幻想は現実を超えうるか (最終回)
「オレはね」
話を変えようとするかのように、ロハスが声を張り上げる。
「料理も大事ではあるんだけど、環境のほうが大事だと思うんだよね。つまり」
少しためてから、
「作ってくれる人がかわいい女の子であること」
と得意気に結論を言った。
「またそれかよ」
オウルはうんざりする。
「大事なことだよ。そんなにすごい美人じゃなくてもいいんだ。ちょっとかわいくてさあ、おっぱいがこう……広げた手で包みこめるくらいの大きさで」
「もっと大きくてもかまいませんぞ」
とアベルが茶々を入れる。
「いや、もう食べ物関係なくなってるよな?」
オウルもツッコミを入れたが、かまわずロハスは話を続けた。
「オレが帰って来ると夕食の支度が出来ててさあ。普通の煮込みとパンでいいんだ、中味は肉もいいけど、時には魚の切り身やカニなんかでもいいな。野菜は旬のものを入れて、果物も添えてくれると嬉しい」
何だか悔しいが、十分においしそうだった。家庭料理も良いものだ。
「ロハスさん、おかわりはいりませんか? なんて優しい声で言われてさあ」
ケチな商人はうっとりと言う。自分の妄想に酔っているようだ。
「もちろん料理もこんな薄味じゃなくて、時間をかけて煮込んだまろやかでコクのある……あ」
言いかけてロハスは口をつぐんだ。オウルは睨んだ。
「今、こいつ、料理がまずいって認めたよな」
「認めましたな」
「そのようだな」
冷たい視線がロハスに集まる。ロハスは咳払いした。
「えーと、あの」
誰も答えない。
「そのね」
やはり沈黙が返って来る。ロハスはついに屈服した。
「わかった。今の話でオレも腹が減ったし、今日は特別にしよう。もしかしたらそろそろカビが生えるかもしれない麺があるから、鍋に入れて食べようよ」
もちろん非難の声が上がった。
「大丈夫、大丈夫だって。砂漠は乾燥してるから大丈夫だって」
ロハスは言い張ったが、『この男が金を握っている限り、自分たちは旅の途上でろくなものは食べられない』と全員が確信した。
麺にはかろうじてカビは生えていなかったが、もともとうまくもない煮込みの味がそれで良くなったりはしなかったことを付け加えておく。
ただし、腹だけはふくれた。
(終)
お付き合いいただきありがとうございました。これをひとさまの本に寄稿した私の勇気(蛮勇)。
次のお話にもお付き合いいただけましたら幸いです。




