第19話 告白
4月16日 1300
幸いな事に、日本に向けて発射された某国の弾道ミサイルは、日本の領海に入った直後に分解してしまった。
当然、被害は一切出ていない。
ただ後日、半島の北の国で人民軍総参謀長が粛清されたというニュースが流れたのだった。
ミサイル騒ぎのおかげで4時限目の授業は中断され、そのまま昼休みになっている。
そのおかげで亘は、スペーススーツを脱ぐと、学校に戻ってくることができた。
さらに言うと、Jアラートが鳴った後、いきなり叫びながら立ち上がり、教室からマゼラを連れ出したことは、屋上に出現して彼女を襲おうとしていた変質者のおかげで、有耶無耶になり忘れられている。
授業が終わっても、亘は自分の席に座ったまま、考え事をしていた。
「亘さん、帰らないんですか?」
何事もなかったかのように、全く普段通りのマゼラがそう言ってくる。
「俺の事は放っておいて……」
何をやっても変質者で終わる。
もしかして俺って本当にただの変質者なのでは? いや、いっそのこと、もう変質者でいいや。
自棄になっているというか、悟りの境地に至ろうとしていた。
その時、南條 由利亜が教室に入って来た。
それに気付いて、マゼラが廊下へと出て行く。
「あ、あの西條君」
控えめにそう声をかけられ、亘が驚いて振り返った。
「南條さん……」
「私ね、あの赤い変態と、もう何度も会っているの」
もう変質者ではなく、変態扱いになっている。
「そ、そうなんだ……災難だったね」
「最初は公園の側で、2回目は交通事故現場で、3度目は市民ホール、そして今日は学校の屋上で」
もちろん全て偶然なのだが、彼女は自分が付きまとわれていると考えているかもしれない。
「初めは気持ち悪かった、次は腹が立って、一昨日は怖かった。だって、あの赤い変態、高い所から飛び降りても全然平気だし」
「そ、そうだね」
あのスペーススーツは、その気になれば空を飛べるし、そのまま大気圏を突破して宇宙にだって行ける。だから、校舎から飛び降りるぐらい何でもない。
「怖いよね、そんなスーパーマンみたいな変質者」
亘が掠れる声でそう言うと、南條 由利亜が少し頬を赤らめつつ微笑んだ。
「そうなんだけど、何だか私……」
「?」
「あの赤い変態の事、好きになっちゃったみたい」
ガンッ!!
亘がズッコケて頭を机に強打した。
「……え? ……ええっ?!!」
「私、西條君になんでこんな事を話してるんだろ?」
「さ、さぁ?」
「ごめんね。この事は皆には内緒にしておいてね」
「わ、分かったよ」
「ありがとう。じゃあ私、帰るね」
そう言うと、南條 由利亜が自分の机から鞄を取って教室から出て行った。
「…………」
何がどうなったら、そのような事になるんだ?
「フフフ、聞いちゃいましたよ」
すると、今度はマゼラが教室に戻って来た。
「やったじゃないですか、亘さん。南條さんの事、好きだったんでしょ?」
「な、なんでそれを?!」
「そりゃ、ずっとUFOから見ていましたから。そんな事より、両想いじゃないですか?!」
ヒューヒューと、囃し立てるマゼラ。
「違うだろ。南條さんが好きなのは、スペーススーツを着た俺、さらに言うと正義のヒーローじゃなくて、赤い全身タイツの変態だ」
「いっそのこと、正体を明かしたら良いんじゃないですか? あの変態は俺だって」
「なんて情けないカミングアウトだよ、それ」
「だったら、合わせて、あれは全部誤解だったって説明をしたらどうです?」
マゼラが亘の隣の席に腰かけつつ、そう言う。
事情を知らない第三者が偶然この教室内を見たら、どう感じるだろう?
冴えない男子生徒と、金髪美少女が、放課後に談笑をしている。
なんて羨ましいんだ!! と思うだろう。
しかし、二人の会話は恐ろしく救いのないものだった。
「いいか、マゼラ。南條さんが好きになったのは、正義のヒーローじゃなくて、赤い全身タイツを着た変態なんだ。つまり、あれが全部誤解だと伝えたら、彼女の恋心も勘違いだったと言う事になる」
「ありゃ」
「つまり、彼女にずっと好きでいてもらおうと思ったら、俺もずっと変態でいなけりゃならないんだよ!!」
「……」
「分かったか?」
「確かに。でも亘さんって、結構素で変態だから、問題ないのでは?」
「ウギャアアアアア!!」
西條 亘の絶叫が、校舎の中に響き渡った。
当初の予定通り、地球を救うヒーローになるか、それとも好きな女の子のために変態を続けるか。
「あと、あれですよね、あんな格好の人が好きだなんて、南條さんも相当ですよね。」
「言うなぁああああああ!!」
両極端どころではない問題だった。




