小銭は魔力で増やせるか (1)
スフレ先生の同人誌「レジェンドノベルス第?巻」vol.2 に寄稿させていただいた作品を、小説家になろうのフォーマットに合わせて行間などを調節したものです。砂漠に行くより前の旅のどこかでの、野宿のつれづれの無駄話です。
ある晩、野営のつれづれにオウルはバルガスと魔術談義をしていた。
バルガスのことは気に食わないが、他の連中と毎度変わらぬくだらない話をするよりは魔術談義のほうが百倍マシである。専門用語が飛び交う会話には、他の誰も入って来ない。良いことである。
……と思っていたら、
「魔術ってさあ」
暇そうな様子のロハスがくちばしを突っ込んできた。
「話に入って来るなよ」
オウルは顔をしかめた。人生とは有限の資源であり、オウルはそれを浪費したくないのだ。少しでも有意義なことに使いたい。
しかし、
「邪険にしないでよ、冷たいなあ」
当然ながら、オウルに塩対応をされたくらいでひるむロハスではなかった。口から生まれてきたような男であるから、どんな話題であっても参加せずにいられないのかもしれない。
「ロハス君は魔術に興味があるのかね」
バルガスが冷ややかな笑みを浮かべた。どうやら相手をする気になったらしい。迷惑極まりないとオウルは思った。
「あるようなないような」
ロハスの返事は、やはりもやっとしたものである。どうでもいいなら参加しようとしないでほしいとオウルは心から思った。
「君も微量だが魔力持ちのはずだな。ならば魔術の基礎くらいは勉強したことがあるのではないかね」
バルガスが尋ねる。
名家に生まれた者なら幼いころから魔術師や神官を家庭教師に教育を受ける。読み書きや算術と一緒に魔術理論の基礎くらいは学ぶらしいが、一般の家の子供はそうもいかない。自分の名前くらいなら誰でも書けるが、魔術となると学べるものは限られてくる。
それでも多くの町や村の神殿で、付近の子供を対象にした魔力測定は遠い昔から行われてきた。魔力持ちとわかった子供はしばらく神殿に通い、魔術の基礎を学ぶのが普通である。
「いや、全然? オレ、勉強したことないよ」
そんな世の常識に反して、ロハスはきっぱりと首を横に振った。
「子供のころから商人以外になるつもりはなかったし。よくわからない魔術の勉強とかするより、帳簿のつけかたでも練習したほうがお得じゃん?」
それはお得とかお得じゃないとかいう問題なのだろうか。オウルはなんとなくバルガスと顔を見合わせた。闇の魔術師はこれ見よがしなため息をついて首を横に振った。
「もったいないことをなさいますな、ロハス殿」
アベルも眉をひそめた。
「わずかといえども才能は神からの贈り物です。きちんと研鑽すべきでしょう」
それはそのとおりなのだが、『お前が言うな』とオウルは思ったし、たぶん全員がそう思った。アベルこそ自分の能力をきちんと研鑽してもらいたい。切実にそう思う。
「してるよ、研鑽」
ロハスは自信ありげに言い返す。
「オレは商人としての能力を磨くことに全振りしてるの。いいかいアベル、時間も有限なんだよ。研鑽のために使える時間には限りがある。だったら何を優先するかはきちんと見定めていかなきゃダメでしょう」
それも『お前に言われたくない』とオウルは思う。その研鑽とやらの結果は、あやしげなものを安値で買い入れ、少しでも高く売り払うことに血道をあげることなのだ。貴重な人生を無駄にしているとしか思えない。
「神殿での測定は、魔力のある人間がその力によって事件を起こすことがないように、予防の意味もあって行われているはずだが。魔力操作の初歩くらいは学んだはずだろう」
バルガスはそこのところが気になる様子である。
しかしやっぱり、
「受けろ受けろって、神官様に口うるさくは言われたけど」
ロハスは飄々としていた。
「面倒くさいから一回も行かなかったー」
処置なし、とバルガスは両手を上げる。
「君は立派な不穏分子だな、ロハス君」
「いやだって、オレの生まれた町ではそんな講習を受けに行くやつなんかいなかったよ」
ロハスはしれっと言う。
「魔力があるって言われても、大魔術師になれるわけでもないんだし。『大した才能ではないが、火種なしで火をつけるくらいは出来るようになるかもしれない。念のため講習を受けておきなさい』なんて言われて、面倒くさい勉強をする気になる? 火なんか火打石でつけるよ。呪文を唱えたら上着に入れた小銭が二倍になる術とかを身に着けられるんだったらやるけどさ」
「魔術を何だと思ってるんだよ。バカか。そんな術、あるわけないだろう」
ついオウルはツッコんでしまった。
しかしロハスは真顔で、
「うん、そんなの無理、出来ないって言われた」
とうなずく。
「神官に聞いたのか。本気でバカなのか」
「何でも確かめておかないと。ナシだろうって勝手に思いこんだことが、実はアリだったりしたら損するじゃん。うーん、でも残念だなあ、やっぱり出来ないのか。オウルだったらもしかしたらって思ってたんだけど」
「何で俺にそんな望みを託すんだよ。そんな術はねえよ」
「だってオウルって、いろいろ細かいことに使える術を知ってるしさ。今からでも編み出せない? 小銭が勝手に増える呪文」
「俺の魔力も人生も、そんな術を編み出すためにあるんじゃねえ。やめろバカ」
夢をあきらめないロハスと、本気で嫌な顔をするオウル。
アベルも『やれやれ』と肩をすくめて、また口をはさむ。
「教育を受ける機会を自ら放棄したとは。情けないことですな、ロハス殿」
またしても『お前が言うな』案件である。ロハスは教育を受ける機会をゴミ箱に直行させたが、アベルは受けたはずの教育をドブに捨てている。五十歩百歩だ。
オウルはため息をついた。視界の隅で、バルガスが冷笑していた。




