第23話 次の悪だくみへ
「危なかったな」
デスラー保安官が、地上を映すモニターを睨みつつそう言った。
「本当ですよ。あやうく犬のウ〇チをぶつけられるところでした」
「ほぇ~」
亘が地上を見て、間抜けな声をあげる。
さっきまでマゼラと戦闘用アンドロイドが戦っていた河川敷は、芝生や遊歩道がボロボロになり、堤防の土手の一部も大きくえぐれていた。
そのほとんどは、シャリのビームをマゼラが弾き返したことでできたものだ。
「なんて、はた迷惑な……」
「デスラー保安官、あのアンドロイドは?」
マゼラがそう聞くと、デスラー保安官が、
「見失った」
と答えた。
「ええ~っ、何をやってるんですかぁ~」
「戦闘用アンドロイドだよ。潜伏モードになられたら、追跡は無理だよ」
「それにしても、さすがは戦闘用です。ありとあらゆる物を武器に変えます」
「…………」
それに関しては、何とも言えない亘。
マゼラに一番効果があった武器は、犬のウ〇チだったのだから無理もない。
モニターにパトカーが映り、そこから降りてきた警察官たちが河川敷の惨状を見て驚いているのが分かった。
亘たちの乗っているUFOは、その河川敷の上空で滞空しているのだが、いつも通り、地上の人たちにはその姿は見えていない。
今まで、クソダサいスペーススーツのせいで、宇宙人のテクノロジーを心のどこかで軽く見ていた。
凄いかもしれないが、使い物にならない、と。
しかし、先ほどの戦闘用アンドロイドは恐ろしい相手だった。
もし、あれが街中で暴れたら、確かに地球人類の警察では対処できない。
自衛隊が出動して、大量の爆弾や砲弾を使えば何とかなるかもしれないが、その代わり街は焼け野原になるだろう。
「あれが……宇宙犯罪組織の戦闘用アンドロイドか……」
「そうです。なかなか手ごわい相手ですよ」
「それと互角に戦っていたマゼラも、相当凄いと思うけど」
「でも、私では倒すことはできません」
いや、それだけでも十分以上に凄いけど。
ワァーキングマン前の駐車場でのことと言い、今後はマゼラとの接し方を少し変えなければならないと考える亘だった。
「でも、よく考えたら、あいつってアンドロイドだろ? 誰かの命令で動いていたのなら、悪いのは命令をしている奴ってことになるんじゃないのか?」
先日、偶然目撃した当たり屋の時も、指示を出している白衣の男が近くにいた。
「そうですね。でも、人工頭脳には学習能力がありますから、悪いことばかりしていたら、どんどん悪いアンドロイドになっていきますよ」
マゼラのその言葉を聞いて、亘が少し考え込む。
「…………じゃあ、今はまだ悪いアンドロイドじゃないんだな……」
川に落ちた亘が川岸に上がろうとした時、シャリは亘に手を貸してくれた。
そのことを思い出す。
「でも、あのアンドロイドのせいで、この前、危うく第三次世界大戦が勃発するところでしたよ」
「な、なんですとぉ~!!」
4月29日 1600
遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。
南條由利亜は自転車を路肩に止めると、スタンドを立ててから降りた。
友人の家に遊びに行っていた帰りなのだが、何か胸騒ぎがする。
彼女は自分のスマホを取り出すと、登録しているサイトにアクセスした。
「V男」というそのサイトには、赤い全身タイツの変態に関する目撃情報や、画像、動画などがアップされている。
そして今、
『河川敷でV男目撃情報あり』
と書き込みがされていた。
それに続いて、河川敷で練習をしていた中学の陸上部員たちが、そのV男に追い回されたとか、V男が突然空から降ってきたとか、川の中から出現したなどと、嘘か本当か分からない新情報がどんどん増えていく。
「出遅れたわ」
南條由利亜はそう言うと、自転車にまたがり、河川敷に向かってペダルを漕いだ。
「私としたことが」
いつもなら、かなりの確率で赤い全身タイツの変態の出没ポイントに居合わせるというのに、今回はかなり距離がある。
立ち漕ぎで河川敷を目指す彼女。
その姿が見えなくなると、突然、住宅街の道路脇に大柄な男が姿を現した。
それは、まるで建物の影から湧き出したような感じだったが、幻や立体映像などではなく、実体がある。
それは、戦闘用アンドロイド、シャリだった。
河川敷でマゼラと激しいバトルを繰り広げたというのに、少し服に泥がついている程度で、ケガなどはしていない。
いや、彼の場合は「破損」と言うべきか。
そして、買い物袋と箱買いしたビールは、しっかりと持っている。
特にビールの方は、あのバトルの後で激安リカーショップに寄って買ってきたものだ。
そして、宇宙警察のUFOの探査に引っかからないよう、潜伏モードでここまで逃げてきたのだった。
彼は正面切って戦うだけではなく、工作員のような特殊任務にも参加できるように、姿を不可視化したり、さらに熱源や音なども完全に消したりすることができる仕様になっている。
その能力を使って、宇宙警察のUFOの追尾を振り切ることができたのだった。
その後、シャリは何食わぬ顔で住宅街を歩いていくと、平屋のアジトへと入っていく。
「ただいま戻りました」
そう言って玄関から入っていくと、リビングでボスのスシローとドクターが真剣な表情で話し合いをしていた。
この宇宙犯罪組織地球アジトは活動資金が底をつきかけており、なんとかお金を稼がなければ、家賃が払えなくなる。
「水道、ガス、電気、どれを優先するかだな」
「水道は支払いが遅れても、すぐには止められないと聞いたことがあります」
「そうか。電気は、いざとなれば我々の宇宙船のものが使えるから、そうなるとガスか……」
「そうですね。風呂やシャワーが冷水になるのは避けたいです」
とても宇宙を股にかける巨大犯罪組織のボスと、マッドサイエンティストとは思えない情けない内容だ。
そして二人が、リビングに入ってきたシャリに気づく。
「今日は遅かったな」
「ビールは買ってきたか?」
ドクターとスシローが彼の方に顔を向け、そう言う。
「申し訳ありません。途中で宇宙警察と接触しました」
それを聞いて、二人の表情が険しくなる。
「まさか、スペーススーツか?!」
「はい。ですが、そちらは特に問題ありませんでした。どちらかというと、保安官助手の人造人間の方が好戦的でした」
「あ~っ、相変わらずだな。その助手はどのタイプだ?」
ドクターがそう聞くと、シャリが二人の方に手のひらを向ける。
すると、その手の先の空中に、マゼラの全身立体映像が投影された。
さらに、その映像がゆっくりと回りだす。
「Mタイプか……女性型だから戦闘力は少し劣るが、すばしっこいから面倒なんだよな」
「そうですね。シャリとは相性が悪い。こんなことなら、βタイプ(女性型戦闘用アンドロイド)を先に作ればよかったか」
「そうですね。素早いMタイプの人造人間とスペーススーツのペアは厄介です。現在の装備では、勝率は3割といったところでしょうか」
シャリも冷静にそう分析していた。
「早く、βタイプの戦闘用アンドロイドを作らなければならないな」
「しかしボス、肝心のお金がありません」
なにせ、光熱費もまともに払えないぐらいだ。
「何か手っ取り早く、金を稼げる悪事はないものか……」
実際のところ、彼らがその気になれば、地球人では太刀打ちできないはずなのだが。




