第11話 遭遇!!スペーススーツと戦闘用アンドロイド?!
4月13日 1700
掃除を終えると、亘は家路についた。
マゼラは「じゃあ、私も帰りますね」と言って、女子トイレに入って行った。
おそらく、人目につかないところからUFOに転送してもらったのだろう。
夕焼けに赤く染まる空を見上げつつ、のんびりと歩いて行く。
「今日は、平和だった」
しみじみとそう言いつつ、住宅街を歩いて行く。
ちなみに、以前は通学路として使用していた公園とコンビニの前は通らないようにしている。
別に正体がバレるとは思っていない。ただ、変質者に間違われた時の事を思い出して、心が痛み、無性に涙があふれてくるのだ。
その時、少し前を歩く女子生徒に気付いた。
「な、南條さん」
少し前まで、一緒に教室で掃除をしていた南條 由利亜がいた。
「あれ? 西條君?」
亘の声に気付いた彼女が振り返る。
「西條君の家もこっちだったの?」
「う、うん、そうだよ」
以前は公園横のコンビニの前を通って通学していたため気付かなかったが、どうやら彼女はこの道を通って駅に向かい電車通学していたようだ。
そうして考えると、変質者に間違えられたのも無駄ではなかったような気がしないでもない。
こ、これはラブコメの定番「じゃあ一緒に帰ろうか」と言うやつか?! そんな事が現実に起こり得たのか?!
そのような事を考えていると、二人が立っている歩道の横を外国製の高級車が通過して行った。
特に車に興味がない亘でも知っているような車種で、下手に近付いて傷でもつけようものなら、西條家が破産するほど、お値段は高い。
その高級外車の前方の信号が赤に変わったため、減速する。
すると、歩道を歩いていた大柄な男が、何を思ったのか、その前に飛び出した。
ラブコメ展開にドキドキしていた亘がそれに気付き、
「えっ?! 危ない!!」
思わずそう叫ぶ。
しかし、間に合うはずもなく、高級外車と大柄な男が衝突する。
かなり減速していたとはいえ、あんな高級で大きな車に跳ねられたりしたら、ただでは済まない……はずだ。
「キャー!!」
南條由利亜が両手を口にあて、悲鳴をあげた。
衝突音と悲鳴を聞いた他の通行人も、事故現場の方に注目をする。
しかし、
「嘘だろ?」
と、亘が呟いた。
車に正面衝突したはずの大柄な男は、まるで電信柱か彫像のように直立したままで、反対に高級外車の方が、車体前面がボロボロになっている。
高級外車の運転席と助手席のドアが開いて、そこからサングラスをかけた、少し柄の悪そうな中年男性達が降りて来た。
「おい、大丈夫か?!」
「いきなり飛び出して、危ないだろうが!!」
そしてそう言って、二人同時に固まる。
それはそうだろう。自分達の車のフロントが大破しているというのに、ぶつけられた方は平然と立っているのだから。
さらにそこに、道路脇から、
「これは大変だ!」
と言いつつ、白衣を着た男が出て来た。
「これは、酷い事故だ」
彼がそう言うと、それまで微動だにせずに立っていた大柄な男が、いきなりバタッと倒れた。
「あんた達、なんてことをしてくれたんだ?」
「な、何事って……」
「あんたたちこそ何なんだ?」
もっともな疑問だ。
「これは重大事故だぞ。あなた達は刑務所行きだ」
「ええっ?!」
二人の男が驚いて、倒れている大柄な男と、フロント部分が大変なことになっている自分達の車を交互に見る。
その時、
「救急車を呼びましょう。あと、警察に通報します!!」
学生鞄からスマホを取り出しつつ駆け寄って行った南條 由利亜がそう言った。
すると、白衣の男性の顔色が変わり、焦りだす。
「ま、待ちなさい。まだ早すぎる」
「何を言っているのですか。一刻を争います。あなたのお連れさんが死んでしまいますよ!!」
可愛い女子高生にそう言われ、さらに焦りだす。
「少しぐらい放置しておいても死なないから、大丈夫だ」
「何故それが分かるのですか?!」
「彼の体の事は私が一番よく知っている。あと、お金さえ貰えたらすぐに帰るから」
今回も、自分から当たり屋だと白状してしまう。
亘は、南條 由利亜のすぐ後ろで、そのやり取りを聞いていた。
その時、突然、頭の中にマゼラの声が聞こえて来た。
『亘さん、亘さん!!』
「うおっ! びっくりした?!」
思わず声に出して驚いてしまい、慌てて自分の手で口を押える。
幸いなことに、南條 由利亜と白衣の男は口論に夢中で、こちらを見向きもしない。
『何だよ、いきなり。こっちは大変なことに……』
思念通話でそこまで言った時、マゼラがとんでもない事を伝えて来る。
『亘さんの事はUFOからトレースしていました。そして、車にぶつかったのは、さっきお伝えした、宇宙犯罪組織の戦闘用アンドロイドです』
『はぁ?』
『嘘だと思うなら、よく見てください』
そう言われ、さりげなく高級外車の前に回り込むと、倒れている大柄な男を細かく観察した。
若い頃のシュワちゃんみたいだ。
それが第一印象だった。
一見すると、どこから見ても人間にしか感じられない。
しかし、この状態だと、その方がよほど怪しいと言えるだろう。
かなり減速をしていたとはいえ、このような大きな車と正面からまともにぶつかり、さらに車の方はバンパーとボンネットが折れ曲がっている。
『確かに、これはちょっとアレだな』
『でしょ。宇宙犯罪組織は、頑丈が売りの戦闘用アンドロイドを使って当たり屋をしているのです』
『……そんな物凄い物を、なんてくだらない事に使っているんだ……』
取り締まる宇宙警察も大概だが、宇宙犯罪組織というのも相当酷いなと呆れてしまう。
『早くスペーススーツを装着してください!!』
『嫌だよ』
素で即答する。
『何故ですか?!』
『側に南條さんがいるんだよ。彼女には一度、あの超ダサスーツ姿を見られている。こんな所であれに着替えたら、即警察に通報されて、当たり屋より先に俺が逮捕される』
『もし、そうなったら、必ず脱獄させまるよ』
『そもそも逮捕されたくないんだっての!!』
すると、思念通話の相手がマゼラからデスラー保安官に代わった。
『亘君、よく聞くんだ』
『何ですか?』
『そのアンドロイドは今は大人しくしているが、いつ暴れ出すか分からない。そして、もしそうなったら地球の警察では取り押さえる事も破壊する事も不可能だぞ』
『それは……』
『軍隊が出動し、激しい市街戦になるだろう。そうなったら、どれほどの被害が出る事か』
『…………』
『それとも、UFOからビームで狙撃しようか? そうなったら、照射ポイントから半径1キロぐらいは焼け野原になるが』
『分かった、分かりました。俺が犠牲になれば良いんだろ!!』
悪の戦闘用アンドロイドと戦うことを犠牲と言い放ちつつ、亘は走り出した。
近くに公衆トイレは無かったため、空き家のガレージに入り、そこでマゼラフィギュアを頭上で振り回す。
そして転送されて来たスペーススーツを装着すると、サングラスとマスクで顔を隠した。
くそっ!! この格好でまた南條さんの前に出る事になろうとは……。
死んでもお断りだ!! と思っていたが、もしあの戦闘用アンドロイドが暴れ出したりしたら、すぐ側にいる彼女が危ない。
「南條さん、お願いだから、通報するのは少し待ってね」
そう言うと、交通事故現場に急いで向かった。
まだ警察や救急車は呼ばれていない。
そして、事故車両の周囲には、思いのほか多くの野次馬が集まっていた。
その中心で南條 由利亜と白衣の男がまだ口論を続けていた。
事故の加害者であるはずの二人のガラの悪そうな男達は、その側で放置状態になっている。
「な、何でこんなに人が集まっているんだ?!」
そこに、スペーススーツ姿の亘が到着した。
とりあえず、戦闘用アンドロイドは倒れて動いていないので、この状態では交通事故現場にやってきた変質者にしか見えない。
どこかに身を隠して様子を伺おうと思ったが、
「うわ、何だあいつ?!」
「あれじゃないか、最近この付近に出没する変態って」
「変質者だ! 警察を呼べ!!」
見つかってしまった。
集まっていた野次馬達が、交通事故より亘に注目する。
全員が一斉にスマホを取り出すと、それを彼に向け、大騒ぎになった。
「しまった!!」
一応サングラスとマスクをしているが、両手で顔を隠して、周囲を見回す。
どこかに身を隠さないと……。
そう考えていると、その人混みをかき分けて、南條 由利亜が出て来た。
そして、彼目がけて足早に近付いて来る。
な、南條さん……そのせいで逃げそびれてしまった。
「ちょっとあなた、交通事故の現場にそんな恰好でやって来るなんて、不謹慎にも程がありますよ!!」
学校ではいつも彼女の事を見ていたが、こんなに怒った顔を見たことが無かった。
説明をしたいが、スペーススーツには声を変える機能はないため、正体がバレてしまう可能性がある。
それだけは絶対に避けなければならない!!
その時、視界の端で、コソコソと逃げていく白衣の男と、車に跳ねられた大柄な男の姿が見えた。
どうやら、当たり屋に失敗したと判断して脱出を図っているようだ。
そして、野次馬に集まっていた群衆もそれに気付いた。
「おい、あんた達、どこ行くんだよ?!」
「車に跳ねられた人も元気じゃないか?!」
直後に二人がダッシュで逃走する。
良くはないが、とりあえず最悪の事態は避けられたようだ。
亘がそう考えた時、
「あなた、まさか?!」
南條 由利亜の表情がさらに険しくなった。
えっ?
「あの人達の仲間なの?! 当たり屋をしようとして失敗したから、逃げる時間を稼ぐためにその恰好で出て来たのね!!」
な、なんだってぇ~!!
想像していたより、さらに酷い状況になった。
それまで事故車を囲んでいた野次馬達も、一斉にこちらに向かってくる。
「さあ、大人しく自首しなさい!!」
そう言いつつ南條 由利亜が手を伸ばして来た。
学校では、彼女に触れたり、彼女から触れられたりした事など一度もないというのに。
亘がその手から逃れるように後ずさると、そのままダッシュで逃げ出した。
オリンピックの金メダリストどころか、スポーツカーよりも速く走れるため、当然誰も追いついて来ることはできない。
「畜生!! 宇宙犯罪組織めぇええええ!!」
かなり八つ当たりに近いが、悪の組織の撲滅を心に誓った瞬間だった。




