第10話 宇宙犯罪組織の悪事
4月13日 1600
亘とマゼラが学校でゴミ捨てをしていた頃。
街の中心部の交通量の多い国道を、1台のタクシーが走っていた。
駅から病院までお年寄りを送り届けた後で、再び駅で客待ちをしようとしていたところだ。
ふん、ふ~ん、と鼻歌など歌いつつ、この道30年のベテランドライバーである男性が、ハンドルを握っている。
そして、青信号の交差点に進入した時。
突然、歩道から大柄な男性が飛び出して来た。
「うわぁああああ!!」
反射的にブレーキを踏んだが、停まることも避けることもできず、その男性が目の前に迫り、そして激突する。
それはまるで電柱に激突したような激しい衝撃だった。
タクシーのボンネットが捲れ上がり、フロントガラス一面にひびが入る。
エアバッグが作動したため、運転手は無傷だったが、タクシー自体は廃車確定の状態になってしまった。
「た、大変だ?!!」
ショック状態から数秒で回復すると、タクシー運転手がドアを開けて転がるように車外に出る。
そして、自分が跳ねてしまった男性に向かって、
「だ、だいじょうぶですか?!」
大丈夫なわけがないと分かっていても、そう聞いてしまう。
「ええっ?!」
しかし、タクシーのエンジンルームに食い込むように、大柄な外国人が立っていた。
彼が若い頃に観た、未来から来たアンドロイドのような雰囲気で、サングラスをかけ、黒い革ジャンを着ている。
まさか、彼が被害者だとは思わなかったので、周囲を見回して、倒れている人はいないか探すが、足を止めてこちらを見ている通行人以外、誰もいない。
あと、現在のお約束として、彼らは足を止めると反射的にスマホを取り出して、事故現場を撮影しだしている。
じ、じゃあ、このゴツい外人さんとぶつかったのか?
「あの~」
恐る恐る声をかけると、その外人の顔が動いて目が合う。
「だ、大丈夫ですか?」
そう聞くと、それまで微動だにしなかった彼が、急に蹲って、
「ああ、痛い、痛い、骨が折れた。(棒読み)」
などと言い出した。
「ええっ、本当に大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄ってそう言うと、外人が何もない宙を見上げて、
「はい、分かりました」
と独り言を言い、さらに、
「あ~っ、骨がおれたぁ~」
と言いつつ、まるで電池が切れたおもちゃのようにバタンと倒れる。
「き、急にどうしたんですか?!」
抱き起こそうとするが、滅茶苦茶重たい。
すると、そこに、
「ああっ、大変だ!!」
そう言いつつ、野次馬をかき分けて白衣を着た男性が近付いて来た。
その服装から、はじめは偶然通りかかった医者かと思ったが、どうやらそうではなく、研究者か科学者のような雰囲気だ。
「私は、この人の友人だが、何ということをしてくれたんだ!!」
とりあえず、被害者の知り合いのようなので、それはそれで助かる。
その白衣の男性は、倒れている男に近付くと、その体を調べ、
「これは骨が折れているな、重傷だ、大変だ」
そう言いつつ、チラッとタクシー運転手の方を見る。
「す、すいません、すぐに救急車を呼びます!!」
我に返った彼が、慌ててスマホを取り出すと、
「まあ、待ちなさい」
「どうしてですか?!」
「よく見たら、たいした怪我ではないようだ」
「どっちなんですか?!」
「お互いに、忙しい身だ。ここは治療費を貰えれば、こちらとしても大事にするつもりはない」
「ええっ?!!」
普通なら、これは当たり屋なのでは?! と疑うところだが、彼のタクシーは電柱に正面衝突したようにボロボロになっている。
倒れているゴツい外人とぶつかったことは間違いない。
「すいません、そういう訳には……」
彼の勤めているタクシー会社の規則で、事故を起こした時は、物損・人身に関わらず、速やかに警察に通報するように定められていた。
「いやいや、たいした怪我ではないし、大事にしない方がいいだろう」
「会社の規則で、そういう訳にはいかないのですよ」
「しかし、私達は仕事の途中で、急いでいてね。幸いなことに彼は軽傷だ」
白衣の男がそう言うと、その隣でゴツい外人がムクッと起き上がる。
こうして見ると、軽傷どころか無傷にしか感じられない。
その時、遠くからパトカーと救急車のサイレンが聞こえて来た。
どうやら通行人の誰かが通報したようだ。
「ううむ、いかんな」
それに気付いて白衣の男が焦り始める。
そして、
「どうやら、ぶつかったのは気のせいだったようだ。では!!」
と、言ってゴツい外人と一緒に走って逃げだした。
「ち、ちょっと、待って下さい!! 気のせいって?!!」
慌ててタクシー運転手が呼び止めようとするが、二人ともあっという間に人混みに紛れて見えなくなってしまった。
「ええ~っ……」
途方に暮れながら、二人が逃げて行った方向と、フロントが大破した自分のタクシーを交互に見る。
「会社になんて説明すれば良いんだよ」
最後にそう呟くのだった。
路地裏を走って逃げるドクターと戦闘用アンドロイド、シャリ。
「タクシーは駄目だな、次は高級な自家用車をターゲットにしよう」
ドクターがそう言うと、
「承知しました」
タクシーと正面衝突したというのに、本当に掠り傷一つ負っていないシャリがそう答えた。
まあ、戦車に轢かれても彼のボディーを破壊するのは難しいのだが。
ただ、その高性能ボディーを使えば、もっと違う方法でお金を稼ぐことはできると思うのだが。
彼らは宇宙を股に掛ける凶悪な犯罪組織の構成員なのだ。
そのプライドにかけて、悪事以外で金を稼ぐつもりはないのだろう。




