波濤を越えて (4) 同じ日生まれの兄弟
ちょうどそのとき、
「ティンラッドー!」
町のほうから声がした。赤毛でメガネをかけた小柄な少年が、あわてた様子でオルムスたちのほうへ走ってくるのが見えた。
「チェリャ。こっちだぞ」
ティンラッドが両手を振る。チェリャと呼ばれた少年はたどり着くと、
「すみません。ごめんなさい。こいつに悪気はないんです。よく言って聞かせますから、許してください」
息を切らせながら、いきなりオルムスに頭を下げた。
「何であやまるんだ、チェリャ」
「どうせお前はあやまってないんだろう。だから代わりに僕があやまるんだよ」
「あやまる必要なんかないぞ?」
「お前がそう思ってるだけで、あるんだよ、たぶん、絶対」
二人の掛け合いにオルムスは呆れて笑い、
「お前、普段どれだけ面倒ごとを起こして回っているんだよ、ティンラッド」
と、背の高い少年の肩を叩いた。
「え? あれ……? 怒っていないんですか?」
赤毛の少年はきょとんとする。
「だからあやまる必要なんかないって言ったじゃないか」
背の高い少年は偉そうに、小柄な相手に言う。
「このひとはお店のお客さんで、オルムスって名前のお父さんだ。優しくていろいろなことを教えてくれるぞ。オルムスお父さん、これはチェリャだ。俺の兄弟だ」
そう言ってティンラッドは、赤毛の少年をオルムスの前に立たせる。突き飛ばすような勢いの良さだったが、たぶん紹介しようとしているのだろうとオルムスは思った。
「ええと。あの。申し訳ありません」
チェリャは、オルムスの顔を見上げてすまなそうに繰り返した。
「お客さんを『お父さん』と呼ぶなって、みんなで言い聞かせているんですが、こいつバカで頑固だから言い出したら聞かなくて」
「ああ、いいよ。だんだん慣れてきたよ」
赤毛の少年があまりにすまなそうなので、オルムスはそう言って肩をすくめた。
「知らない人間に聞こえるような大声で叫ばなけりゃ、まあ、好きに呼べばいいよ」
「そうか。ありがとう、やっぱりオルムスお父さんは優しいな」
ティンラッドが顔を輝かせる。
「バカ。諦められてるんだよ。甘えるな、ちゃんと節度をもって接しろ。お客さんは、お父さんじゃなくて他人なんだよ」
チェリャがきつい口調で言う。なかなか息が合った二人組だ、とオルムスは思う。
「兄弟ってことは、お前もあの娼館の子なのか」
たずねると、赤毛の少年は黙ってうなずいた。
「俺と同じ日に生まれたんだ」
ティンラッドが誇らしげに言う。
「へえ」
オルムスは驚いた。ティンラッドは十五、六かと思うくらいに体格がいいが、チェリャは逆に幼く見える。骨格が華奢で顔立ちも柔和なので、女の子だと言われても信じてしまいそうなくらいだ。
けれど、そう言われるのは男として屈辱だろう、とも思う。だから彼はただ、
「同じ日に生まれて同じ場所で育った割には、性格はずいぶん違うんだな」
とだけ言った。軽い調子で。
「チェリャは兄貴ぶるんだ。三時間だけ先に生まれたからって」
ティンラッドは不服そうに口をとがらせる。そうすると、年相応の子供の顔だった。
「お前が騒ぎばっかり起こすからだよ! もう子供じゃないんだ、いいかげんに常識を身につけろ」
言い返すチェリャは、確かに兄然とした態度だ。説教相手のティンラッドより背丈が小さいことを除けば。
「お前ら、仲がいいな」
オルムスが笑うと、少年たちは照れたように互いにそっぽを向いた。




