第17話 ホットライン
4月17日 1000
アメリカ合衆国ホワイトハウス、大統領執務室。
トランク大統領は、歴史と格式が感じられる執務机に靴を履いたままの足を乗せると、豪華な革張りの椅子に深く腰掛け、雑誌を読んでくつろいでいた。
「フンッ、フンッ、今度はどこの国を虐めてやろうかぁ~」
どこまで本気か分からない独り言をつぶやきつつ、ページを捲る。
その時、ジリリリリ、と、今では聞くことがなくなった電話のベルが鳴り響いた。
「OH!!」
と、驚いて足を降ろしつつ、どこから音がするのか、室内をキョロキョロと見回す。
そして、思い出した。
それは執務机の引き出しの中から聞こえている。
引き出しを開けると、そこには真っ赤な電話機が置かれていた。
今は昔、ロシアがソビエト社会主義連邦共和国という名前だった頃、いつ核戦争が起きても不思議ではない時代があった。
その時に、勘違いで最終戦争を起こさないように、お互いの国のトップのもとに、この電話機が設置されたのだ。
世にいうホットラインである。
「使えたのか、これ?」
人類史上、最も核戦争が勃発する可能性が高かったと言われる1959年のキューバ危機の時、お互いに大使館などを通じてやり取りをしていると時間がかかりすぎて、対応が後手後手に回ってしまうというので設置されたのだが、幸いなことに、これまで一度も使用されたことがなかった。
その一度も鳴ったことがない呼び出しベルが今、元気よく鳴り響いている。
「まさか、あいつ自棄を起こしたんじゃないだろうな?」
なにせ、この電話は太平洋の向こう側の面倒くさい国の大統領と直通だ。
内容によっては、世界情勢が一変する緊急事態になるだろう。
恐る恐る手を伸ばして受話器を取る。
「私だ」
短くそう答えた。
すると、電話の相手は某大統領ではなかった。
『あっ、パパ? 俺だけど』
「…………はぁ?」
世界で最も危険で重要なホットラインから聞こえてきたのは、若い男の声だった。
何となく、自分の息子の声のような気がしないでもない。
「お、お前か?」
『そうだよ、パパ』
「お前、なんでこの回線を使ってるんだ? そもそも今どこにいる?」
普通に考えれば、某国の大統領執務室だ。
『実は、仕事で日本に来ているんだけど、ちょっと車で事故しちゃって、今すぐ示談金を支払わないと俺、警察に捕まっちゃうんだよ』
「な、何だと?!」
あまりに突拍子もない内容に、トランク大統領が驚く。
『警察の人に代わるね』
そう言うと、電話口の相手が代わった。
『こちら警察の交通課、交通事故処理担当者です。あなたの息子さんは重大な交通事故を起こしました。このままでは国際問題になります』
「…………」
トランク大統領の額に青筋が浮かび、拳がプルプルと震えだす。
「俺の息子を犯罪者扱いするとは、良い度胸だ……」
そして拳で執務机の天板を力一杯叩いた。
ドンッ!!
「良い度胸だ! 合衆国の力を見せつけてやる!!」
そう怒鳴ると、ガシャン!! と受話器を叩きつけるように電話を切る。
そして、次は執務机の上にある内線電話の受話器を手に取った。
「補佐官!! 今すぐこの電話を、統合参謀本部議長につなげ!!」
それはアメリカ合衆国の軍服組のトップだ。
『大統領、何事でしょうか?!』
1分もしないうちに、国防総省にいる統合参謀本部議長が出た。
「今、第7艦隊はどこにいる?」
『だ、第7艦隊ですか? 今はハワイ沖で演習中です』
「すぐに中止して、日本に向かわせろ!!」
『に、日本にですか?!』
「そうだ。そして東京湾で演習をしてやれ!!」
『ええっ? い、いくら何でもそれは……』
戸惑う統合参謀本部議長に向けて、トランク大統領は、さらに高圧的に命令を発しようとしたが、ふと何かが気になって止めた。
「い、いや、ちょっと待て」
よく考えたら、当たり前だが、ホットラインに息子が電話をしてくるなどあり得ない。
自分のスマホを取り出すと、息子に電話をかける。
すると、すぐにつながった。
『どうしたの、パパ?』
先ほどとは違い、普段通りの口調だ。
「お前、今どこにいる?」
『ワシントン郊外のゴルフ場にいるけど』
「…………」
『それがどうしたの?』
「いや、何でもない。念のため確認するが、日本に行っていないんだな?」
『ハハハ、何を言っているの』
との返事を聞いて、トランク大統領は通話を切った。
そして、統合参謀本部議長とつながったままになっている受話器を手に取ると、
「すまん、先ほどの命令はなしだ」
と、言ってこちらも切る。
何だったんだ、さっきの電話は?
椅子の背もたれに深くもたれかかりつつ、開いたままの引き出しを見る。
そして、次はCAI長官に電話をかけたのだった。
「失敗しました」
宇宙犯罪組織地球アジトで、戦闘用アンドロイド、シャリがそう言った。
「あ~っ、やっぱり無理かぁ~」
それを聞いて、スシローとドクターが残念がる。
「やっぱり大物を狙い過ぎましたね」
ドクターがそう言うと、スシローが、
「そうだな。いくら未開の原住民とはいえ、そこまで愚かではなかったか」
と言う。
「では、次はどうしますか? もう止めますか?」
「いや、もう一回ぐらいやってみよう。もっとチョロそうな小物の国に」




