おひめさまごっこ ~ドンゲルザッカーのなぞ (4)
セリアを連れてロハスは家の外に出る。
坂道が急だから抱っこをしようと思ったのだが、
「あるく、あるくの」
小さな姪はロハスの手を振りほどいてひとりで歩きだしてしまう。転んでけがでもしたらどうしようとひやひやする。
しかも、意外に足が速い。脚が短い分を歩数で稼いでいる。油断していると、遠くまで行ってしまって焦る。
「おーい、待ってセリア。叔父ちゃまから離れないでよ」
「おひめさまとおよび! げぼく」
「……えーっと、おうちの外ではおひめさまごっこはお休みしようね?」
姉は世間体を気にする人なので、近所の噂になろうものなら激怒するだろう。そしてその被害は全部自分に来る。確言できる。
「つまんない」
「言うこと聞かないと、おやつ買わないよー」
「うー」
セリアは不満そうに唇を尖らせる。
「じゃあ、セリアのすきなおかしをかって?」
二歳にしてねだり方を心得ている。下僕についてはともかく、姉らしい教育方針が窺える。
「買う買う。ほら、お店が見えて来たよ」
くだんの店からは菓子の焼ける良い匂いが漂っていた。普段は出費にうるさいロハスだが、今日は姪可愛さにセリアが欲しがる焼き菓子を言われるままに注文する。ただし、値切り交渉は欠かさない。
セリアはそのうち飽き飽きして、ロハスの足元に座り込んでしまった。
「ロハスおじちゃま、おなかすいた」
「ん? そうかー。仕方ないなあ。わかった、今日はとりあえずこの値段で折り合いましょう。美味しかったらまた買いに来るから、その時は勉強よろしく」
帰り道はセリアがだっこをせがんだ。焼き菓子は『なんでも収納袋』に入れて、姪を抱き上げて坂道を登る。
「ねえ、ロハスおじちゃま」
「何? セリア」
「いま、ドンゲルザッカーじゃなくておじちゃまでよかった」
「何で?」
「ドンゲルザッカーは、よんほんあしじゃないとあるけないでしょ。ドンゲルザッカーだったら、とおくがみえなかったの。おじちゃまのだっこは、おかあさまよりとおくがみえるの」
「……そっか」
義兄は忙しいのだろうなと思った。自分が子供のころも、両親は商売に忙しかった。面倒を看てくれるのは上の兄姉と、年を取った祖母だった。
「でも、せんちょうのほうがとおくがみえる」
「えっ」
遠い記憶をたどっていたロハスは現実に引き戻され、姪の顔をまじまじと見た。
「船長に抱っこしてもらったの」
「うん。たかいたかいしてくれた」
「いつの間に」
セリアのことは、姉のリリアが厳重に流れ者たちから隔離しているはずである。ティンラッドが子供好きなことはロハスも知っているが、どうやってあの姉の目を逃れたのだろうか。
「セリア。これはマジメな話なんだけど」
「うん」
「いい人そうに見えても、よく知らない人にひょいひょいついていってはいけないよ」
「うん」
船長の行動にヤバみを感じたロハスの言葉は真剣である。それがわかるのか、セリアも神妙にうなずいた。
「お客様でもだよ」
「おきゃくさまも?」
「そう。ロハス叔父ちゃまの仲間は特にいけない。あれはダメな人たちだから」
「おじちゃまもだめなひとなの?」
「叔父ちゃま以外ね! 叔父ちゃまはいい人だから。それ以外はダメだから。ダメがうつるから」
よくわからない。そんな顔で首をかしげるセリア。
「とにかく、お母さまや叔父ちゃまのいないところで叔父ちゃまの仲間と遊んではいけません」
しっかり言い含めるとセリアはうなずいた。
「わかった。ドンゲルザッカーはロハスおじちゃまだけね」
「……うん」
ところで四本足でないと歩けないということは、やはり家畜なのだろうか。ドンゲルザッカーについて新しく明かされた新情報に、姪のこれからの成長がとても心配になるロハスであった。




