第15話 マゼラフィギュア大捜索
市民ホールの内部及びその周辺には、大勢の人が集まっていた。
コスプレイヤー、売り子、カメラマン、そして同人誌やグッズを抱えた人達が、楽しそうに盛り上がっている。
そこに亘とマゼラが駆けつけて来た。
「こ、この人混みの中から、あの小さなフィギュアを探すの? 無理だよ……」
まさに、よりにもよってと言った感じだ。
するとマゼラが、
「こういう時こそ、スペーススーツの出番ですよ」
と、言った。
「ふざけている場合か?!」
「スーツの特殊能力を使えば、きっと見付ける事ができます」
「……」
確かに、聴覚、視覚、嗅覚、味覚を最大で千倍にまで上げる事ができる。
「仕方がないか……」
まさに苦渋の決断である。
亘は、会場の近くにある公衆トイレへと向かって行くと、入り口にマゼラを残して中に入った。
4月15日 1000
亘のクラスメイトにして片思いの相手である南條 由利亜には、趣味があった。
実は、彼女はアニメやゲームが大好きだったのだ。
今時の女子高生なら珍しくもないため、別に秘密にしたりはしていない。
しかし、不必要に自分から周囲に言いふらしたりもしていなかった。
本人的には、
「アニメ、うん、好きでたまに見るよ」
程度で済ませておきたかったのだが、本当はかなりガチで大好きで、推しのキャラクターも一人や二人ではない。
この日は、自分の住んでいる街でコミックマーケットが開催されると聞いて、ずっと楽しみにしていた。
下調べをした結果、かなり有名な同人サークルも参加しているし、彼女がファンのコスプレイヤーも来ることが分かっている。
「この日のために、お年玉も残しておいたし、あ~っ、楽しみ」
そう言いつつ、入場待ちの長い列に並んでいた。
このような地方都市では、規模の大きなアニメやゲームのイベントなど滅多に行われない。
かといって、一人で東京まで行って有名なコミックマーケット等に参加するのはちょっと怖いし、親も許してくれないだろう。
会場の内外では、すでにアニメやゲームのコスプレをした人達の周囲に人垣ができていた。
「わぁ~、可愛い~」
それを見た時、彼女の頭にある男の姿が浮かんだ。
赤い全身タイツに胸に黄色いVの文字、白い手袋とブーツ、そしてヘルメット。何より不気味なのは、その格好でサングラスとマスクを着けている事だ。
あれもコスプレと言って良いのだろうか?
最近この近辺に出没し、騒ぎを起こしている変質者。ネットでは胸の文字からV男などと呼ばれていた。
「いえ、あれは正真正銘の変態よ」
そう呟くが、心のどこかでふと思ってしまう。
またどこかで会ったらどうしよう?気味が悪いし怖いが、それでも・・・・・。
「はぁ、駄目、駄目、今日はあんな変質者の事なんか忘れて、楽しまないと」
そう言うと彼女は、市民ホールの方に目を向けた。
そのドーム型の屋根に1羽のカラスがとまっている。
「ん?」
その嘴が、何かフィギュアのような物を咥えているように見えた。
「もしかして、どこかのサークルの商品?」
しかし、目を凝らして確かめようとすると、羽を広げて飛び去ってしまったのだった。
トイレに駆け込んでから3分後、最近この街ではちょっとした有名人になっているスペーススーツ姿の亘が、トイレから出て来る。
もちろんサングラスとマスクは付けているため、正体がバレる事はない……はずだ。
市民ホール周辺には、アニメやゲームキャラクターのコスプレをしている人達が大勢いるため、これまでに比べて全然目立たない。
「これは、良いかも」
いつもなら、この格好で人前に出るだけで大騒ぎになったが、今回に限っては地味で目立たない方だ。
「まずは聴覚からいきましょう」
トイレの外で待っていたマゼラがそう言った。
「わ、分かった」
いくらここでは目立たないとは言え、この格好で人前に出るのは危険すぎる。
もしコスプレではないとバレたら、即警察に通報されてしまうからだ。
一刻も早く、カラスに強奪されたマゼラフィギュアを発見しなければ。
街が蒸発する前に、そして自分が警察に逮捕される前に。
亘が意識を集中し、スーツの聴覚能力を上げていく。
さすがに、いきなり千倍にしたりはしない。
「新刊買えた?」
「そのフィギュア、どこで売ってました?」
「撮影お願いしまーす!!」
「おおっ、良いアングル!!」
「ええっ、もう完売?!」
全体の音を聞くと雑音にしかならないため、ピンポイントで一人ずつ声を拾う。
「だ、駄目だ……」
亘がヘルメットの上から頭を抱えた。
「どうしたんですか?」
「会場の三分の一がフィギュアの話をしている! あとパンチラ!!」
その中にマゼラフィギュアらしきものは無かった。
あと、もしそれを手にしてスカートの中を覗いている者がいたら、今頃ここは閃光に包まれ、蒸発している。
「なあ、遠隔操作で、その自爆装置は解除できないのか?」
「駄目です。現物を手にすれば可能ですけど」
「くそっ、このままじゃ、地球を救うヒーローの変身アイテムのせいで街が吹き飛ぶことになるぞ」
「では、視覚はどうですか?」
そう言われて亘は少し試してみるが、
「人が多すぎる。あと、似たようなフィギュアがあり過ぎて特定できない」
亘がそう言うと、マゼラがウ~ンと少し考え込んだ。
「仕方ありません、出来ればこれは使いたく無かったのですが」
「何か奥の手があるのか?」
「スーツの嗅覚探知を使いましょう」
「匂い?」
「はい、ただ視覚や聴覚と違って、嗅覚はフィルター機能がかかりずらいのです」
「何で?」
「良い臭いかどうか、それは個人の好みによってかなり変わるからです」
「な、なるほど」
ちょっと想像しただけで、それがどれほど危険な事か理解できる。
亘が大いに盛り上がっている会場の方に目を向けた。
特に市民ホール内は、とてもかぐわしい香りが充満していることが想像できる。
「そ、そもそも、あのフィギュアって、何か匂いしたっけ?」
「いいえ、しませんけど、紛失時に探しやすいように、遠隔操作で出す事ができます」
要は、どこにしまったのか分からないスマホを探す機能のようなものだ。
いつもニコニコしているマゼラが、険しい表情になっている。
まあ、その気持ちも分からないでもない。自分そっくりなフィギュアから臭いを出すのだから。
「ちなみに、どんな匂い?」
「えっと、一週間履き替えていない靴下の臭いです」
「もっと、他に出せないのかよ?!」
「一番分かりやすい臭いですので」
「宇宙人の基準ってどうなってるの?!」
しかし、もう一刻の猶予もない。
今こうしている間にも、誰かがあのフィギュアを拾い、スカートの中を覗いているかもしれないのだから。
「分かった、やってくれ」
南條 由利亜はまず市民ホール内に入り、欲しかった同人誌を購入すると、外に出て来た。
そこではコスプレイヤー達が、デカいレンズを付けた一眼レフカメラの砲列から、フラッシュの集中砲火を浴びていた。
もっとも本人達は超ノリノリで、決めポーズなどを取っているのだが。
「うわぁ~、素敵」
スタイルの良いモデル体型の女性が、彼女の好きなアニメキャラクターの恰好をしている。
ちなみに、そのキャラクターはクールなイケメンだ。
南條 由利亜は自分のスマホを取り出すと、そのコスプレイヤーに近付いて行った。
その時、頭上で鳥が翼を広げて飛び立つ羽音がした。
「じゃあ、やりますよ」
マゼラがそう言うと、遠隔操作で、カラスに奪われた自分そっくりなフィギュアから、臭いを出した。
「ギャアアアア!!」
頭上から不気味なカラスの鳴き声が聞こえて来たかと思うと、何か小さな物が落ちて来た。
驚いて顔を上げた南條 由利亜が、自分目がけて落ちて来たそれを咄嗟に受け止める。
「痛っ!!」
それは手の平サイズのフィギュアで、かなり尖っているパーツがあったため、かなり痛かった。
おまけに、
「うわっ、くっさぁああ!!」
滅茶苦茶臭かった。




