第14話 町内世紀末危機
4月15日 0900
「どうもおじゃましました!!」
玄関でそう言い、礼儀正しく頭を下げるマゼラ。
そんな彼女を、亘の両親が笑顔で見送っている。
母親などは、親せきが送って来た桃を袋に詰めて、お土産として持たせているぐらいだ。
「また、いつでも遊びに来なさい」
「亘がいない時でも全然かまわないからね」
「はい、ありがとうございます!!」
そのような会話を頭越しに聞きつつ、亘が玄関でしゃがんで運動靴を履いている。
そして、次に来る時はデスラー保安官も一緒に来てもらおう、などと考えていた。
その時、自分の両親がどのような反応をするか、思わず想像してしまう。
こうして亘は、休日の朝から半ば強制的に家を追い出されてしまったのだった。
「あっ、そうだ」
家の前の道路に出ると、マゼラが亘の方に向き直った。
「なに?」
「これ、忘れてますよ」
そう言うと、マゼラフィギュアを差し出す。
「お、お前、それ?!」
「もう、駄目じゃないですか。普段から肌身離さず持っていないと」
それは亘の部屋のクローゼットの中に掛けられていた学生服のポケットに入れていた物だった。
とりあえず、誰かに見られたら恥ずかしいので、それをひったくるように奪うと、自分のジャージのポケットに突っ込む。
「さあ、それじゃあジョギングから行ってみましょう!!」
マゼラが明るくそう言うと、走り始めた。
「え~っ、面倒臭い」
そう言う亘の背後に回り込むと、さあ、さあと急かす。
嫌々ながら、走るしかなかった。
「軽く20キロぐらい行きますよ!!」
「無理に決まっているだろ!!」
「何を言ってるんですか、フルマラソンの半分以下ですよ」
この宇宙警察保安官助手は、何を基準にして物事を判断しているのだろう? と真剣に悩んでしまう。
「そうだ、スペーススーツを転送してもらって……」
「そんなの意味ないじゃないですか!!」
「こんな時ぐらいしか、役に立たないじゃないか、あの超ダサスーツ」
「駄目なものは駄目です!!」
結局のところ、10キロが限界だった。
「も、もう限界だ」
そう言いつつ、公園のベンチに倒れ込む亘。
「ハァ、ハァ、ハァ、駄目だ。あ、足がつる……」
「もう、この程度で根を上げるなんて、だらしないですねぇ」
そして、同じ距離を走ったというのに、呼吸一つ乱さず、汗もかいていないマゼラ。
「お前、実はアンドロイドだろ?」
先日、当たり屋をしていた宇宙犯罪組織の戦闘用アンドロイドも、外見は人間と見分けがつかなかった。
「いいえ、私は人造人間ですよ」
「へぇ、そうなんだって……ええっ?! な、なにそれ?」
「まあ、分かりやすく言えば、工場で生まれた人間みたいな感じですかね」
「こ、工場でって……」
「じゃあ、畑で育てられたみたいな」
「いや、表現が分かりづらかったわけではなくて」
どのような反応をすれば良いか分からず、戸惑う亘。
「そうか、この星では人造人間どころか、クローン技術も未発達でしたね。でも宇宙では普通ですよ」
「普通なの?」
「はい。だって宇宙ってとても広いじゃないですか。どこもかしこも人手不足で困ってるんですよ」
「それは、そうかもしれないけど」
「特に軍隊や警察って危ないから、なかなかなり手が少なくて、採用難が続いているんですよ」
「それで、人造人間?」
「はい。大量生産できますし、常時スペアパーツがあるので、大怪我をしてもすぐに治療ができます」
一応、「治療」という言葉を使っているが、亘には「修理」に聞こえた。
「もしかして、外見とか皆、同じだったりするの?」
「全員がそうではありませんけど、ソックリさんは結構いますね。たまに同じ職場に配置されると、見分けがつかなくて皆さん大変みたいでしたので、そういう場合は髪型やメイクを変えて、識別しやすいように自分達で工夫をしています」
気が利いていると褒めて良いのか悩んでしまう。
とりあえず、本人は自分の出生について悲壮感や嫌悪感は持っていないようだ。
おそらく、それが宇宙の常識なのだろう。
逆に、妊娠・出産以外に子孫を残す方法がなく、腕や足どころか指ですら失うと再生できない地球人など、未開文明の原始人にしか感じていないはずだ。
そして、亘は頭の中で、この金髪元気娘が10人、20人と集まっている姿を想像してしまった。
「ある意味、ハーレムと言えなくもないな」
「あ~っ、亘さん、同型の私がたくさん集まって、チヤホヤしている姿を想像しましたねぇ~?」
ニヒヒと笑いつつ、マゼラが顔を近づけて来る。
「ち、違う!!」
「じゃあ、デスラー保安官がたくさん集まっている姿ですか?」
「それって、地球が、凶暴な宇宙人に侵略されている光景にしか見えないな」
その時、亘はふと考えた。
「そんなに凄いテクノロジーがあるなら」
「何ですか?」
「あのスーツのデザイン……もう少し何とかならなかったの?」
「あれは、見た目ではなく性能重視です。あと、売れ残りセール品でしたし」
「そんな物買って、俺に着せたのかよ」
そのような事を話している間に、亘の体力が少し回復して来た。
ベンチから立ち上がると、公園内にあった水飲み場へと向かう。
そして、しゃがんで水を飲んでいる時、ポケットに入れていたマゼラフィギュアが、ポロッと落ちた。
「あっ……」
手を伸ばしてそれを拾おうとした時、突然、黒い影が突風と共に舞い降りて来た。
驚いて尻もちをつく亘。
すると、目の前にカラスがいて、地面の上に転がっているマゼラフィギュアを器用に嘴でくわえると、
「お、おい、ちょっと待て!!」
と言う亘を無視して、飛び去ってしまった。
「ああっ、しまった!!」
スペーススーツなしでは、空を飛ぶことも、ビームでカラスを撃ち落とすこともできない。
「ど、どうしよう?!」
見る見るうちに小さくなっていくカラスの姿を見上げつつ、亘が呆然とそう言った。
しかし、慌てる彼とは対照的に、マゼラは平然としている。
「あ~あっ、でも大丈夫ですよ」
そして、そう言った。
「へっ?」
「予備がありますから」
そう言うと、ポケットから同じフィギュアを取り出す。
「あるんかい?!」
安心したのも束の間、ふと亘が考え込み、
「でも、あれって地球じゃオーバーテクノロジーの塊だろ? 誰かに拾われたりしたら一大事じゃないの?」
見た目は、手の平サイズの美少女フィギュアだが、スペーススーツの転送装置兼思念通信機だ。
「たぶん大丈夫ですよ」
しかし、マゼラはあっけらかんとしている。
「たぶん?」
「はい。壊されそうになったら、機密保持のため自爆しますから」
「…………」
「ちなみに破壊力は、この星の単位で言えば、約800ktぐらいです」
「えっと、ごめん、それって凄いの?」
「1ktはTNT火薬1000トン分の爆発力。要は、核ミサイルと同じぐらいですね」
「なんだとぉおおおおお!!!」
思わず絶叫する。
しかし、マゼラは落ち着いたままで、
「まあ、ダイヤモンドの10倍の硬度がありますから、よほどの事がなければ壊れません」
「……ま、まあ、確かにそうだな」
もっとも逆に、髪の毛や指などかなり精巧に作られているのに、落としても踏んづけても傷一つつかなければ、それはそれで怪しいが。
「ただし」
「まだあるの?」
「フィギュアのスカートの中を覗いた時も自爆します」
「うわぁあああああ!!」
やる、絶対にやる。あのフィギュアを拾って、それをやらない地球人類はいない!!
心の中でそう断言してから、ある事を思い出した。
「あ、あれ、でも俺も、あれを受け取った時、覗いたけど?」
「亘さんはユーザー登録されているから大丈夫です」
「大変だ、急いで探さないと。この街が世紀末になる!!」
それも死ぬほどくだらない理由で。
「探さないと!!」
大慌てな亘を見て、マゼラが、しょうがないですね、とばかりに、
「では、反応を追跡しましょう」
と、言って、目を閉じた。
そして、数秒後。
「見つけました」
「どこ?」
「この方向、距離300メートル、あの大きな建物です」
そう言うと、マゼラが少し離れた場所にある、大きなドーム型の建物を指さした。
「あれは、市民ホール」
そして何かイベントをやっているらしく、賑やかだ。
「嫌な予感しかしない」
「確か、今日はコミックマーケットが開催されていますね」
「もう駄目だぁあああああ!!!」




