おひめさまごっこ ~ドンゲルザッカーのなぞ (2)
「しかたないからセリアが教えてあげます。まずね、ドンゲルザッカーはおっきいの」
思い切り背伸びをしてその大きさを示そうとするが、その手はロハスのももの途中くらいまでしか届かなかった。
「うーん、えっと」
ロハスは判断に迷った。
「とにかく、大きいんだね? あー、セリアのお父さんくらいかなあ?」
父親といつもやっている遊びだろうかと見当をつけて聞いてみるが、
「ちがう。おとうさまより、ずーっとおおきいの」
セリアは首を横に振る。
「え。そうなの。じゃ、ええと……。この家くらい……?」
「ちがう」
「も、もっと大きいの?! 商人組合の建物くらい?」
「ちーがーうーの」
ご機嫌が悪くなってきた。
ロハスはまたバルガスを振り返った。闇の魔術師はまた、本に没頭しているふりをした。
どうやら想定以上の巨大魔獣であるらしいが、おひめさまとドンゲルザッカーの関係はいったいどのようなものなのであろうか。
「え、えーと、セリア。おじちゃま、旅の途中でいろんな魔物と戦って来た(誇張)けど、そんな大きいのは見たことないなあ。おうちに入れないくらい大きいと、魔物さん大変だね?」
ロハスは戦法を変えた。セリアからドンゲルザッカーの概要を聞くのではなく、自分が理解可能な範囲に設定を変更させる。『交渉術』の応用で可能なはずだ。
「ちーがーうー。おうちには、はいれるのー」
……なぜか怒られた。
「あ、家には入れるんだ」
「はいれるの!」
どうしてこの相手はこんなにものわかりが悪いのか。セリアは明らかにそう考えている。表情にそれが出ている。たぶん『おじちゃま』から『オッサン』に格下げされている。
「えっと、もう一度確認してもいいかな、セリア。ドッゲルザンガーってさ」
「ドンゲルザッカーでしょ!」
「……ドンゲルザッカーって、どのくらいの大きさなのかな。教えてもらえる?」
直截的に聞く。これはこれで交渉術である。
「わかった。ドンゲルザッカーはね」
策が功を奏したのか、セリアは案外簡単にうなずいて情報を口に出した。
「せんちょうくらい」
衝撃の事実が明かされた。
「え、船長? 船長って、うちの、あの船長? 確かに義兄さんより背が高いけど。え、あのくらいなの、ドンゲルザッカーって」
「そう」
セリアは厳粛にうなずいたが、ではこれまでの会話は何だったのか。
商人組合の支部より大きな、町を踏み潰して歩く巨獣を思い浮かべてしまった男たちの想像力はどう鎮めれば良いのか。
「……わかった。うん、わかった。船長くらいね」
ロハスは無理やり自分を納得させる。たとえ顧客の提示したものが理屈に合わなくても、それは彼の関知するところではない。彼が判断すべきは、『理屈に合うかどうか』ではなく『間尺に合うか』である。
今回の場合、ドンゲルザッカーの大きさについてこれ以上セリアと言い合っても利益は何もない。彼の任務は、姉が帰って来るまで姪を機嫌よく遊ばせておくこと。
であれば、既に提示された情報を元におひめさまごっこを遂行するのみである。
「それで、ドンゲルザッカーって何なのかな。……魔物?」
悪役は嬉しくないが、そういう役を振られるのは子供時代の経験で慣れている。姉や妹は平然と男の兄弟に『不細工な怪物役』を振って、自分たちは『可愛くてきれいなお姫さま』を演じていた。
姉妹とはそういうものである。不幸にも姉妹を持ってしまった男は、甘んじてそれを受け容れねばならぬ運命なのだ。




