おひめさまごっこ ~ドンゲルザッカーのなぞ (最終回)
「ただいまー」
姉の家に戻る。
「おーい。お菓子買って来たからお茶にするよ、オウルも食べる?」
風呂場に向かって声をかけると、
「ああっ?!」
攻撃呪文の使えない魔術師は声だけで、ものすごく不機嫌に応えた。
「このカビくさい風呂で何を飲み食いしろって言うんだよ。こんなところでものを食ってもカビの味しかしねえよ」
「いや、何もそこで食べなくても。ひと休みして居間に来れば?」
と誘うが、
「呪文構築の途中なんだよ。それに、最後までやらないと体にカビがうつった感じがして気持ちが悪いだろうが。くそっ、このカビども、根こそぎ滅ぼしてやるからなあ」
生真面目さが祟って、作業を中断することが出来ないようである。ロハスは放っておくことにした。
「バルガスさん、ただいま。誰か来た?」
「特に何もなかったな」
闇の魔術師は相変わらず、暖炉の前で魔導書をめくっている。
「もの取りの下見らしい者がひとり来ただけだ。脅して追い払っておいたが」
「えっ」
二度見してしまったが、相手はやはり涼しい顔だ。
「余計な世話だったかな?」
嗤う。
「いや、もの取りとかに入られて、義兄さんやセリアに何かあったら困るからありがたいけど」
実姉は大丈夫な気がする、何となく。
「では宿代がわりだ」
バルガスは肩をすくめた。
「うん、ありがとう。お茶を入れるけど、バルガスさんも飲む?」
「いただこう」
お茶くらいはふんだんに使わせてもらう。セリアには果汁をしぼってあげた。
二歳女児とその叔父と闇の魔術師で囲むお茶の時間。何だか異様な時間を過ごしている気もするが、深く考えないことにする。
「セリア、これがすきなの」
果汁をゆっくり味わいながら、焼き菓子を口に運ぶ。
「そうかね」
バルガスが律儀に相づちを打っている。甘いものなど食べそうもない闇の魔術師だが、こう見えて提供される飲食物は断らない性質であるとロハスは見切っている。なので並べる茶菓子は最小限にしておいた。
「ロハス叔父ちゃま」
セリアが何かを思いついたように言った。
「バルガスもだめなひとなの? オウルも?」
あっと思ったが遅かった。二歳児の口に戸は立てられない。
そっと横を見ると、闇の魔術師は実に冷ややかな薄笑いを浮かべていた。
「なるほど。君の我々への評価はよく分かった」
「いや、待ってバルガスさん。オレはただ、セリアのこれからの安全を考えてね?」
ロハスは焦る。
「船長は気にしないだろうが、オウル君やハールーン君はどう思うだろうな」
ヤバい。そうロハスは思った。オウルは根に持つし、ハールーンはもっと根に持つ。と言うかハールーンに恨まれた場合、直接的に身の危険が生じる。
「……申し訳ございませんでした」
ロハスは平身低頭して、隠していた茶菓子を二つ、バルガスの皿の上に積んだ。
バルガスはそれを馬鹿にしたような目で眺め、
「考えておこう」
と言ってから焼き菓子を取った。
「ロハスおじちゃま。おじちゃまもだめなひとなの?」
二人の様子から何かを感じ取ったらしいセリアが無邪気に尋ねる。幼い姪にそんな目で見られるのはとてもつらい。
がっくりと肩を落としたロハスに、
「それは君が自分で判断するといい、セリア君」
闇の魔術師の済ました言葉と、
「うん」
というセリアの素直なうなずきがとどめを刺した。
(おひめさまごっこ ~ドンゲルザッカーのなぞ・終)
お付き合いいただきありがとうございました。
次回は別の番外編を掲載します。よろしくお願いいたします。




