第21話 スペーススーツ新装備猫耳
中学時代、クラスは違うが、同学年に3人の不良がいた。
不良といっても、言動が乱暴だったり、遅刻やサボりの常習犯だったぐらいで、下手に近づかなければ絡まれることはなかったが。
亘も殴られたり、お金を巻き上げられたりしたことはなく、時々からかわれたぐらいだ。
それでも、苦手なことに違いはなかった。
その3人がパワーアップして、今、目の前にいる。
よりにもよって、自分が(見た目だけは)金髪美少女と一緒にいる時に。
「おいおいおい、どうなっているんだよ?」
「陰キャのお前が、何をどうやったら、こんな可愛い子と仲良くなれるんだよ?」
「俺たちにも紹介してくれよ」
髪を染めたり、ピアスやネックレスを身につけたり、だらしない服装をしていたり。
3年前はヤンキー予備軍だったが、今では立派なヤンキーになっている。
亘は焦っていた。
「この後、俺たちと一緒に遊ぼうぜ」
「ボーリングでもカラオケでも、俺たちが奢るからよ」
「なあ、西條、いいだろ?」
ああ、怖い。
足が震える。
今すぐここから逃げ出したい。
「どうしたんだよ? 何、黙っているんだよ?」
「無視するなよ」
「まさか、俺たちのこと忘れたんじゃ、ねぇだろうな?」
でも、逃げたら、こいつらがきっとマゼラに大変な目に遭わされる。
そう考えた亘が口を開こうとした時。
念ながら手遅れだった。
「あなたたち、しつこいですよ」
笑顔のまま、マゼラがそう言った。
しまった、間に合わなかった!!
「ああん? なんだって?」
「いいじゃねえか。西條も一緒でいいからよ」
「イヒヒヒ、みんなで仲良く遊ぼうぜ」
そう言って、3人のヤンキーが亘とマゼラを取り囲み、さらにそのうちの一人が、マゼラの肩に手を回そうとする。
「もう、仕方がありませんね」
その時、マゼラがそう言って、そのヤンキーの腕を掴み、軽く捻った。
それだけで、彼女より大きな体がクルッと回転し、駐車場のアスファルトに背中から叩きつけられる。
「グェッ!!」
「おい、お前、何しやがる?!」
残りの二人が慌ててマゼラを取り押さえようとするが、
「えいっ!! えいっ!!」
と可愛らしい気合いとともに、その体が次々と投げ飛ばされた。
「お前、ふざけるなよ!!」
そう言うと、最初に転ばされた男が立ち上がり、マゼラにタックルをしようとした。
しかし、彼女はそれを軽く体を捻って避けると、そのまま体を回転させ、回し蹴りを放った。
グゥオオオ!!
その体が駐車場をゴロゴロと転がっていく。
「私は原住生物と仲良くなるつもりはありません」
「俺も、その原住生物なんだけどね」
そう言って自分の顔を指さす亘
「てめぇ、ふざけんなよ!!」
「何て酷いことをするんだ!!」
残りの二人は、アスファルトの上で伸びている仲間に駆け寄り、助け起こしている。
「俺たちは、そこのボーリング場に今から行くから誘っただけなのに!!」
「嘘を言わないでください」
「嘘じゃねえよ。これを見ろ!!」
そう言うと、財布からボーリング場の会員証とクーポン券を取り出して見せる。
「…………」
「もしかして、本当に遊びに誘っただけ?」
亘がそう言うと、
「そうだよ!!」
「くそっ、もう誘ってやらねぇからな!!」
と、半泣きになりながら答えた。
そして、仲間を抱えて原付のところまで戻ると、大慌てでエンジンをかけて逃げていった。
もしかして、俺たち、ただ暴行傷害事件を起こしただけなのでは?
「あ、あの、ごめんね」
別に友達でもなんでもなかったが、3人の背中に向かって小声で謝っておく。
そして、やってやったとばかりに腰に両手を当て胸を張り、満足げな表情を浮かべているマゼラの横顔をチラッと見て、
「あ、あの~、マゼラさん?」
「何ですか、亘さん?」
「随分と、お強いんですね?」
と、恐る恐る聞いた。
「どうしたんですか? 話し方が変ですよ?」
宇宙警察というぐらいだから、それなりに強いだろうとは思っていた。
しかし、まさか生身であれほどとは思わなかった。
「まあ、地球ではそうそうないと思いますが、宇宙だと野良アンドロイドや、ヤンキーアンドロイドを素手で取り押さえないといけないことがありますからね」
「えっと、アンドロイドって、戦車でも勝てないぐらい強かったのではありませんか?」
あと、野良アンドロイドやヤンキーアンドロイドって何?どんなの?
「それは戦闘用ですよ。いくらなんでも、それは素手では無理です」
いやですよ~、と笑いながらそう言うマゼラ。
「そ、そうだよね。さすがに、そこまで強い奴とは素手では戦えないよね?」
「はい。普通のアンドロイドだと、フォークリフトぐらいのパワーしかありません」
「そうかぁ~。どちらにしても、馬力で測るぐらい力があるってことだねぇ~」
今後、マゼラと接する際は、スペーススーツを着ていない時は言葉遣いに気をつけようと、深く心に刻んだ西條 亘だった。
その後、亘とマゼラは河川敷まで来ると、周囲に誰もいないことを確認してから、スペーススーツを転送してもらった。
さっそくスペーススーツの上に作業用つなぎを着ても、機能を阻害しないか試そうというのだ。
まず、今の私服の上に赤い全身タイツのスペーススーツを着て、その上に作業用つなぎを着てから、白い手袋と白いブーツを装着する。
「おおっ、畑仕事をしている人みたいで、変態感がない!!」
まあ、確かにこの段階で変態に見えたら、農家の人たちにとても失礼なことになる。
「問題はこれだよな……」
最後の装備である、顔丸出しの白色ヘルメット。
「これって、被らないと駄目なの?」
恐る恐るマゼラにそう聞くと、
「スペーススーツの機能は思考コントロールで、そのヘルメットがコントローラーになっていますから」
「やっぱりそっかぁ~」
「あと、時速100キロとかで走ったり、空を飛ぶのにノーヘルだと、ほぼ確実に頭部が大変なことになります」
「ヘルメット着用って大事だな」
仕方がないので諦めてヘルメットを被り、あと、誰かに見られたらまずいので、いつものサングラスとマスクを着ける。
「いつもよりはマシだけど、やっぱり変質者ゲージが一気に跳ね上がったな」
川に映る自分の姿を見つめつつ、亘がそう言った。
「そうだ、亘さん!!」
マゼラがそう言うと、パチンと手を叩く。
「これを着けたらどうですか?」
そう言うと、どこからともなく黒い猫耳カチューシャを取り出した。
「な、なにそれ?」
「これも宇宙警察の装備ですよ」
そして、その猫耳をまずは自分の頭に着けて見せる。
め、滅茶苦茶可愛い……。
実に恐ろしいアイテムである。
「なに、それ? 犯罪者が悪いことをする気を薄れさせるとか?」
亘がそう言うと、マゼラは猫耳カチューシャを頭から外し、
「そんな便利な装備があるわけないじゃないですか」
と、少し呆れながら答える。
「じゃあ、何?」
「これを着けると、猫の言葉をしゃべれるんです」
「…………」
「やってみますね」
目が点になっている亘の前で、マゼラが再びそれを自分の頭に装着し、
「ニャー、ニャア、ニャ~ン」
と言った。
それは猫の鳴き声というより、猫の鳴き真似をしているようにしか聞こえない。
しかし、破壊力は抜群だった。
「これは……マゼラの正体を知らない人間だったら、一大事になっていたな」
確かに金髪ポニーテール美少女が猫耳を着けて、さらに猫の鳴き真似をしているのだ。
これを見て平常心を保てる男など、地球人類には存在しない。
「という便利な装備品です」
猫耳カチューシャを外したマゼラがそう言うと、それを亘に手渡してくる。
「そもそも宇宙警察は、何でこんな物を開発したんだ? 猫宇宙人がいるとか?」
「事件現場を目撃した猫から聞き取りを行ったり、緊迫した犯行現場の空気を和ませるためだそうです」
「和ませてどうする?」
「間違って犯人以外を撃っても、笑いで誤魔化せます」
「そこは誤魔化したら駄目でしょ」
「とりあえず、そのサングラスとマスクの怪しさを、これで中和するのはどうですか?」
「中和……されるの……これで?」
「さあ、物は試しです」
満面の笑顔で勧めてくるマゼラの圧に負けて、亘がヘルメットの上からそれを装着する。
『これで良いの?』
喋ると猫の鳴き真似になるので、思念通話でそう言う。
「プッ……クッ……クク……似合ってますよ」
全身全霊をかけて、こみ上げてくる笑いをこらえつつ、マゼラがそう言った。
「さあ、スペーススーツの上に違う服を着ても機能が阻害されないか、試してください」
顔を真っ赤にして両手で口を押さえつつ、本来の目的を思い出させてくれる。
『分かったよ』
そもそも、試すだけなら、別に猫耳など着けなくても良かったのでは? と思いつつ、亘が空を見上げる。
彼はスペーススーツの飛行機能を使おうとしていた。
地上で走ったりジャンプをしたりするのは目立ちすぎるからだ。
姿勢を低くしてから一気に空へ飛び上がる。
そして低空を飛行すると目立つため、一気に高高度まで上がろうと考えていた。
体が空気を切り裂くように、上昇していく。
その時、サングラスの内側に警告メッセージが表示された。
それは宇宙語のため、亘には読めない。
『マゼラ、なんだか警告みたいなのが出てるんだけど!!』
地上で飛び去っていく彼を見送っているマゼラに、そう聞く。
『あ~っ、やっぱりか』
『何がやっぱりなんだよ?!』
『スペーススーツが、異物のせいで機能が阻害されていると文句を言っています』
『くそっ、駄目だったか』
『あと、異物を排除するそうです』
『何だってぇ?!』
その直後に、作業用つなぎが消滅した。
いつもの赤い全身タイツ+猫耳スタイルになった亘。
驚きすぎてバランスを崩した彼の体が錐揉み状態になり、落下していく。
「ウニァアアアアアアア!!」




