第24話 ゴミのポイ捨て禁止
5月6日 1600
太陽系を1隻の宇宙船が航行していた。
もちろんそれは地球人類のものではなく、宇宙人たちのものだ。
葉巻型の巨大な宇宙船は、構造物やロケットノズルなどはなく、どちらが前か後ろか、上か下かも分からない、のっぺりとした外見をしている。
ただし、サイズは全長が1km近くあり、さらに秒速100kmという速度で航行していた。
その船内も滑らかなデザインで、そこをさまざまな外見の宇宙人たちがウロウロしている。
「まいったな、こりゃ」
そう呟きつつ、一人の宇宙人が船内通路を歩いていた。
彼(彼女?)は外見は人型だったが、中性的な外見をしていて、顔は美形、声はハスキーだった。
スタスタと歩いて壁に近づくと、そこが自動で開く。
「キャプテン」
そこはブリッジで、彼は入室するなり、船長に話しかける。
「どうした?」
ブリッジの中央にはキャプテンシートがあり、そこにゴジラのような外見の男が腰かけていた。
『どうした?』
彼の声帯は宇宙標準語を発音できないため、頭で考えた言葉を喉につけているスピーカーから外に流している。
「ゴミがいっぱいになりました」
『おいおい、出港前に全部捨てたばかりだろう』
「それが、ごみ処理業者が代金を引き上げてきたんで、半分しか出していなかったんですよ」
『冗談だろ。で、圧縮はしているのか?』
「はい、圧縮しまくっています。しかし、それでもゴミ箱からあふれ出しそうです」
この宇宙船に限らず、宇宙ではゴミも立派な資源である。
そのため、みだりに捨てたりせず、圧縮して港まで運び、そこで専門の処理業者に引き渡すようにしていた。
しかし、このままでは船内の居住環境が悪化する。
キャプテンは大きくのけぞると、考え込んだ。
思わずそのまま放射能でも吐き出しそうな雰囲気だが、もちろんそのようなことはしない。
『仕方がないな』
「はい?」
『捨てよう』
「えっ?!」
『次の寄港地まで、まだ3千光年以上ある。このままでは船の運航にも影響が出るぞ』
「それはそうですけど……いいんですか? 宇宙空間でのゴミの不法投棄は犯罪ですよ」
『そんなことは分かっている』
「捕まったら罰金ですよ」
『フンッ、こんな辺境で捕まるわけがないだろう』
船長がモニターに目を向けつつ、そう言った。
そこには太陽系内の宙域図が表示されているが、彼らが乗っている宇宙船以外の反応は映っていない。
「まあ、確かに」
『この恒星系にはテクノロジーレベルの低い、原始人の星が一つあるだけだ。少しゴミを捨てたって、誰も気づかない』
「……分かりました」
船の最高責任者である船長がそう判断をしたのなら、逆らえない。
そう返事をすると、少し離れた場所にあるコンソールに近づき、その表面に触れて操作を始めた。
すると葉巻型の船体の一部が開き、球状の物体が投棄される。
それは船内で発生した大量のゴミを圧縮しまくって固めたもので、鉄よりも硬くなっていた。
なにより、秒速100kmで進む船から捨てられたということは、そのゴミも同じ速度で宇宙を飛んでいるということになる。
その進行方向に、青い惑星が浮かんでいた。
その青い惑星、地球にある日本では、
ゴールデンウィーク最終日を迎えていた。
「はぁ~っ、結局何もなかったな」
西條亘は自宅のリビングで、ボォ~ッとテレビを観ていた。
結局のところ、初日の河川敷での戦闘用アンドロイドとの接触以降、何も起きていない。
平和なことは良いことだが、これだけろくでもない条件がそろっているのに、何も起きないというのも寂しい気がする。
その時、
「亘、ちょっと回覧板をお向かいさんに持って行って」
と言いつつ、彼の母親がリビングに顔を出した。
「あれ、そこって空き家じゃなかったっけ?」
「少し前に、男の人が二人引っ越してきたのよ」
「へぇ~、知らなかった」
そう返事をすると、回覧板を受け取って、だるそうに玄関へと向かう。
サンダルを履くと、玄関から外に出て、道路を挟んだ反対側にある平屋の民家のチャイムを鳴らす。
ピンポーン。
すると、ドアの向こう側で足音がした。
「すいません、回覧板です」
初対面の相手なので、少し緊張する。
「どうも、ご苦労様です」
そう言うと、ドアが開いた。
そして、その相手の姿を見て、亘は固まった。
がっちりとした大柄な体躯、そしてシュワちゃんに似た顔。
せ、戦闘用アンドロイドぉおおおおお!!!
と、心の中で絶叫する。
「すいません、ありがとうございます」
エプロン姿の戦闘用アンドロイド、シャリがそう言うと、亘の手から回覧板を受け取った。
そして、目を見開いて固まっている亘の顔を見て、
「ん? どこかで会ったことあるかな?」
と、聞いてくる。
まずい!!
スペーススーツを着ていない自分など、指先一つでダウンさせられてしまう。
幸いなことに、河川敷で会ったときはヘルメットを被り、サングラスをかけていたため、顔はバレていないはずだ。
「えっ、初対面ですよ」
「そうですか……」
納得はしていないようだが、シャリがそう答える。
すると、さらに彼の背後から、
「シャリ、どうかしましたか?」
と、言いつつ白衣の男が顔を出した。
あの当たり屋事件の時、目の前の戦闘用アンドロイドに指示を出していた男だ。
「ドクター、回覧板です」
「そうか、どうもすいません」
なぜか、二人とも外見は別にして、とても礼儀正しい。
「い、いえ、では失礼します」
そう言うと、亘が回れ右をして自分の家に帰った。
ドタドタドタ!!
2階に駆け上がると、亘は本棚に飾っているマゼラフィギュアを手に取った。
『デスラー保安官、マゼラ、大変だ!!』
そして、思念通話で二人を呼ぶが、なかなかつながらない。
滅多にこちらから呼びかけないから、失敗したのかと思ったが、
『どうしたんだ、亘?』
もう一回呼びかけようとしたとき、デスラー保安官とつながった。
『た、大変です。例の宇宙犯罪組織のことで……』
家の目の前にアジトがあったと報告しようとしたが、
『すまないが、今少し手が離せないんだ』
と、彼にしては珍しく、切羽詰まった様子で遮られてしまった。
『で、でも』
『後で、必ず聞くから、少し待っていてくれ』
デスラー保安官がそう言うと、思念通話が切られてしまう。
「ち、ちょっと、待って?! ……ええ~っ」
いつもはこちらの都合など考えずに、無理難題を押し付けてくるくせに。
そのあと、マゼラのことも呼んでみたが、こちらはつながりもしなかった。
「何があったんだ? 宇宙怪獣でも攻めて来たのか?」
そう思いつつ、スマホを取り出してニュースサイトを見ると、
【NASAが緊急記者会見】
【地球に接近する小惑星】
【地球に衝突は不可避】
という文字が並んでいる。
画面をタップして内容を確認すると、地球に向けて接近する小惑星を発見したらしい。
ただし、人類が滅亡するようなサイズではないようだ。
「このせいで忙しいのか」
デスラー保安官たちなら、地球人などよりよほど正確な情報を得ているだろう。
あと、その気になれば彼らなら小惑星程度、簡単に破壊するか、軌道を変えられるはずだ。
「まあ、仕方がないか」
とりあえず、何かあったらすぐにスペーススーツを転送してもらえるように、マゼラフィギュアを持ち歩くことにする。




