第25話 背に腹は代えられない
深夜
結局、デスラー保安官たちに宇宙犯罪組織のアジトの位置を教えられないまま、亘は眠りについていた。
夕方以降、テレビやネットでは地球に近づく小惑星の話題で持ちきりだったが、一応騒ぎはするものの、だからといって今の地球人にそれを防ぐ手段はない。
「核ミサイルで迎撃を!!」
「いやいや、高出力レーザーを照射して!!」
などという意見も出たが、10年後ならいざ知らず、小惑星は今夜中に地球のどこかに落下するらしい。
「この小惑星は異常です」
亘が観ていた番組で、有名な日本人宇宙飛行士がそう言っていたのを思い出す。
「通常、地球に落下する隕石は、秒速20~30kmで地球に近づいてきます。しかし、この小惑星は秒速100kmです。これは速すぎる」
「なぜ、そんな速度になったのでしょうか?」
そう質問してくるアナウンサーに、
「調べてみなければ分かりませんが、普通に考えれば、何かと衝突、もしくは爆発によって加速をしたか……」
宇宙飛行士はそこで言葉を止めたが、おそらく人工的に加速、もしくは射出をされた可能性もあると言いかけたのだろう。
現にネットでは、宇宙人の攻撃、もしくはその小惑星は宇宙船だという意見が飛び交っている。
「まあ、ありえない話じゃないよな」
現に宇宙人のUFOに何度も乗り、宇宙人と親しくしている亘には、今さらの話題だ。
あと、その宇宙人たちのことをよく知っているので、あまり危機感は持っていない。
本当に隕石が地球に落下して、大きな被害が出るようなら、彼らが何とかしてくれるだろう。
そう考えているから、今もスヤスヤと緩み切った顔で熟睡していた。
しかし、その時――
突然、部屋のベッドの上で閃光が発生し、寝ている亘の真上にマゼラが降ってきた。
「ぐふぉおおおお!!」
腹部にマゼラの全体重を受けた亘が飛び起き、のたうち回る。
「な、何事?!」
そう言って顔を上げると、ベッドの傍らに宇宙警察の制服姿のマゼラが立っていた。
「マ、マゼラ?!」
「大変です、亘さん」
いつでも、どんな時でも……本当に不謹慎なほど笑顔な彼女が、真剣な表情をしている。
「地球に接近中の小惑星のことは知っていますか?」
「えっ、あ、ああ、ニュースで観たけど」
「あれって、通りすがりの宇宙船が不法投棄したゴミなんです」
「……へっ?」
「ゴミなんです」
「ゴミ?」
「はい」
「不法投棄の?」
「はい、ポイ捨てです」
そんな、車の窓からペットボトルを捨てるような感覚で、秒速100kmの小惑星を捨てるのか?!
もう驚くのを通り越して、呆れ返ってしまう。
「だったら、地球の大気圏で燃え尽きるんじゃないの?」
「超圧縮されているので、鉄より硬いです」
「相変わらず、ものすごい技術なのに、やっていることが駄目すぎる」
「このままだと、その超硬いゴミが東京湾に落下します」
「と、東京湾?!」
なぜ、怪獣や隕石は東京近辺にばかり集中するのだろう?!
「ゴミの重量は約100tで、このままだと、ほぼ原形をとどめたまま海面に激突します。その破壊力は約120キロトン。海に落ちれば津波が発生し、さらに超高速の衝撃波が周辺を襲います」
「冗談じゃない。東京湾にはたくさん船がいるし、沿岸には大勢の人が暮らしているんだぞ!!」
東京都心を直撃することを思えば被害は少ないかもしれないが、それでもどれほど多くの人たちが犠牲になることか。
そこまで考えて、亘は、
「で、でも、デスラー保安官が撃ち落としてくれるんだろ?」
宇宙警察のUFOは、一撃で都市を破壊できるような武器を搭載しているはずだ。
「デスラー保安官は、不法投棄をした宇宙船を追跡中です」
「へっ……」
「現行犯ですから」
それを聞いて、亘が頭を抱える。
「すぐに戻ってくるんだろ?」
「不法投棄ゴミは、あと3時間で大気圏に突入します。とても間に合いません」
「なんてこったああああ!!」
「ですから、亘さんに何とかしてもらうしかありません。私はそのサポートのために地球に残りました」
「あ、ああ、ありがとう」
一人で取り残されることを思えば、とても心強い。
しかし、どう考えてもこれは無理ゲーだ。
秒速100kmで地球に衝突する小惑星を、迎撃などできるはずがない。
100km先にいる小惑星が、1秒後には自分に直撃するのだ。
さらに言うと、100tの鉄のように硬いゴミと言っても、それだけ離れたら小さな点にすら見えない。
とても狙えないし、スペースビームを発射するタイミングも合わせることができない。
そもそもビームがかすめたせいで、軌道がずれて東京都心に落下する可能性もある。
「どうすりゃいいんだ」
これまでの数々の事件など比べ物にならない、本当の意味での大ピンチだ。
その時、ベッドの枕元に転がっているマゼラフィギュアに気づいた。
「ちょっと聞いていいか?」
「何ですか?」
「これのユーザー登録って解除できるのか?」
スペーススーツのそれは、アンドロメダ星雲にある宇宙警察本部に行かなければ解除できなかった。
しかし、このフィギュアはデスラー保安官があのUFOの中で作ったものだ。
「はい、できますけど」
「よし、じゃあ次の質問だ。スペーススーツは、このフィギュアの爆発に耐えられるか?」
「多分大丈夫だと思いますけど……亘さん、何を考えているんですか?」
「その地球に向かってくるゴミに取り付いて、こいつのスカートの中を覗く!!」
金髪ポニーテールの美少女フィギュアを握りしめつつ、亘がそう言った。
「ちょっと待ってください」
「昔、テレビで地球に落ちる彗星に取り付いて穴を掘り、そこに核爆弾を仕掛けて破壊する映画を観たことがある」
「確かに、スペースビームで狙撃するのは難しいですけど、だからって……」
「そもそもビームが当たっても、表面が溶けて少し小さくなるだけだろうし、それで軌道がそれて、違う場所に落下をするだろ」
ビーム自体も、一撃だけ一瞬当たれば良いというものではない。ずっと照射して、同じ場所に当て続けなければならないはずだ。
そのようなことは、ますます不可能だろう。
「ですが、亘さん。そもそもどうやってゴミに取り付くのですか? UFOはないんですよ」
スペーススーツなら、大気圏を突破し、宇宙も飛べる。
しかし、地球から不法投棄ゴミに向かうということは、それだけ相対速度が速くなるということだ。
秒速100kmの相手に近づいていけば、そこに自分の速度が加算されてしまう。
取り付くどころか、ぶつかれば、いくらスペーススーツといえども耐えられず、亘は木っ端微塵になるだろう。
「乗り移りたいのでしたら、背後からゴミより速い速度で追いついて、相対速度を合わせる必要があります」
アクション映画でよく車から車に乗り移るシーンがあるが、それを想像すればすぐに分かる。
車を並走させ、ギリギリまで接近をして速度を合わせるはずだ。
間違っても、正面から接近し合って、すれ違いざまに飛びついたりはしない。
「スペーススーツの加速はマッハ10です。とてもではありませんけど、追いついた頃には、とっくにゴミは東京湾に落下しています」
そう言われ、亘は窓から、お向かいの平屋の住宅を睨みつけた。
深夜だというのに、玄関のチャイムが鳴った。
それも何度も何度もしつこく。
「うるさい!! 何時だと思っているんだ!!」
そう怒鳴りつつドアを開けたのは、宇宙犯罪組織地球アジトのボス、スシローだった。
縦縞のパジャマにナイトキャップ姿で激怒している。
「すいません」
そこにはウィンドブレーカー姿の亘と、宇宙警察の制服姿のマゼラが立っていた。
「ゲッ?!」
彼の表情が、金髪ポニーテールの保安官補佐を見て険しくなる。
「待ってください」
相手が武器などを取り出す前に、亘が冷静なままそう言う。
「あなたたちを捕まえに来たわけではありません」
「何?」
さらに亘もウィンドブレーカーの前のチャックを開ける。
彼はすでに、ヘルメット以外のスペーススーツを装着していた。
「ス、スペース……スーツ」
「はい、そうです」
「お前があの町で好き放題暴れている変態か?!」
「ううっ……そ、その通りです……」
悪の組織に変態呼ばわりされるヒーローなど、聞いたことがない。
「どうしたんですか、ボス?」
「あっ、夕方、回覧板を持ってきた人だ」
家の奥から、ドクターと戦闘用アンドロイド、シャリも出てきた。
そして、スペーススーツを着た亘とマゼラを見て驚く。
特にシャリは、河川敷で拳を交えたマゼラを見て、思わず身構えている。
「待ってください。皆さんにお願いがあって来たんです」
「お願い?」
悪の宇宙犯罪組織の3人が声をそろえてそう言った。




