表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/50

波濤を越えて (4) 同じ日生まれの兄弟

 ちょうどそのとき、

「ティンラッドー!」

 町のほうから声がした。赤毛でメガネをかけた小柄な少年が、あわてた様子でオルムスたちのほうへ走ってくるのが見えた。


「チェリャ。こっちだぞ」

 ティンラッドが両手を振る。チェリャと呼ばれた少年はたどり着くと、

「すみません。ごめんなさい。こいつに悪気はないんです。よく言って聞かせますから、許してください」

 息を切らせながら、いきなりオルムスに頭を下げた。


「何であやまるんだ、チェリャ」

「どうせお前はあやまってないんだろう。だから代わりに僕があやまるんだよ」

「あやまる必要なんかないぞ?」

「お前がそう思ってるだけで、あるんだよ、たぶん、絶対」


 二人の掛け合いにオルムスは呆れて笑い、

「お前、普段どれだけ面倒ごとを起こして回っているんだよ、ティンラッド」

 と、背の高い少年の肩を叩いた。


「え? あれ……? 怒っていないんですか?」

 赤毛の少年はきょとんとする。

「だからあやまる必要なんかないって言ったじゃないか」

 背の高い少年は偉そうに、小柄な相手に言う。


「このひとはお店のお客さんで、オルムスって名前のお父さんだ。優しくていろいろなことを教えてくれるぞ。オルムスお父さん、これはチェリャだ。俺の兄弟だ」

 そう言ってティンラッドは、赤毛の少年をオルムスの前に立たせる。突き飛ばすような勢いの良さだったが、たぶん紹介しようとしているのだろうとオルムスは思った。


「ええと。あの。申し訳ありません」

 チェリャは、オルムスの顔を見上げてすまなそうに繰り返した。

「お客さんを『お父さん』と呼ぶなって、みんなで言い聞かせているんですが、こいつバカで頑固だから言い出したら聞かなくて」


「ああ、いいよ。だんだん慣れてきたよ」

 赤毛の少年があまりにすまなそうなので、オルムスはそう言って肩をすくめた。

「知らない人間に聞こえるような大声で叫ばなけりゃ、まあ、好きに呼べばいいよ」


「そうか。ありがとう、やっぱりオルムスお父さんは優しいな」

 ティンラッドが顔を輝かせる。

「バカ。諦められてるんだよ。甘えるな、ちゃんと節度をもって接しろ。お客さんは、お父さんじゃなくて他人なんだよ」

 チェリャがきつい口調で言う。なかなか息が合った二人組だ、とオルムスは思う。


「兄弟ってことは、お前もあの娼館の子なのか」

 たずねると、赤毛の少年は黙ってうなずいた。

「俺と同じ日に生まれたんだ」

 ティンラッドが誇らしげに言う。


「へえ」

 オルムスは驚いた。ティンラッドは十五、六かと思うくらいに体格がいいが、チェリャは逆に幼く見える。骨格が華奢で顔立ちも柔和なので、女の子だと言われても信じてしまいそうなくらいだ。


 けれど、そう言われるのは男として屈辱だろう、とも思う。だから彼はただ、

「同じ日に生まれて同じ場所で育った割には、性格はずいぶん違うんだな」

 とだけ言った。軽い調子で。


「チェリャは兄貴ぶるんだ。三時間だけ先に生まれたからって」

 ティンラッドは不服そうに口をとがらせる。そうすると、年相応の子供の顔だった。


「お前が騒ぎばっかり起こすからだよ! もう子供じゃないんだ、いいかげんに常識を身につけろ」

 言い返すチェリャは、確かに兄然とした態度だ。説教相手のティンラッドより背丈が小さいことを除けば。


「お前ら、仲がいいな」

 オルムスが笑うと、少年たちは照れたように互いにそっぽを向いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ