第18話 ヒーローになるチャンス!!
4月17日 1200
半島の北側にある某国の最高指導者官邸。その地下には、豪華な地下室があった。
その快適で安全な地下で、最高指導者はソファーに腰掛け、コーラを片手に、半島の南側の国のアイドルグループのミュージックビデオを鑑賞している。
「素晴らしい。我が国で同じような事をしても、どうしても固くなってセクシーさが足りないからな」
彼がそう言った時、サイドテーブルの上に置かれていたアメリカ製の、iナンチャラと言う名前のスマホが鳴った。
「何だ?」
至福の時間を邪魔されたことで不機嫌になりながらも、画面を一時停止し、それを手に取る。
「私だ」
そして、そう言うと、
『こちらは日本の警察です』
予想だにしない相手からの電話だった。
「はぁ?なんだと?」
『特殊詐欺事件の捜査をしていたところ、あなたの名義の口座から高額な不正送金が確認されました』
「な、なに?」
『このままでは、あなたは詐欺、もしくは詐欺幇助の容疑で逮捕されます』
とんでもない事を言い出す。
『無実を証明するために、あなたの口座番号と暗証番号を教えてくださ……』
そこで最高指導者は通話を切った。
「ふざけた真似を……」
怒りでプルプルと震えつつ、手に持っていたスマホを床に叩きつける。
そして、こちらもサイドテーブルの上に置かれているインターホンのボタンを押し、
「参謀長を呼べ!!」
と怒鳴った。
数分後、人民軍総参謀長が、転がるように地下室へ駆け込んで来た。
「お、お呼びでしょうか、閣下!!」
この国では、国家元首を怒らせると、だいたいろくな事にはならない。
特に高い地位に上り詰めるほど、些細な事で簡単に抹殺されてしまう。
この時も総参謀長は、「俺、何かやらかしましたか?」と、すっかり怯えていた。
「今すぐ、弾道ミサイルの発射試験を行え」
「えっ?」
最高指導者の突然の命令に、思わず固まってしまう。
「いつもは排他的経済水域の外側に落としているが、今回は領海内にやれ」
「り、領海内でありますか?」
「そうだ。日本の陸地のギリギリにだ」
「ま、誠に申し上げにくいのですが、次の発射予定の新型弾道ミサイルは現在工場で組み立て中で、今すぐ発射できるのは旧式だけです。正常に飛ぶかどうか……」
「総参謀長」
「は、はい!!」
「私は、命令を発したのだ。実行するか、しないのか、どちらだ?」
もし「しない」と返事をしたら、彼はこの部屋から処刑場に直行する事になる。
「偉大なる最高指導者の命令を、速やかに実行いたします!!」
不動の姿勢を取ると、そう復唱して、彼は逃げるように駆け出した。
月曜日の午後。
亘は授業を進める教師の声を聞き流しながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
二日前、自分の不注意で、危うくこの街が消滅するところだった。
しかし、そんな事より、
「俺、南條さんに抱き着いたんだよなぁ~」
全然違う事を考えていた。
彼の位置からは、彼女の後ろ姿が見える。
入学以来ずっと同じクラスだったというのに、会話どころか存在すらほとんど認識されていなかった相手と、最近は挨拶ぐらいは普通に交わせる関係になった。
2年以上かけてその程度とは、色々問題外だが、本人はそれでも満足しているのだから、まあ良いだろう。
その時だった。
ピロン、ピロン、ピロン、と、教室中、いや学校中の教職員、そして生徒達のスマートフォンから一斉にJアラートの警報音が鳴った。
その存在は知っていても、本当に鳴っているのを聞いたことがなかった生徒達が、皆驚く。
「な、何事?」
皆がポケットや鞄の中からスマホを取り出して、その画面を見る。
その時、亘の頭にマゼラの声が聞こえて来た。
『亘さん、チャンスですよ!!』
驚いて振り返り、窓際一番後ろの彼女の席を見ると、不安そうなクラスメイト達の中、一人だけ滅茶苦茶嬉しそうな笑顔になっている。
金髪美少女の魅力的な笑顔だというのに、亘には悪魔の微笑みにしか感じられない。
『な、なんのチャンス?』
学生服のポケットにはマゼラフィギュアを入れているため、思念通話でそう聞き返す。
なお、一昨日の反省から、そのフィギュアの首には細いチェーンを巻き、その端をベルトに括りつけて、落とさないようにしている。
知らない人に見られたら、普通に美少女フィギュアを持ち歩いているより、はるかに大きな勘違いをされそうだが、こうしなければ、とても怖くて持ち歩けない。
『某国がこの国に向けて、ミサイルを発射しました』
『あ~、時々飛ばすやつね』
初めの頃は、そのニュースを聞くたびに、それなりに驚いたり怯えたりしていたが、今ではすっかり慣れて、何とも思わなくなってしまったが。
亘も自分のスマホを取り出して画面を見ると、確かにその緊急情報が表示されている。
『でも、あれって毎回海に落ちて終わりだけど』
『はい、今回もそうだったのですけど、デスラー保安官が、UFOの牽引ビームで軌道を変えて、この街に落ちるようにしました』
「何だってぇええええ!!」
驚きすぎてそう叫ぶと、椅子を倒しながら立ち上がる。
驚いたクラスメイトと教師の視線が一斉に亘に集中した。
「何てことするんだ?!」
しかし、亘はそれを無視してマゼラに詰め寄った。
『だからチャンスなんですよ』
「何がチャンスだ?!」
『そのミサイルを亘さんがスペーススーツで撃ち落としたら、一躍ヒーローじゃないですか?』
そ、そのために、わざと弾道ミサイルがこの街に落ちるようにしたというのか?!
「お前なぁ~」
『さあ、急いでください。間に合わなくなりますよ』
「くそっ!!」
亘がそう言うと、マゼラの手を掴んで走り出した。
「お前も来い!!」
クラスメイト達からすれば、いきなりブチ切れた亘が、マゼラを怒鳴ったあげく、そのまま教室の外に連れ去ったようにしか見えない。
「さ、西條って、あんなキャラだっけ?」
「あいつ、マゼラさんに何をする気だ?!」
騒然となる教室を後に、亘とマゼラは屋上を目指して走って行った。
屋上に着くと、亘はマゼラフィギュアを頭上に掲げて振り回し、スペーススーツを呼んだ。
そして、それが転送されてくると、大慌てで装着する。
「亘さん、サングラスをかけてください。スペースビームの照準と発射のタイミングが表示されますから」
街の大ピンチだというのに、相変わらず嬉しそうにはしゃいでいるマゼラがそう言う。
「あと、どれぐらいなんだ?」
「1分もありません。さあ、急いでください」
なんだかんだ言って、スペーススーツにも慣れてしまった。
手袋とブーツを着け、ヘルメットを被ると、サングラスをかける。
すると、マゼラの言う通り、サングラスの内側に十字のレティクルが映っていた。
そして、その横に表示された数字がカウントダウンされていく。
あと30秒を切っている?!
亘は両手を左右に広げてから頭上に上げ、そして胸の前に下ろしてくると、指でハートの形を作った。
あとは、「スペースビーム!!」と絶叫すれば、発射される。
「これでミサイルは撃ち落とせるんだろうな?!」
「はい、命中すれば跡形もなく蒸発します。逆に地面を撃ったりしたら、マントルまで貫通するので気を付けてくださいね」
「本当に、無駄に威力が強いな」
ハートの形にした両手の指を、サングラスに表示された十字と重ねた。
「さあ来い。俺が撃ち落としてやる」
なんだかんだ言って、興奮しているのが分かる。
原因や経緯は気に食わないが、それでも街を救えるのだ。
やっとヒーローになれる!!
カウントダウンが10を切った。
9、8、7、6、5……。
「あれ……5で止まったんだけど?」
亘が照準姿勢を崩さないように意識を集中したまま、そう言った。
すると、マゼラが空を見上げて、デスラー保安官と思念通話している。
「えっ、そうですか……はい、分かりました」
「なんだ? どうしたんだよ? まさか落下地点がズレて、違う街に落ちたとか?」
そう聞くと、マゼラがテヘヘと笑いつつ、
「ミサイル、バラバラになっちゃったそうです」
「なんですとぉ~!!」
「UFOの牽引ビームで無理に軌道を変えたせいかもしれませんけど、それにしてもチャチ~ですよね」
それを聞いて、亘の両手がパタッと落ちる。
「お、お、お前なぁ~」
「大丈夫です。次は絶対にこの街に落としますから」
「いい加減にしろぉ~!!」
そう怒鳴ると、亘がマゼラに詰め寄って行く。
その時、屋上のドアが開いて、クラスメイト達が飛び出して来た。
そして、彼らは見た。
赤い全身タイツの変質者が、マゼラに襲い掛かろうとしている姿を。
「変質者だ、こんなところにまで出没しやがった!!」
「マゼラさんが危ない!!」
「マゼラさんを助けろ!!」
そして、ワァ~ッ!! と叫びつつ、亘に向かってくる。
「ち、畜生ーっ!!!」
クラスメイト達に暴力を振るう訳にもいかず、亘は屋上から飛び降りる。
「変質者が自棄を起こして飛び降りた!!」
しかし、4階の校舎の屋上から飛び降りたというのに、亘は身軽にグラウンドに着地すると、そのまま叫びながら逃げ去って行った。
「あ、あいつ、ただの変質者じゃないぞ?!!」
驚くクラスメイト達。
その中にあって、南條 由利亜だけは、市民ホールでの事を思い出していた。
あの時、彼女を押し倒して美少女フィギュアを強奪した変質者は、信じられない事に、市民ホールの屋根までジャンプをして、そのまま姿を消したのだ。
「やっぱり気のせいじゃ無かったんだ……」
屋上のフェンスに指をかけ、遠ざかっていく亘の背中を見つめつつ、彼女がそう呟いた。




