幻想は現実を超えうるか (2)
「ほらほら、みんなもどんどんおいしいものを想像して」
ロハスは急かした。
「船長はどんなものが好き?」
「そうだなあ」
ティンラッドは煮汁をすすり、首をかしげて考えてから答える。
「私は何でも食べるが、久しぶりに食べたいものといえば海の魚かな。凪いでいて暇なときとか、魚の群れに行き当たったときはな、こう、船から釣り糸をたらすんだ。すると、釣れる」
「釣れるのか」
オウルはつい、話に引き込まれて尋ねてしまった。
「釣れるんだ」
ティンラッドはうなずく。
「はらわたを出して、塩を振って甲板で焼く。魚は釣りたてが一番うまいから、そんな簡単な料理でもうまい。思い出しただけでよだれが出るほどうまい」
そう言って船長は、手にした煮込み料理を少しばかり恨めしげに見た。その気持ちはよくわかった。
「なんかうまそうだな、船長の話」
「うん。今度、オレたちも釣りをしようか」
「魔魚しか釣れないがな」
「いいじゃん、毒がなければ」
話しながら、オウルはこの作戦はどうやら失敗ではないかと思い始めた。想像上の料理がうまそうであればあるほど、現実のわびしさが際立ってくる気がする。
「バルガスさんはどう?」
次にロハスは闇の魔術師に水を向ける。あまり期待をしていない口調だったのは、西の砦の彼の住まいの簡素さを覚えているからであろう。
「私は食事にこだわりはないがね。だからと言って君の方針に満足しているわけではないが」
ちくりと言ってから、バルガスも少し考える様子を見せた。
「好物というほどではないが、ひとつ思い出した。魔術師の都にいた頃に、たまに行った店なのだが。南方の料理をだすところでね。小麦粉を粒にした素材を炒め、いろいろな野菜や肉、豆などの煮込みと一緒に食べる。見た目はぱさぱさしていてさほどうまそうでもないのだが、意外にどんな味付けにも合う。あれはまた口にしたいものだな」
「もしかして、金物小路の傍にある小さな店か? 店主の名前はロイタレだったかな。そこだったら俺もよく行ったぜ」
そこならば安くてうまくて、貧乏な徒弟にはありがたい店だった。そう思ってオウルは聞いたが、
「知らんな。私が行っていたのは、アルガ師の塔の近くのソリャノの食堂だ」
バルガスはにべもなく否定する。同じ系統の料理でも、値段がひとケタ違うはずの店だった。
「そういうオウル君はどうかね。その何とかいう店の料理か」
皮肉っぽく言われ、イラっとしたオウルは全力で考える。ここはバルガスよりもうまそうなものを思いつかないと腹が癒えない。だが子供のころからの貧乏暮らしのおかげで、なかなか思い浮かばない。
「不参加かね。それではロハス君」
「待て。ちょっと待て」
何でバルガスが仕切っているのか。ツッコミたいのをこらえ、オウルは必死で記憶の中からうまいものを探し出した。
「あれだ、あれ、ほら。パンを焼いた時、端っこの方が焦げるだろう。あれがカリカリしてて妙にうまい」
一瞬、座が静かになった。それから、
「そうだな。あれはうまいな」
「うんうん。オレも子供のころ、料理人に頼んでかまどに落ちたのを食べさせてもらってたよ」
「そうですな。おいしいですな」
皆が急いで同意してくれた。なぜかオウルはひどく屈辱的な気分になった。バルガスが冷笑していたからかもしれない。




