、アンドロイドを作る材料費、電気代、我々の食費、〇HKの受信料」
「なんなのだ、あのN〇Kというのは。観ないと何度も言ったのに」
「まあ、NH〇は面白い番組もありますので」
「なんにせよ、αが完成したら、さっそく活動をさせよう。金を稼がなければならないからな」
「分かりました」
ドクターがそう言うと、暗かった室内に照明がついた。
そこは、床がフローリングのリビングダイニングで、隣にカウンターキッチンがある。
スシローが深く腰掛けていた豪華な椅子はマッサージチェアで、部屋の隅には液晶テレビが置かれ、その前には任〇堂のゲーム機がセッティングされていた。
ドクターは襖を開けると、隣の部屋へと入っていく。
そこは6畳の和室で、その大半はカプセルベッドによって占有されていた。
「お金を稼いだら、もっと大きなアジトに引っ越したいですね」
「そうだな。あと地下室は必要だな」
彼らがいるのは築30年以上の平屋の借家で、駐車場付きで家賃は13万という、かなりお手頃な物件だった。
「まったく、原始的な星だ。エネルギーが全然足りないから苦労しますよ」
「そうだな。未だに化石燃料や、ばっちい燃料(原子力)発電をしているぐらいだし、おそらく恒星間航行宇宙船を開発する前に、この星の人間は絶滅するぞ」
「そうなる前に、稼がせてもらいましょう」
この借家の駐車場には、1台のミニバンが停まっていたが、見た目は大手自動車メーカーの物に似せているが、中身は小型宇宙船だった。
ナンバープレートなど取れないので、それも本物そっくりに偽造している。
もし警察に調べられたら一発でバレるため、普段はずっとシートをかけて隠していた。
あと、この家の家電の電気は、電力会社の物を使っていたが、アンドロイド製造用のカプセルベッドや、アジト防衛用の装備などは、この偽装ミニバンからエネルギーを使っていた。
そうしなければ、月々の電気代が恐ろしいことになる。
「そろそろ、夕食の準備をするか」
スシローがそう言うと、マッサージチェアから立ち上がり、キッチンへと向かった。
このアジトには彼ら二人しかいないため、家事は分担をしている。
主に料理はボスであるスシローの仕事だった。
ドクターに任せると、何でもかんでも圧縮カプセルにしてしまうのだ。
「料理など無駄です。栄養さえ摂取できれば、味など必要ありません」
と、言うことらしい。
ビールが大好きというだけあって、スシローは味や食感に好みがあるため、主に自分のために食事を担当することにしたのだった。
そのかわり、家の掃除はドクターに任せている。
「ドクター、カレーとシーフード、どっちが良い?」
スシローが両手でカップラーメンを持つと、そう言った。
「カレーでお願いします。シーフードはどうも苦手で」
「味など必要ないと言うくせに、好き嫌い激しいよな」
「好き嫌いではありません。身体に合う、合わないです」
「本当に、ああ言えばこう言う。一体どんな躾を受けて育ったんだ?」
「私はクローンですから、成人するまでずっとカプセルの中で催眠教育でした」
「つまり、お前の同胞は、皆お前と同じというわけだ」
「はい。その無個性育成のせいで科学技術は発展しましたが、文明は衰退し、今となっては絶滅保護種族に指定をされています」
宇宙人たちにも、色々と苦労があるようだ。




